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「はあ」
フレイドは一人溜め息を零した。リーゼロッテとの結婚までもう日が無い。結婚を早めて欲しいという、先方の強い希望に対して結婚を先送りし続けているのは、フレイド自身があまり気が進まないからだった。
適当に家の事情だといってあしらうのも限界だった。はぐらかしているうちにリーゼロッテはどんどん乗り気になって、前回会った時に至っては既に旦那扱いになっていた。
結婚は早い方が良い。頭では分かっている。キングスコート家は家柄的にも申し分ない。断る理由も特に思い浮かばなかった。
それでも。やはり気は進まなかった。
ふとシェナのことを思い出す。彼女とも前回初めて会話をした。草取りの話をするだけでとても嬉しそうで、フレイドも釣られて頬が緩んでしまった。彼女は元気だろうか。
「そうだ!」
名案が浮かんだ。
キングスコート家へ行くのは明日だ。いつもは憂鬱な気持ちになるものの、今は少し楽しみになっていた。
**
「え。シェナを? フレイド様が仰るなら私は構いませんが」
「ありがとう。じゃあ早速話をしてみてもいいかな」
「フレイド様が自ら赴く必要は……」
「いや。私が直接伝えたいんだ。リズ、君は待っていてくれ」
フレイドは足取り軽く部屋を出た。廊下を歩くシェナの姿を見つけて駆け寄る。
「シェナ!」
「え? え! ふ、ふふフレイド様!?」
「シェナ、会えて嬉しいよ」
「あの、あの……?」
フレイドは心底から嬉しそうな笑みを浮かべている。シェナはすっかり困惑しきっていた。
「ど、どうしてこんなところに。何か気になることでもありましたか?」
「シェナ。私とリズが結婚したら、君も、リズと一緒に私の家に来て欲しいんだ」
「え?」
シェナは目を丸くした。つまりはキングスコート家を出て、リーゼロッテと共にトレヴァー家に入って欲しいということだ。
フレイドは興奮気味に言う。
「結婚後も私たちの為に働いて欲しい。どうかな」
「それは嬉しいお話ですけど……」
誰かの為に働けるのは嬉しい。シェナは特に、よく頼りにしてくれるリーゼロッテの為に働きたかった。この先もずっと彼女の傍にいて、役に立てるのなら。シェナにとっても悪い話ではなかった。
しかし。シェナは即答出来なかった。躊躇した。理由は分からない。
「少し、考えさせてください」
「もちろん。良い返事を期待してるよ、シェナ」
名前を呼ばれてどきどきした。
また緊張してしまった。シェナは深く反省して、息を吐いた。
リーゼロッテと共にトレヴァー家へ行くべきか。一体、どうすればいいのだろう。シェナはもやもやした気持ちで、悩んでしまった。
こういう時はテオに聞くのが一番良い。テオなら正しい答えを教えてくれるからだ。シェナはそう決め早速彼の下へ向かった。
**
シェナはフレイドに言われたことをテオに伝えて、どうすればいいかを相談した。
テオは険しい顔をして言った。
「断りなよ」
「どうして?」
「ただの意地悪で言ってるだけだと思う。ここで話に乗ったら、嘘でしたーって言われるに決まってる」
テオはいつも正しい。しかしシェナは違和感を覚えていた。あの時のフレイドの眼差しも、話し方も、シェナには本物に見えたのだ。嘘だとはとても思えなかった。つい首を傾げる。
「……そうかな?」
「うん。それか、キングスコート家への忠誠を試してるのかもね」
「なるほど」
そうかもしれない。今度はシェナも納得していた。やはりテオに相談して正解だ。
「私、断るよ。リーゼロッテ様に仕えたい気持ちは強いけど……私はこの家のメイドだもの」
「そっか。シェナ、また似たようなことがあったらいつでも相談してね」
「ありがとう」
シェナはほっとした。テオはずっと昔から頼りになる存在だ。これから先も、きっと変わらない。
