84 / 95
022-④ 願い!
しおりを挟むバタバタとドームの天井の方から鳥の羽の音がした。仰ぎ見て吃驚した。
巨大な鳥だ。二羽が旋回しながら降りてくる。
想像を絶するほど大きな翼で旋風を巻き起こしながら。
鳥が俺の目の前に片足からゆっくりと着陸した。
大きさが……、恐竜みたいなんだけど。
「ベッカーさん……?」
枢機卿? いや、違う。もう少し若い。
「ローラ先生……」
枢機卿ではない。宗教学の先生、それからそのアシスタント。
二人は何メートルあろうかという大きな翼をしばらくバッサバッサはためかせてから、徐々に畳み始めた。
鳥人間はサベラの中でも別格だ。
サベラは見た限り、俺の世界での胎生動物、哺乳類が多い。でも鳥人間は卵生らしい。
だから俺はサベラの中で一番この教会軍団が気になっている。
鳥人間アシスタントが俺に近づいてきた。俺は立ち上がって、何となくのクセで会釈をした。
「やっぱり飛べるんですね」
「体力を使うんだよ」
クロスボウを持っている。ますます天使だな。
あ。
つまり、さっきのキフィソスの王の首切りもこの人?
ゾワゾワッ。
鳥人間アシスタントが脇に抱えていた大きな厚手の布をブワサッと床に広げた。
「アンバーを運ぶ」
それから、動けないアンバーを速やかにそして紳士的にお姫様抱っこして、布の上に移動させた。
「この布にアンバーを載せてグランバーグまで運ぶんですか? 二人で?」
「いいや。私が」
「一人で?」
「緩衝地帯を抜けるまでだ。私たちはティタジェイルの上空を飛ぶことを許されていないが、そこまでであれば、地上を馬で走っていくよりも早い」
「そうなんですか」
少ない光源でも嘴が光ってて、見た目も強そうでカッコいい鳥人間アシスタントは、羽に対応した祭服がキマってる。そういえば、何でもできる有能だったな。……男で、合ってる?
気を失っているアンバーが春巻の餡みたいに包み込まれるのを、俺はジッとして見守っていた。鳥人間アシスタントは俺の視線を察したようだ。
「心配するな」
布に包まれたアンバーを抱く鳥人間。頼もしいし、神々しい。
俺もこういう男になりたい……。男、だよな?
一方の鳥人間先生は人気者で、あちらこちらから声をかけられて対応するのが大変そうだった。
鳥人間アシスタントを見送ったあと、今度は鳥人間先生が俺に正面から近寄ってきた。
「カイ様! 面白いものを見せてもらいました。大きな舞台で中々の役者ぶりでしたよ」
「何言ってるんですか。どこにいたんですか?」
「ドームの上のギャラリーにいました。噂に違わぬタヌキの踊り、素晴らしかったです。ラット状態の殿下が困惑しておりましたよね」
「ありがとうございます……?」
タヌキ踊り。うーん。一突きされた気分だな。もしかして、男と間違えられていたことを根に持っているのだろうか。そのことは本人には話してないはずなんだけど。
「腕はどうですか? 見せてください」
「大丈夫です」
「いいから」
「えっ……」
強引に袖を捲られた。こういう押しの強さは確かに女性。
「おや……」
「あ……」
全体が鬱血してるくらいで、歯が食い込んだところも既に血は固まっている。そこまで悪い状態じゃ、ない?
「これは。……新しい契約ですね?」
「……物は言いようですね」
「手加減なさったようですね」
「かなり痛かったですよ」
「殿下が本気であったなら、一瞬で食い千切られていますよ。血の匂いで直ぐにカイ様だと気づかれたんですよ。さすがですね」
感心されたが、俺は怪しいと思っている。お前が食いたいって言われたこと、あるし。
あいつ、実際にちょっと迷ったんじゃないか?
「俺の体にウィルの噛み跡が増えていきます」
「ははっ。光栄なことではないですか。愛の軌跡が増えることは。では、また講義でお会いましょう」
「はい」
愛の軌跡?
何言ってんだ、あのヒト。
遅れてやってきた近衛隊によって、ウィルがちょっと上等な担架で運ばれていった。
見慣れた犬顔が数人。目が合ったときに頷かれたので、俺も力強く頷いてみせた。俺は担架の後ろからついていくだけ。
ドームから出た。山賊みたいな奴らはもういなくなっていた。
朝靄の中、鳥人間が太陽と逆方向に羽ばたいて飛んでいくのを見た。
やっぱり鳥にしてはデカいな……、パラグライダー、いや、小型セスナくらいある?
