異世界転移して獣人王子様に見初められた俺がオメガになって世界を救う、かもしれない!?

わをん

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017-① 災難!?

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 標的が、俺。

 そんなこと……。

 とうに知ってた気がする。

 俺だってそこまで呑気じゃない。最近まで要塞の奥まった塔で軟禁状態だったんだ。

 ある方向から見たときに、俺の存在が傍迷惑だったんだろう。察したよ。

 望んだわけじゃないが、俺自身が困惑するほどに、これまでかなり大事に扱われてた。

 この国は俺を必要としてるみたいだぞ。ありがたいなぁって思ってた。

 スキルのない俺に何ができるかはわからなかったけど。

 オズが言ってたとおり、お姫様扱いは悪くなかった……。

 でも、そうだな。そろそろ俺の運が尽きる頃合いか……。



 天井ではカラスがカアカア言いながらステンドグラスを割っている。

 俺は祭壇下に立つコンラートを見る。

 後ろからだとマントに遮られてよく見えなかったが、剣を引き抜いて構えているようだった。
 
 コンラートから発せられる凄まじいアルファの攻撃用のフェロモン。普通のサベラやニンゲンが速攻で屈するだろう。

 なのに、あのネズミ。衛兵を振り払いながら、祭壇前に仁王立ちしてるコンラートに一直線に向かってくる。

 いや、俺に向かって?

 あのネズミは何なんだ?

 サベラでもニンゲンでもないのか?

 ウィルが俺を片腕で力強く抱きしめてくる。

「お前は誰にも渡さない」
「えっ」

 ウィルはさっきからどうしたんだ。こんなところでこんなときにキザなセリフで俺を落としてきてどうすんだ!

 俺が思ってることなんてウィルには直ぐに伝わってしまうんだ。恥ずかしいったらない。

 今は戦闘状態だ。

 脇目も振らずに突進してきたネズミの体は、祭壇前の砦のように立つコンラートによってあっさり跳ね返された。

 中央通路に吹き飛ばされたネズミの体は石の床を三回バウンドして、最後は動かなくなった。

 それを見ても衛兵に動揺はない。つまりはいつものコンラートだということ。

 獣人隊長が恐ろしいんだけど!!

 コンラートは見た目どおりに強いんだ。

 二階のギャリーから二匹目がこちらに向かってくる。衛兵の猛追を飛び跳ねながらかわしてる。ピョンと跳躍、素早く一階に着地。速い。

 ネズミというには違和感がある。

 ネズミという割にそこまで小さくない。少なくともタヌキ先生より大きい。

 その顔はマスクに隠れていて目すら見えない。

 俺たちは祭壇から離れられない。招待客は逃し、ここで敵を迎え撃つ。

 何故ならば。

 標的が俺だからだ。



 ウィルがマントを外した。

 俺はこの衣装が重くて動けない。ただでさえ役立たずなのに。

 お飾りか、俺は。

 こうなることがわかっていたなら、こんな衣装は着たくないと言えたのに。

「撃たれたかったのか?」

 ウィルが言った。俺の頭の中を読んだんだ。

「カラスがだいぶ荒らしたな。今なら狙撃手は丘の向こうからお前を簡単に狙えるぞ」
「な……」
「それでも良ければ脱ぎ捨てろ」

 ドカンと音がした。向かってくるネズミの足に何かが刺さった。

 ネズミの足にチェーンが巻きついている。ネズミは倒れるが、なおも前進しようとする。なんて根性。チェーンは衛兵が投げたのか、撃ったのか。

 倒れたネズミを飛び越えて別のネズミが勢いよく祭壇前に躍り出る。このネズミはどこから? すかさずコンラートが前に出て剣で薙ぎ払う。

 コンラートは速さでも力でもネズミより優位だ。

 近衛隊の隊長は軍のトップも兼務する。コンラートはたぶん結構いい年だ。だから前線には立たないのかと思っていた。
 
 そんなわけなかった。戦い慣れしている。

 カラスが天井のガラスを破り散らかしてしまったから、空から雨が降ってきた。

 ネズミの群が紐を伝って降りてくる。

 聖堂内のあちこちでケンカの音が響く。

 怖い。

 ネズミが束になってもコンラートには勝てない。

 大混乱な中でネズミが次々と倒されていく。

 ネズミは俺を殺したくてやってきたんだと思うと複雑だ。

 ネズミ取り……。

 俺は見てるだけでいいのか?

「落ち着いてきたな」
 
 ウィルが俺から手を離した。

 そのとき、遠くの方で遠吠えが聞こえた。あのときと同じだ。俺が変な奴らに捕まったときと。

「これは何なんだ、ウィル」
「何だ、とは?」

 俺は壇上から争いを見ているだけ。

 施政者の目線か?

 何それ。しかも、この俺が大将首?

 血飛沫が飛び交う地獄の入口。

「カイ? 何してる」
「見ればわかるだろ」
「脱ぐのか」
「脱ぐ。後ろの金具取って。バカらしいだろ、この服。重くて何にもできないんだぞ。早く脱がせよ」

 俺は被り物をさっきまで座っていた椅子の上に置く。開放感に息が漏れた。

「はぁぁ、肩凝った。……って、何」

 ウィルが笑ってる。なんでそんなに笑うのかわからないくらいに、この非常時に声を立てて笑ってる。

 なお、この時点での祭壇は、幾重にも衛兵が取り囲んでネズミの侵入を阻止してくれている。

 その向こうでコンラートが何匹ものネズミを一人で相手にしている。

 現状で、ネズミが向かう先は近衛隊の隊長であるコンラートだ。

 でもコンラートは強い。

 次から次へと湧いてくるネズミを的確に無駄な動きなく退治していく。

 狂気の人海戦術にはネズミへの同情も湧いてくる。

 そのとき、コンラートと衛兵を飛び越えて一匹のネズミが飛んできた。ネズミの身体能力は俺にとっては未知だ。ゴムボールのように跳ねる。その体はバネのようだ。

 俺の目の前に着地する。

「うわっ」

 しかし、そこでネズミは一瞬の隙すら与えられなかった。ひとたびウィルが薙ぎ払えば、ネズミは突風に吹かれたように遠くの柱まで飛ばされる。

 気づかなかったが、ウィルはいつの間にか大剣を抜いてる。剣で払って敵をあそこまで吹き飛ばすなんて。ウィルのポテンシャルもハンパない!

「カイ」
「何」
「急げ、ほら。早くこれを俺に」
 
 急にウィルが言うので、着替え途中に引っ張られるまま手を伸ばした。


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