フレイドは一人溜め息を零した。リーゼロッテとの結婚までもう日が無い。結婚を早めて欲しいという、先方の強い希望に対して結婚を先送りし続けているのは、フレイド自身があまり気が進まないからだった。
適当に家の事情だといってあしらうのも限界だった。はぐらかしているうちにリーゼロッテはどんどん乗り気になって、前回会った時に至っては既に旦那扱いになっていた。
結婚は早い方が良い。頭では分かっている。キングスコート家は家柄的にも申し分ない。断る理由も特に思い浮かばなかった。
それでも。やはり気は進まなかった。
ふとシェナのことを思い出す。彼女とも前回初めて会話をした。草取りの話をするだけでとても嬉しそうで、フレイドも釣られて頬が緩んでしまった。彼女は元気だろうか。
「そうだ!」
名案が浮かんだ。
キングスコート家へ行くのは明日だ。いつもは憂鬱な気持ちになるものの、今は少し楽しみになっていた。
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「え。シェナを? フレイド様が仰るなら私は構いませんが」
「ありがとう。じゃあ早速話をしてみてもいいかな」
「フレイド様が自ら赴く必要は……」
「いや。私が直接伝えたいんだ。リズ、君は待っていてくれ」
フレイドは足取り軽く部屋を出た。廊下を歩くシェナの姿を見つけて駆け寄る。
「シェナ!」
「え? え! ふ、ふふフレイド様!?」
「シェナ、会えて嬉しいよ」
「あの、あの……?」
フレイドは心底から嬉しそうな笑みを浮かべている。シェナはすっかり困惑しきっていた。
「ど、どうしてこんなところに。何か気になることでもありましたか?」
「シェナ。私とリズが結婚したら、君も、リズと一緒に私の家に来て欲しいんだ」
「え?」
シェナは目を丸くした。つまりはキングスコート家を出て、リーゼロッテと共にトレヴァー家に入って欲しいということだ。
フレイドは興奮気味に言う。
「結婚後も私たちの為に働いて欲しい。どうかな」
「それは嬉しいお話ですけど……」
誰かの為に働けるのは嬉しい。シェナは特に、よく頼りにしてくれるリーゼロッテの為に働きたかった。この先もずっと彼女の傍にいて、役に立てるのなら。シェナにとっても悪い話ではなかった。
しかし。シェナは即答出来なかった。躊躇した。理由は分からない。
「少し、考えさせてください」
「もちろん。良い返事を期待してるよ、シェナ」
名前を呼ばれてどきどきした。
また緊張してしまった。シェナは深く反省して、息を吐いた。
リーゼロッテと共にトレヴァー家へ行くべきか。一体、どうすればいいのだろう。シェナはもやもやした気持ちで、悩んでしまった。
こういう時はテオに聞くのが一番良い。テオなら正しい答えを教えてくれるからだ。シェナはそう決め早速彼の下へ向かった。
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シェナはフレイドに言われたことをテオに伝えて、どうすればいいかを相談した。
テオは険しい顔をして言った。
「断りなよ」
「どうして?」
「ただの意地悪で言ってるだけだと思う。ここで話に乗ったら、嘘でしたーって言われるに決まってる」
テオはいつも正しい。しかしシェナは違和感を覚えていた。あの時のフレイドの眼差しも、話し方も、シェナには本物に見えたのだ。嘘だとはとても思えなかった。つい首を傾げる。
「……そうかな?」
「うん。それか、キングスコート家への忠誠を試してるのかもね」
「なるほど」
そうかもしれない。今度はシェナも納得していた。やはりテオに相談して正解だ。
「私、断るよ。リーゼロッテ様に仕えたい気持ちは強いけど……私はこの家のメイドだもの」
「そっか。シェナ、また似たようなことがあったらいつでも相談してね」
「ありがとう」
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