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「シェナ! シェナはどこ!!」
「ここにおります! リーゼロッテ様、どうなさいました?」
フレイドが帰るなりリーゼロッテの怒声が屋敷に響き渡った。掃除を終え、一人でお茶の出し方を練習していたシェナは慌てて彼女の下へと駆けた。
リーゼロッテはまるで親の仇のようにシェナを睨んだ。シェナも恐ろしさに身を縮めてしまう。
「貴方ね、何故フレイド様と勝手に会話をしたの? 信じられない。貴方が変なことを言ったから、あの方、ずっと上の空だったわ」
「も、申し訳ありません……」
「貴方をお茶係にしたのは誰! テオはいないの!?」
「あの、テオは今、リーゼロッテ様のご命令でドレスを見に行っております」
昨日リーゼロッテが、『明日にも結婚が決まるかもしれないから、良いドレスを見立てておいて』と急いでテオに行かせたのだ。
更に、『たくさん注文しなさい。その中から私が選ぶわ』とも言った為、テオは朝から不在で、今日は帰りが遅くなりそうだった。
リーゼロッテは髪を振り乱してヒステリックに叫んだ。
「そんなの知らないわよ! 早く連れ戻してきて!」
「で、ですが」
「ああうるさい! 喋らないで! もういいわ。ちょっと、ヒューイ! ここに来なさい」
リーゼロッテはその場にいた使用人の男に声をかけた。
「はい」
「ヒューイ、この子にお仕置きをして。とても悪い子だから」
「かしこまりました」
「あ、あのっ、リーゼロッテ様、私」
「喋らないでって言ってるでしょう!?」
喉が裂けそうな大声にシェナは身をびくつかせた。ヒューイが静かに言う。
「行くぞシェナ」
「はい……」
シェナの気持ちは沈んでいた。リーゼロッテを怒らせて、悲しませてしまったのが何より辛い。
シェナはこれまで、お仕置きなどされたことがなかった。
普段は何かミスをしても、テオから優しく仕事を教わるだけで済んでいたのだ。
いつもと違う雰囲気に、シェナは怖くなり、前を行くヒューイに問いかけた。
「あの、お仕置きって何をするんですか?」
「……ああ、お前はテオのお気に入りだからな。ふん。この際だ、一度は味わっておいた方が良いだろう」
冷えた視線が、シェナの心臓を鋭く刺した。
**
屋敷から離れた場所にある、古ぼけた小屋に辿り着いた。シェナは入ったことが無い小屋だ。
「こ、ここですか?」
「入れ」
震える手で小屋を開けて入る。中は埃っぽく、シェナは少しむせた。
小屋の天井からは太いロープがぶら下がっていた。馬用の鞭が床に落ちている。シェナはここでのお仕置きの内容を察して、青ざめた。しかし、やらないわけにはいかない。
「そこに縛るんですよね。や、やってください」
「ほう? 意外と物分かりが良いな」
「私が全部悪いので、仕方ありません」
シェナは両手を握り、ヒューイへ差し出した。
「その前に服を……いや、やめておこう。テオが怖いからな」
「え? テオが何ですか?」
「何でもない。そのままでいい」
ぎちぎちとロープを巻かれ、シェナの両手首はきつく縛られた。ヒューイは別の方向からロープを引っ張る。するとシェナの体が揺れながら持ち上がった。
「ぐっ……」
痛い。手首に荒いロープが食い込んで、シェナは呻いた。ヒューイは満足そうにシェナを眺めまわしている。
「これでいいだろう。本来なら鞭で打つんだが……」
「やってください」
ヒューイは一度鞭を手に取るも、すぐに手放した。
「……駄目だ。痕が見つかったらテオに殺される」
「殺される? テオがそんなことするはずありません。私が悪いんですから、やってください」
しばらく逡巡するような間を空けてから、ヒューイは溜め息を吐いた。そして背を向ける。
「一晩その恰好でいろ。鞭だと三発で終わりだからな、打つより辛いかもしれん」
「分かりました。大丈夫です」
ヒューイは小屋を出て行った。一人残されたシェナは心細さと痛みで泣きたくなる。前世のことを思い出していた。
独りぼっちの病室、動かすと痛む体。
「違う。違うよ、私は今、生きてる。生きてるから痛いの。生きてるから寂しいの。だから、平気、大丈夫……」
手首が千切れそうだ。指先の感覚はもう無い。
この痛みはリーゼロッテの痛みだからと、シェナは必死で耐え続けた。
「ここにおります! リーゼロッテ様、どうなさいました?」
フレイドが帰るなりリーゼロッテの怒声が屋敷に響き渡った。掃除を終え、一人でお茶の出し方を練習していたシェナは慌てて彼女の下へと駆けた。
リーゼロッテはまるで親の仇のようにシェナを睨んだ。シェナも恐ろしさに身を縮めてしまう。
「貴方ね、何故フレイド様と勝手に会話をしたの? 信じられない。貴方が変なことを言ったから、あの方、ずっと上の空だったわ」
「も、申し訳ありません……」
「貴方をお茶係にしたのは誰! テオはいないの!?」
「あの、テオは今、リーゼロッテ様のご命令でドレスを見に行っております」
昨日リーゼロッテが、『明日にも結婚が決まるかもしれないから、良いドレスを見立てておいて』と急いでテオに行かせたのだ。
更に、『たくさん注文しなさい。その中から私が選ぶわ』とも言った為、テオは朝から不在で、今日は帰りが遅くなりそうだった。
リーゼロッテは髪を振り乱してヒステリックに叫んだ。
「そんなの知らないわよ! 早く連れ戻してきて!」
「で、ですが」
「ああうるさい! 喋らないで! もういいわ。ちょっと、ヒューイ! ここに来なさい」
リーゼロッテはその場にいた使用人の男に声をかけた。
「はい」
「ヒューイ、この子にお仕置きをして。とても悪い子だから」
「かしこまりました」
「あ、あのっ、リーゼロッテ様、私」
「喋らないでって言ってるでしょう!?」
喉が裂けそうな大声にシェナは身をびくつかせた。ヒューイが静かに言う。
「行くぞシェナ」
「はい……」
シェナの気持ちは沈んでいた。リーゼロッテを怒らせて、悲しませてしまったのが何より辛い。
シェナはこれまで、お仕置きなどされたことがなかった。
普段は何かミスをしても、テオから優しく仕事を教わるだけで済んでいたのだ。
いつもと違う雰囲気に、シェナは怖くなり、前を行くヒューイに問いかけた。
「あの、お仕置きって何をするんですか?」
「……ああ、お前はテオのお気に入りだからな。ふん。この際だ、一度は味わっておいた方が良いだろう」
冷えた視線が、シェナの心臓を鋭く刺した。
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屋敷から離れた場所にある、古ぼけた小屋に辿り着いた。シェナは入ったことが無い小屋だ。
「こ、ここですか?」
「入れ」
震える手で小屋を開けて入る。中は埃っぽく、シェナは少しむせた。
小屋の天井からは太いロープがぶら下がっていた。馬用の鞭が床に落ちている。シェナはここでのお仕置きの内容を察して、青ざめた。しかし、やらないわけにはいかない。
「そこに縛るんですよね。や、やってください」
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「え? テオが何ですか?」
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「ぐっ……」
痛い。手首に荒いロープが食い込んで、シェナは呻いた。ヒューイは満足そうにシェナを眺めまわしている。
「これでいいだろう。本来なら鞭で打つんだが……」
「やってください」
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