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017-③ 災難!?
しおりを挟むザザザと何かを擦るような音がして、上を見た。
天井を旋回していたカラスが凄まじい悲鳴をあげて、クルクル回りながら落下し始めた。
石の床にパタパタと落ちていく。
何だ?
枢機卿が何かしたのかと思って見てみたらまだ悟ったような顔をしてる。
今の俺が見えるのはウィルの後ろ頭だけ。
詰め寄ってきていたネズミも倒れてる。
強いとかそういう問題じゃない。
ウィルは気迫だけ遠くの鳥を気絶させてしまった。
チート持ち、顕在。
一瞬、周囲の音が消えた。
それからまた、不穏な音が立ち始める。
祭壇に上がって目前まで迫ってきていたネズミがバタンバタンと倒れていく。
ネズミたちは死んだのか、気を失っているだけなのか。わからない。
祭壇下のコンラートが剣を下ろすのが見えた。コンラートの息継ぎが聞こえた。
俺はウィルの服の裾を掴む。
「ウィル……、お前、今」
「……カイ、お前は相変わらずだな」
「何が?」
重装備の衛兵までユラユラしてお互い支え合っている。
俺にはこのとき発せられたウィルのフェロモンが全然効いてなかったんだ。
「それでこそ俺の番だ」
ウィルが自らの意思で解き放つ攻撃フェロモンは、味方の衛兵までも巻き込んでしまうのだ。だから、簡単には使えない。
しかもウィルはたぶん、戦闘能力だって誰よりも高い。
ウィルは王様の力を受け継いでいる。本気を出せば一瞬で世界を変える。
これは……、おめでたい話なのか?
辺りを見渡せば、倒れたネズミで聖堂内に足の踏み場がなくなっていた。
遠吠えが聞こえた。切ない孤独を知らせるような、合図。
「殿下」
衛兵に紛れていたジークがウィルに近寄ってくる。
「最後の一団が来ます」
そのとき、ヒュッと風を切るような音がした。音のした方を見たら、ネズミが俺に向かって剣を振り上げていた。
本能と半身で避けられたのは奇跡だ。
ネズミが次に剣を振り上げたとき、ウィルが俺の前に出て素手でネズミの剣を叩き落とした。これはもう、コンマ何秒の世界だ。
ネズミはもう一本の剣を抜いて俺めがけて振り上げる。
速い。
「!?」
やっぱりこれ、俺を殺す気満々で来てるけど!?
と思ったらば、そのネズミが横から突き飛ばされた。剣を手放し、ネズミは回転しながら仲間が倒れている上に着地して、祭壇下へ逃げるように跳躍する。
その後を追う人を見て、俺は息を呑んだ。
「アンバー!?」
体のラインを露わにした赤紫色のドレスを着て、ハイヒールを履いているのにも関わらず全力疾走だ。しかも、倒れたネズミの頭を次から次へと狙ったように踏み潰して!
招待客としてここにいたのか? アンバーが来るなんて聞いてない。ずっと会いたかったけど……、この状況での再会はさすがに喜べない!
アンバーが追いかけているのは一匹のネズミだ。二人ともとんでもない瞬足なので目でだって追いかけられない。
あのネズミ、一体いつこの聖堂に入ってきたんだ?
アンバーがネズミに追いついて、蹴り上げる。赤毛の生えた筋肉質な太腿が顕になる。ネズミはアンバーの蹴りを難なく避けてアンバーに向かって何かを投げる。手裏剣!?
アンバーはそれを簡単に避けて更なる攻撃態勢だ。
いつもは筒のような性別を感じさせない服を着ているのに、今日は無礼講らしい。
あんなにはっちゃけているアンバーは初めて見た……。
「アンバー!」
俺は思わず叫ぶ。
「気をつけろよ!」
「当然だ、カイ! ウィル! 必ず祝いの言葉を言わせろ! 私、絶対にこいつをヤるから! そのあとでな!」
「!?」
アンバーはただの看護師じゃなかった!?
祭壇の周りでは衛兵が淡々とネズミを回収してる。
その黒ずくめの体を適当に引っ掴んでは荷台に投げてる。凄い数だ。どうするんだろう?
ネズミどもは死んでいるのか……?
ウィルはジークと話している。もう一団来ると言っていたが、アンバーが戦ってるネズミが一匹だけ?
そのとき。
カン、と床を突く音がした。
カンカンカン、と音が近づいてきた。
俺は顔を上げて、その先を見つめる。
「カイ!」
ウィルが俺を呼んでる。ウィル。どこにいるんだ。何でウィルの声がこんなに遠いんだ?
俺の目前に現れたのは、白猫。猫の周りは暗くぼんやりとしている。
俺がこの世界で何度も会ってる白毛の老猫。
「また会ったなあ」
「お前……!」
メヤニだらけの目で俺を見上げる猫は酷い猫背で歩き方は覚束ない。その杖の先を石の床で突くときの甲高い音が俺の脳内に響く。
カン、カン、カン。
「まだ生きていたのか」
「お前こそ……」
「世は無常だ。これだけの犠牲を払ってもまだ呪いは解けない」
「呪い?」
「お前の運を試してやろう」
「え」
バキッ。
俺の服の中で変な音がした。何かが割れたような?
あ。護符だ。護符が割れたんだ。
ウィルが俺を呼ぶ声が遠のいた。
ウィル、どこにいるんだ。まさかもう会えないなんてことないよな。
ごめん。こんなことになる前に言葉にして言えば良かった。
どうせいつかこの世界で死ぬのなら、そのときまでお前と一緒にいたかったってことを……。
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