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シェナがいない。急いで屋敷に戻って来たテオは青ざめた。
使用人たちに声をかけてはシェナの居場所を尋ねる。誰も知らなかった。
「はあっ、はあ、シェナ、シェナ……一体どこに……!」
いけないことだと知っていながら屋敷の中を走っていた。途中、こそこそと背を向けて去って行く人物を見つける。怪しい。
「ヒューイか!? 止まれ!」
彼はびくっと肩を震わせた。テオは大股で近付き、顔を向けたヒューイへ問う。
「お前、シェナの居場所を知ってるか?」
「……知っています」
「言え! 早く!」
「お仕置き小屋です」
「何故そんなところに……お前」
テオはヒューイの胸倉を掴んだ。ヒューイは怯えて悲鳴を上げた。
「ひっ! し、仕方ないでしょう! お嬢様の言いつけなんですから! 私は従っただけ……!」
「あそこの鞭を使ったか?」
「つっ、使っていません! 吊るしただけです!」
テオは暗い目でじっとヒューイの目を見つめる。ヒューイは歯の音も合わぬほどガタガタと震えた。
「嘘は吐いていない、か。命拾いしたな」
「本当のことです! ひえっ!」
テオは掴んでいた手を離した。ヒューイは腰が抜けてへたり込んでしまう。ひとまず命は助かった、と胸を撫で下ろしていると、テオが低く言った。
「もしシェナに何かあったら……覚えとけよ」
ヒューイはテオを見送ってからもしばらく震えが止まらなかった。
**
テオが小屋の扉を開くと、シェナはぐったりしてぶら下がっていた。すぐに駆け寄る。
「シェナ! 大丈夫か!?」
「テオ? ま、待って! 駄目。外さないで」
「どうして!? 駄目だよこんなのは、痛いだけだ」
「私、悪い子だからちゃんと罰を受けなくちゃいけないの」
シェナは無理矢理笑みを作った。テオは構わず、ロープを外しにかかる。
「駄目だよ、外しちゃ駄目だよ!」
「外すよ。こんなのは罰でも何でもない。何の意味も無いことだ」
「で、でも、私、リーゼロッテ様を悲しませたから、罰を……」
「シェナ」
テオが静かにシェナの目を見る。エメラルドグリーンが、シェナの心を落ち着かせた。
「ねえシェナ。僕は、こんなことは間違ってると思う。シェナは、僕が間違っていると思う?」
「ううん。テオは間違ってない」
「そうだよね。じゃあ、これを外すよ。いいよね」
「うん……。でも……」
それではお仕置きの意味が無くなってしまう。きちんと罰を受けないと、リーゼロッテに対する償いにならない。シェナは悩んだ。
テオは素早くロープを外すと、シェナを床に下ろした。
「腕は痛む? どう、動かせる?」
「だ、大丈夫。ちょっと辛いけど、平気」
「良かった。ねえシェナ。君へのお仕置きは僕がするよ。それなら納得出来るよね?」
「うん。分かった。ありがとうテオ。実は結構辛かったんだ」
シェナはほっとした。これ以上吊られていたら腕と肩が壊れそうだったのだ。手首を擦る。やはり、赤い痕がくっきり残っていた。
「ああ、可哀想に。大事なシェナの肌にこんな……」
「大袈裟だよ。すぐに治るって」
テオはロープの痕を指で優しくなぞった。そして言う。
「シェナ。君へのお仕置きは、僕の部屋で寝ることだよ。それと、寝るまで二人で勉強をしようか」
「それじゃいつもと同じだよ。もっとちゃんとしたお仕置きじゃないと駄目じゃないかな……」
シェナは遠慮がちに彼を見上げた。テオは困った笑みを浮かべる。
「うーん。シェナは真面目だなあ。でも十分痛い思いはしたし……あ、そうだ」
テオはシェナから少し離れて両腕を広げた。
「シェナ。僕にキスしてよ」
「えっ!? そ、それは」
「恥ずかしい? でもそれなら、ちゃんと罰になるよね」
「う、うー。ち、小さい頃はよくしたけど、今は……」
シェナがまだ見習いメイドだった小さい頃、よくテオに抱き付いてキスをしていた。人に触れられるのが嬉しくて、そしてテオも喜んで笑っていたからやっていたのだ。いつの間にか癖になっていて、気付いたらやらなくなっていた行為。
昔はともかく、大きくなった今ではとても恥ずかしい。
テオは昔と変わらない、穏やかな表情で言った。
「出来ない? 難しいかな」
「で、出来るよ!」
さすがに飛びつくわけにはいかない。シェナはゆっくりテオに歩み寄り、ぎゅっと抱き付くと、唇と唇を付けた。そしてすぐに離す。
「は、恥ずかしい!」
「あはは。久しぶりにやるとちょっと照れるね」
「もー!」
テオは笑っている。シェナも久しぶりに触れられて嬉しい気持ちになった。赤くなった頬を必死に手の平で冷やした。
使用人たちに声をかけてはシェナの居場所を尋ねる。誰も知らなかった。
「はあっ、はあ、シェナ、シェナ……一体どこに……!」
いけないことだと知っていながら屋敷の中を走っていた。途中、こそこそと背を向けて去って行く人物を見つける。怪しい。
「ヒューイか!? 止まれ!」
彼はびくっと肩を震わせた。テオは大股で近付き、顔を向けたヒューイへ問う。
「お前、シェナの居場所を知ってるか?」
「……知っています」
「言え! 早く!」
「お仕置き小屋です」
「何故そんなところに……お前」
テオはヒューイの胸倉を掴んだ。ヒューイは怯えて悲鳴を上げた。
「ひっ! し、仕方ないでしょう! お嬢様の言いつけなんですから! 私は従っただけ……!」
「あそこの鞭を使ったか?」
「つっ、使っていません! 吊るしただけです!」
テオは暗い目でじっとヒューイの目を見つめる。ヒューイは歯の音も合わぬほどガタガタと震えた。
「嘘は吐いていない、か。命拾いしたな」
「本当のことです! ひえっ!」
テオは掴んでいた手を離した。ヒューイは腰が抜けてへたり込んでしまう。ひとまず命は助かった、と胸を撫で下ろしていると、テオが低く言った。
「もしシェナに何かあったら……覚えとけよ」
ヒューイはテオを見送ってからもしばらく震えが止まらなかった。
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テオが小屋の扉を開くと、シェナはぐったりしてぶら下がっていた。すぐに駆け寄る。
「シェナ! 大丈夫か!?」
「テオ? ま、待って! 駄目。外さないで」
「どうして!? 駄目だよこんなのは、痛いだけだ」
「私、悪い子だからちゃんと罰を受けなくちゃいけないの」
シェナは無理矢理笑みを作った。テオは構わず、ロープを外しにかかる。
「駄目だよ、外しちゃ駄目だよ!」
「外すよ。こんなのは罰でも何でもない。何の意味も無いことだ」
「で、でも、私、リーゼロッテ様を悲しませたから、罰を……」
「シェナ」
テオが静かにシェナの目を見る。エメラルドグリーンが、シェナの心を落ち着かせた。
「ねえシェナ。僕は、こんなことは間違ってると思う。シェナは、僕が間違っていると思う?」
「ううん。テオは間違ってない」
「そうだよね。じゃあ、これを外すよ。いいよね」
「うん……。でも……」
それではお仕置きの意味が無くなってしまう。きちんと罰を受けないと、リーゼロッテに対する償いにならない。シェナは悩んだ。
テオは素早くロープを外すと、シェナを床に下ろした。
「腕は痛む? どう、動かせる?」
「だ、大丈夫。ちょっと辛いけど、平気」
「良かった。ねえシェナ。君へのお仕置きは僕がするよ。それなら納得出来るよね?」
「うん。分かった。ありがとうテオ。実は結構辛かったんだ」
シェナはほっとした。これ以上吊られていたら腕と肩が壊れそうだったのだ。手首を擦る。やはり、赤い痕がくっきり残っていた。
「ああ、可哀想に。大事なシェナの肌にこんな……」
「大袈裟だよ。すぐに治るって」
テオはロープの痕を指で優しくなぞった。そして言う。
「シェナ。君へのお仕置きは、僕の部屋で寝ることだよ。それと、寝るまで二人で勉強をしようか」
「それじゃいつもと同じだよ。もっとちゃんとしたお仕置きじゃないと駄目じゃないかな……」
シェナは遠慮がちに彼を見上げた。テオは困った笑みを浮かべる。
「うーん。シェナは真面目だなあ。でも十分痛い思いはしたし……あ、そうだ」
テオはシェナから少し離れて両腕を広げた。
「シェナ。僕にキスしてよ」
「えっ!? そ、それは」
「恥ずかしい? でもそれなら、ちゃんと罰になるよね」
「う、うー。ち、小さい頃はよくしたけど、今は……」
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「出来ない? 難しいかな」
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さすがに飛びつくわけにはいかない。シェナはゆっくりテオに歩み寄り、ぎゅっと抱き付くと、唇と唇を付けた。そしてすぐに離す。
「は、恥ずかしい!」
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