翼はあっても、人間の腕もちゃんと持ってるということは、実質的に腕が四本。ズルくない!?
でもあの翼は邪魔そうだし、重そうだ。羨ましくはないかな……。
大きな荷台つきの三輪自動車で運ばれていくネズミたち。動けるものは手足の枷をつけられている。緩衝地帯の反対側まで運ばれるらしい。
大将首は丁重に箱にしまわれていた。わざわざ保安隊の一人が俺に箱を見せてきた。中身を見たいかと言うから、首を横に振った。
そんなの見たいわけないだろ。変な趣味してんなぁ、もう。
透き通るような青い目を思い出して、また、ゾワゾワッ。
俺はウィルと一緒の馬車に乗ることになっている。
近衛隊の面々が馬車の椅子をベッドに変形させるのを見るのは楽しかった。
その間、俺は犬の看護師から腕の手当を受けていた。チャウチャウみたいな顔をした犬だった。チャウチャウちゃう……。
「何か?」
「いえ、何でもないです」
消毒され、そして丁寧に包帯を巻かれながら、近くを通りかかるサベラの匂いが気にならなくなっていることに気づく。
ウィルとの契約が強くなったってことと関係してるのかな?
馬車に乗った。車内には俺とウィルだけ。
馬車はすぐに動き出した。
俺たちはティタジェイルの端にあるウィルの家に行く前に、グランバーグに立ち寄ることになっている。
戦果の報告のため。
ウィルは激しく揺れる馬車の中でも目覚める気配がない。
バケモノになるのは相当疲れることらしい?
ウィルが寝ているのを初めて見た。これまでは俺ばっかりが寝顔を見られていたから、見返してやった感がある。溜飲が下がった。
その額を撫でていたら、少し眉間の皺が取れた気がした。
「お前をこうして撫でてるだけで、俺は充分気持ちいいんだよ……」
急激に眠くなってきた……。馬車がゆりかごのように感じ始める。実際は口を開けていたら舌を噛みそうになるほどの揺れなのだが。
目を閉じて間もなく。
俺が両手に、黒い獣人の赤ん坊を抱いているイメージが見えた。
!?
何それぇ!?
15
あなたにおすすめの小説
【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる
おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。
知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います
黄金
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻!
だったら離婚したい!
ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。
お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。
本編61話まで
番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。
※細目キャラが好きなので書いてます。
多くの方に読んでいただき嬉しいです。
コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
転生したら猫獣人になってました
おーか
BL
自分が死んだ記憶はない。
でも…今は猫の赤ちゃんになってる。
この事実を鑑みるに、転生というやつなんだろう…。
それだけでも衝撃的なのに、加えて俺は猫ではなく猫獣人で成長すれば人型をとれるようになるらしい。
それに、バース性なるものが存在するという。
第10回BL小説大賞 奨励賞を頂きました。読んで、応援して下さった皆様ありがとうございました。
【完結】異世界転移で落ちて来たイケメンからいきなり嫁認定された件
りゆき
BL
俺の部屋の天井から降って来た超絶美形の男。
そいつはいきなり俺の唇を奪った。
その男いわく俺は『運命の相手』なのだと。
いや、意味分からんわ!!
どうやら異世界からやって来たイケメン。
元の世界に戻るには運命の相手と結ばれないといけないらしい。
そんなこと俺には関係ねー!!と、思っていたのに…
平凡サラリーマンだった俺の人生、異世界人への嫁入りに!?
そんなことある!?俺は男ですが!?
イケメンたちとのわちゃわちゃに巻き込まれ、愛やら嫉妬やら友情やら…平凡生活からの一転!?
スパダリ超絶美形×平凡サラリーマンとの嫁入りラブコメ!!
メインの二人以外に、
・腹黒×俺様
・ワンコ×ツンデレインテリ眼鏡
が登場予定。
※R18シーンに印は入れていないのでお気をつけください。
※前半は日本舞台、後半は異世界が舞台になります。
※こちらの作品はムーンライトノベルズにも掲載中。
※完結保証。
※ムーンさん用に一話あたりの文字数が多いため分割して掲載。
初日のみ4話、毎日6話更新します。
本編56話×分割2話+おまけの1話、合計113話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる