85 / 95
023-① 波長!
しおりを挟む「カイ、カイ、起きて」
ゆっさゆっさと体を揺さぶられての声がけで起こされた。体を起こし、眩しい光に目を細める。
まどろみの中、形作られていったのは、陽の光に包まれた懐かしい人だった。
「え!? オズ!? 何でここに」
その綺麗な瞳に射抜かれて、俺は一瞬で目覚めた。
海上で保護されて以降、消息不明だったオズだ。オズがいる。出会った頃のような素朴な民族衣装を着ていた。
「おかえり、カイ。大変だったようだね。怪我の具合はどう」
「俺は怪我なんてしてないよ。それがさ、また変な奴に捕まっちゃってさ。仲間には海にも落とされて。散々だったよ」
オズが笑った。
「あれっ、何で俺がここに!?」
ここは馬車の中、俺が寝ているのはウィルがいたはずのベッド。
「ウィルは先に降りたよ。カイがあんまりに気持ち良さそうに寝てるから起こせなかったんだ。カイはこのままウィルの家に先に行って、だって」
「俺を置いて先にいくとかあいつらしすぎて、文句言うのも疲れるよ。オズは今までどこにいたんだ。心配してたんだよ」
「何言ってるんだ。ずっとここにいたよ。逆にここ以外に今の私たちがこの国で安心できるところって他にあるか?」
オズが笑ってる。そうだ。答えは簡単だった。どうして気づかなかったんだろう。
「グランバーグが一番安全だからね。砲撃を食らったって、突撃されたってへっちゃら。ここは一度も落ちたことがない」
オズに手を引かれ、馬車を降りた。
幾重にも連なる黄土色の城壁の層に守られている、ここはグランバーグだ。
戻ってきた。
石畳の地面に俺の靴の爪先が着いたとき、突然、オズが言った。
「お別れをしよう、カイ」
「え!? 会ってすぐだよ!?」
「船の手配がついたんだ。ようやく旅立てる。今度は速度も重視した頑丈な軍艦だ。式には私の番もいたんだよ。敵襲が起こると同時に、私が心配だって言って急いで戻ってきた。カイとは会えなかったかな」
「いろんな人がいたからさ。あれ誰っていちいち聞くことはできなくて。一人一人に挨拶はしてないから」
そうか、儀式には参列者もいたんだった。俺ばっかり大変だったんじゃないんだ。あのときは大混乱だったからな。
「オズの大事な人を危ない目に合わせちゃってごめんね」
「何言ってるんだよ」
オズが笑ってくれて安堵した。
立ち話を衛兵からやんわりと咎められて、近くにあったベンチに座る。
馬車はその場で待機。
広い内庭である。人通りはない。
オズの傍らに立つのはいつもいる護衛のギンギツネ。
俺の護衛はジークではない。代わりは必然的に、俺が与えられたウィルとの契約のプレッシャーに耐えられる重量級となるらしい。タテガミが立派なライオンさん……。
時計を見るともう昼だった。
グランバーグの空は雲がかっていた。
「ウィルは何が引き金で今回はラット状態に?」
オズの問いに俺は首を傾げる。
「何があったか詳しくは知らないんだ」
「黒毛のアルファはよりにもよって怒りに耐性がないんだよね。ほんの少しのことで怒るから」
「そうなんだ。オズの番も? 大丈夫?」
「最初の躾が肝心だよ、カイ。完璧にね」
オズは意味ありげに唇に人差し指を当てた。
「彼は灰色だから。まあでも、性格は黒毛と似てるかもしれない。ウィルとは昔馴染み。アンバーも知ってる」
「犬?」
「犬」
ふっと笑い合った。
ウィルはこの言い方を嫌がるが、俺たちの元の世界では、サベラはニンゲンとは言えない生き物だから……。
常識って何だろうな?
それにしても、完璧な躾ってどうやるんだろ。是非聞きたいところだ。
「今日からウィルの家に住むんだってね」
「あ、うん。そうみたい?」
後ろめたい、みたいに感じるのは何でだ……。
「やっと二人な時間が持てるね!」
「代弁してるみたいに言うな」
「ふふ」
オズが俺の手を取った。冷たい手だった。俺とウィルが乗った馬車が来るのを外でずっと待っていたんじゃないだろうか。
「私は明日、この国を発つ。でも、また会えるから。最後じゃないから」
「うん」
また、お別れ。
「新しい生活に不安を感じない?」
「全然感じないわけはないけど、どうにかなるよ。カイもがんばってね」
俺の両手はその冷たい両手で包み込まれる。俺を見つめるオズの母性は完全無欠だ。
ホッとする。
「カイは私に何か他のことを聞きたいんじゃないかなあ」
「え、何かって何を?」
そのときのオズの笑い方がウィルに笑い方と似ていたのが気になった。
「カイと初めて会ったのは、私の希望でこの国を見て回っていたときだった。ウィルは付き添いと案内を買ってくれた。各所に停留した。最後の中継地点としてあの風車の塔に連れていってもらった。あの場所はウィルの隠れ家だった。一番長く逗留していたな」
「俺には二人が特別な関係に見えた」
「そう? 王子様と家来じゃない?」
「全然」
「まあ、ずっと一緒だったからね。長旅だったよ。楽しかった。風車の塔は国境付近にあったんだよ。本来なら部外者立ち入り禁止区域のさ。時々、接触してはいけない、非常に危険な大型種の生物が現れる……」
「モンスター!」
この世界には森と畑しかないのかと油断しまくっていた。
「昔は敵の侵入を防ぐための防護壁と監視の塔がたくさん建っていた。そんなところ」
「えっ」
「大昔ね。大昔。何百年も前の話。今はすべて取り払われた。変わったんだ、この国は」
そう言って、オズが立ち上がったので俺も真似た。
「じゃあ、そろそろ」
お別れのハグである。俺より大きな女性に上から覆い被されて包み込まれる、この感じ。オズには勝てる気がしないな……。
「カイの着地点がズレていたらどうなっていただろうか。それでもウィルの下に来ただろうか」
「さあ?」
「そこは頷くんだよ」
「犬だろ、だって」
「犬」
「俺はオズと会ったときが一番安心した」
「それ、ウィルには絶対に言うなよ」
苦笑し合ってから、俺は馬車に戻った。
10
あなたにおすすめの小説
【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる
おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。
知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
転生したら猫獣人になってました
おーか
BL
自分が死んだ記憶はない。
でも…今は猫の赤ちゃんになってる。
この事実を鑑みるに、転生というやつなんだろう…。
それだけでも衝撃的なのに、加えて俺は猫ではなく猫獣人で成長すれば人型をとれるようになるらしい。
それに、バース性なるものが存在するという。
第10回BL小説大賞 奨励賞を頂きました。読んで、応援して下さった皆様ありがとうございました。
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。
篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。
2026/01/09 加筆修正終了
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる