異世界転移して獣人王子様に見初められた俺がオメガになって世界を救う、かもしれない!?

わをん

文字の大きさ
65 / 95

017-② 災難!?

しおりを挟む


 ウィルが大剣を脇に挟んで、俺の手を取った。

「えっ」
 
 指輪を掴まされたところに指を入れられた。俺がウィルの指に指輪を入れたことになった。

「あっ」

 ウィルの指に、俺のと同じように絡まる不思議な指輪。急に俺の常識を試してくるな、この世界は!

 指輪を嵌めただけなのに、俺の気持ちが静かに凪いでいく。

 外野は騒がしい……。でも俺とウィルの間には静かで穏やかなときが流れる。

「これでお前の位置がわかるぞ」
「えっ」

 位置情報共有システム? こんなのが? そして、俺が吃驚している間に!
 
 ペロッ!? また口を舐められた!

「またっ!」
「匂いづけだ」
「そんなに何度もしなくていいだろ……」
「したっていいだろ」

 ウィルの行動にいちいち反応してたらダメだ。

「まあいいや、もう」

 俺は背中の留め具を外してもらって、檻みたいな衣装を急いで脱ぐ。折角ジーンが作ってくれた特注だけど、この服には機能性が欠けている。

 下には平服を着てる。いつもの格好になったら、だいぶひんやりした。聖堂の中は寒かったんだ。

「殿下」

 俺たちの後ろには、ずっと枢機卿がいた。

 その更に後ろにデーンと建っている大きな女性像、ノエル様みたいに悟ったような雰囲気を醸し出してるが、若干怒っているように見える。

「くれぐれも理性を失われませんよう」
「ああ。せいぜい祈っていてくれ」

 ウィルが上を見た。黒いカラスが天井を覆うように飛び回っていた。

 カラスは聖堂内の小物や窓やステンドグラスを突いて割るばかりでなく、喚きながらあたりに糞を撒き散らし、全てを汚す。

 その下ではネズミがその数を増殖している。

 ネズミは体躯の大きいサベラに容易には勝てない。しかし、押してきてる。

 数で圧倒してここまでやってきた。

 衛兵はネズミに倒されるというよりもその素早い動きにすっかり翻弄されている。

 が、倒されたネズミの数はそこかしこで山積みになるほどだ。

 あの様子だと、ネズミはここにやってくるために相当多くの犠牲を払ったはずだ。

 遠いキフィソスから、積年の恨みを抱いて。

 だが、まるで使い捨ての駒のようにヴァルラのサベラに倒されていく。

 俺を殺したいから。それだけのために命を捨てて。

 どんだけ死にたがりなんだ。

 そうじゃない。

 きっかけがある。

 俺だ。俺がこの世界に来たからいけないんだ。

「カイ」

 ウィルが俺の前に出る。

「それは違う」
「何が違うんだ……」

 またネズミが飛んでくる。ウィルはその顔を空いてる手で鷲掴みにする。

「こいつらはな」

 ウィルが投げたネズミの体が宙に舞う。

 こいつはこいつで何してんの……。

 祭壇にネズミがじりじりと上がってきた。コンラートも衛兵も手一杯の状態のようだ。

 ウィルが大剣を緩く構える。

「こいつらはお前を助けに来たんだ、カイ」
「え」

 俺は俺の意思でここにいるよな?

 まあ、ウィルに流されてるところはあるけど。

 助けてなんて言ってない。帰りたいとは思ったけど。

「勿論、そんなものは建前だ……」

 ウィルから発せられるアルファのフェロモン。コンラート以上の戦闘用……。

「男オメガが欲しいんだよ、こいつらは。俺のヨメがな」

 囲われた。鳥人間ら教会の人間と一緒にだ。

 俺が今いる、この国は。

 まるで絵本の世界みたいにニンゲンとサベラが混在していて、一見して平和そうに見えるが、以前は違った。

 あらゆる国を敵に回して喧嘩三昧だった。

 そのときに、黒ずくめのネズミたちの故郷であるキフィソスもコテンパンにしてしまった。

 そのせいで、キフィソスは国土を減らした。

 この国、ヴァルラは恨まれている。

 勿論、弱体化したキフィソスに援助した。したところで、過去は消えないわけだ。キフィソスとは定期的にドンパチしてるらしい。

 今のヴァルラは平和を望んでいる。大量の奴隷を完全に解放するまでに百年かかったそうだ。その間も戦争は継続されていた。

 一度始まった諍いはやすやすとは鎮まらないものだ。
 
 様々な種族が自由に街を行き来しているのを見て、すごいなんて俺は呑気に思っていたけれど、殆どが他国から連れてきた奴隷なのだ。

 この国の過去は重い。
 ジークはキフィソスの話をしたとき俺に本当のことを言わなかった? 標的は初めから俺だった……?

 俺の先生はみんなで俺に現実を見せてきた。その中にははっきり明言してこなかったこともあるけど、それなりに理解して察したつもりだ。

 オメガが必要なのはヴァルラだけじゃない。でも、ヴァルラが一番オメガを欲しがってる。

 だから、オメガの件で他国が茶々を入れてくる。

 オメガは神秘な存在なんだ。それがヴァルラばかりにいるのは何故だと。

 不公平だ。

 ティタジェイルはグランバーグを守る城壁を兼ねた街だ。
 
 グランバーグにいるのは力の強さで他を圧倒するアルファ。

 グランバーグは敵からの侵入を防ぐだけの要塞ではない。
 
 さっき、王様はたぶん地下道でグランバーグに戻った。

 俺はこの国の文献からしか学んでないから、本当のところはどうかわからないけど。

 王様は自らグランバーグに籠ってるんだ。

 自衛をしながら。オメガの存在によって感情を抑えながら理性的に。

 最強伝説を持つ王様が前に出た瞬間に、大戦争になるから。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。

篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。  2026/01/09 加筆修正終了

氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

黄金 
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻! だったら離婚したい! ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。 お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。 本編61話まで 番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。 ※細目キャラが好きなので書いてます。    多くの方に読んでいただき嬉しいです。  コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。    

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界に転移したら運命の人の膝の上でした!

鳴海
BL
ある日、異世界に転移した天音(あまね)は、そこでハインツという名のカイネルシア帝国の皇帝に出会った。 この世界では異世界転移者は”界渡り人”と呼ばれる神からの預かり子で、界渡り人の幸せがこの国の繁栄に大きく関与すると言われている。 界渡り人に幸せになってもらいたいハインツのおかげで離宮に住むことになった天音は、日本にいた頃の何倍も贅沢な暮らしをさせてもらえることになった。 そんな天音がやっと異世界での生活に慣れた頃、なぜか危険な目に遭い始めて……。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

転生したら猫獣人になってました

おーか
BL
自分が死んだ記憶はない。 でも…今は猫の赤ちゃんになってる。 この事実を鑑みるに、転生というやつなんだろう…。 それだけでも衝撃的なのに、加えて俺は猫ではなく猫獣人で成長すれば人型をとれるようになるらしい。 それに、バース性なるものが存在するという。 第10回BL小説大賞 奨励賞を頂きました。読んで、応援して下さった皆様ありがとうございました。 

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

処理中です...