病弱だった私がメイドに転生しました!幼馴染の執事と一緒にお仕事頑張ります!

空木切

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 今日はリーゼロッテの婚約相手、トレヴァー侯爵家の長男が訪れる予定だった。キングスコート家にとっては願っても無い結婚相手である。
 トレヴァー家長男、フレイドは非常に美男子で、リーゼロッテも結婚を早めたいと度々進言するほどだった。しかしトレヴァー家にも事情があるらしく、フレイドは代わりに度々リーゼロッテの下を訪れていた。

「フレイド様! よくお越しくださいました! 道中大変でしたでしょう?」
「いや。特に大変なことはないよ」
「お茶を用意してあります。お口に合うといいのだけれど」

 リーゼロッテは朝からぴりぴりしてシェナに当たり散らしていたというのに、今はすっかり淑女になりきっている。頬を赤らめ、フレイドの顔を見上げた。

 フレイドは空色の眼差しを細め、リーゼロッテの言葉に頷く。

「大丈夫ですよ。リーゼロッテ様は私の好みをよく知り尽くしていますから」
「ええ! 当然ですわ。フレイド様は、私の旦那様ですもの」
「……そうだね」

 リーゼロッテは嬉しそうに胸を張った。フレイドは微笑ましく見つめている。

 二人は天気が良いからと庭へ移動し、腰を落ち着けた。すぐにリーゼロッテはお茶を出すよう指示をする。
 シェナがお茶を出す役だった。他の使用人に厳しい言葉を投げられながら、銀のトレーを手に庭へ出る。

「リーゼロッテ様、どうぞ」

 ティーカップを置くと、鋭い睨みが飛んできた。リーゼロッテはフレイドに聞こえぬよう小声で言う。

「貴方ね、私とフレイド様の間に入らないでくださる? それと。普通はお客様が先でしょう!」
「あ、も、申し訳ありません」

 シェナはフレイドを前に緊張していた。美しく凛々しいその姿には、シェナもつい見惚れてしまう。普段なら出来ることを間違えたのもその所為だ。

 シェナは、今度こそはとそっと深呼吸をしてフレイドの傍へと寄った。

「ふ、フレイド様。お茶です」

 手が震えた。ティーカップがカタカタと音を立てる。何とか倒さずに置けたものの、あまりに不格好だった。

 フレイドはリーゼロッテの婚約相手だ。これ以上失礼を働いてはいけない。シェナはすぐに頭を下げ、屋敷へ戻ろうとする。

「失礼します」
「待って、シェナ」

 足が止まる。今シェナを呼んだのはフレイドだ。聞き間違いではないだろう。

「は、はい。何故私の名前を……?」
「小耳に挟んだから。以前庭で草取りをしていた子だね?」
「はい。そうです」

 シェナは混乱していた。声をかけられただけでなく名前まで呼んでもらえた。居たたまれなさでつい俯いてしまう。
 あの空色の瞳を真正面から見たら耐えられない。きっと顔が真っ赤になってしまうだろう。

 フレイドは優しく穏やかに言った。

「以前この屋敷に来た時、君がとても楽しそうに草取りをしていたものだから、私も自宅でやってみたんだ。正直、何が面白いのか分からなかったのだけど、君は何が楽しかったんだい?」
「え。えと、空と風と、日差しと、後は、瑞々しい草に触れられるのが楽しかったんです」
「へえ……?」
「も、申し訳ありません! よく分からないですよね、私もどう説明して良いか……」
「いや、いいよ。ありがとう」

 シェナは慌てて下がった。思わず顔が綻ぶ。

 ――フレイド様とお話が出来た! とても優しい、素敵な方だった!

 シェナは嬉しくなりながら屋敷の中へと戻った。背後に突き刺さる主の視線にも気付かないで。
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