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城と王子と従者と精霊
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とにかく話をさっさと済ませてしまおう、私は話題を戻した。
「で、私はその精霊を起こすのを手伝えばいいんですね」
「ああそうだ。まずはこの国、メセイルにいる精霊を起こす」
「まずは、って他にもいるんですか?」
「何を言っ……そうか、常識も知らないのかこの女は。仕方ない、ラウロ説明してやれ」
「承知しました」
本当にむかつく! 私はギリギリと歯ぎしりをしながらユリスを睨む。彼は自分は関係ないとばかりに部屋の奥のテーブルに腰掛け、用意済みの茶なんかを飲み始めた。しかも優雅に本まで開いている。こちとら立ち話を強要されているというのに大した身分だ本当に!
「申し訳ありませんエコ様、シルフィ様」
ラウロさんは僅かに声のトーンを落として言った。主人に聞こえないようにだろうか。
「実はですね、あのお方には少々問題がありまして」
「性格」即答した。
「……明言は避けますが。常々あんな風なので王である父君も大層お困りなんですよ。民はユリス様を恐れ、姿を見せれば逃げ出す始末です。心配した王は、ユリス様が民の信頼を得る為にと功績のお話をしたのです」
「完全に理解出来ました」
街から人影が消えたのはそういうことだったのか。あの横暴で傲慢な王子様に辟易していて皆逃げたと。私も今すぐにでも逃げたいのでよく分かる。ラウロさんの同情的な眼差しからしても彼の苦労が垣間見えた。ユリスはもっとラウロさんに感謝すべきだと私は思う。
「助かります。……では簡単にご説明をさせて頂きます。まず国が四つあることはご存じですか?」
「いえ全く初耳です」
「現在いるここがメセイル、西の国になります。他に南にリジェナント、東にトゥーリエ、北にディキタニアがあります。この四つの国の中央に緩衝地帯があり、そこはどの国も侵攻出来ない不可侵領域となっております。お陰でこの四つの国々は現状、衝突せず共存出来ているということです」
中央の緩衝地帯から見てこの国は西ということらしい。私は頷いて話の続きを促した。
「それぞれの国に精霊がおります。精霊の説明につきましては私も詳しくは無いので割愛いたしますが、この世界を作り出した存在と言われています。それぞれ水、火、風、土の属性を司っており、このメセイルには土の精霊がいます」
ちなみに、と。精霊は世界の基盤で、世界の全てに精霊の存在がある。他にも多くいるものの、最も大きな存在はその四人の精霊だということだ。日本でいう八百万の神みたいなものか。
「その精霊を起こせば魔力は増えるんですよね?」
「そういうことです」
「ん? でもこの国の精霊だけ起こすの? 他の国は?」
「その辺りは、ユリス様の采配によります。……そうですね、お話ししましょう。この四つの国は、現在非常に険悪な状態にあります」
ラウロさんは少し険しい表情になった。私は暢気に首を傾げる。
「どうしてですか?」
「魔力が無いからですよ。互いに少ない魔力を取り合っている状態なんです。国はそれぞれ強固な壁や結界を作り、自分たちの領地から魔力が出て行かないよう必死に守っています」
「え~、みんなで協力し合えばいいんじゃ……とも言えない感じ?」
「そうですね。どの国も民を守らなければなりません。魔力が無ければ人は生きていけませんから。精霊を起こす為には多くの魔力を必要とします。互いの国の魔力を合わせれば精霊も起こせるかもしれませんが、その為にどこかの国が滅んでは何の意味もありません」
「そんな危ない橋は渡れないってことですね」
「はい」
なるほどなあ。私は頷いて頭を整理した。精霊を起こしたいものの起こす為の魔力が無く、国同士協力し合おうにも国民が危険に晒されるので出来ず、結果少ない魔力を必死で守るしかない状態ということだ。私が手伝うことで事態が良くなるならもちろん協力するけども。保護を受けるつもりが妙な話になってしまった。
「私でよければお手伝いします。役に立つかどうか私自身よく分からないですけど」
「ありがとうございます。それともう一つ。エコ様に協力していただくこの件、王には内密なんです。先ほども言いましたが、ユリス王子は功績を残さなければならないので……王にこれを知られれば確実に全て王に取り上げられてしまいます」
「えー。要するに王様に手柄を取られないようにしたいと」
「理解が早くて助かります。これはエコ様の為でも、国の為でもあります。貴方が特定の国の所有物となってしまうと非常に危険なのですよ。貴方を発端に戦争が起きかねません」
「私、そこまで価値のある人間じゃないですけど……」
「危険物です。貴方も少しは自覚して頂いた方が宜しいかと」
まるで爆弾か何かのような口ぶりだ。まあ私自身に価値はないけど私の体がすごくて、迂闊な行動はしない方がいいことは理解出来た。自分で言ってて虚しい。
「で、私はその精霊を起こすのを手伝えばいいんですね」
「ああそうだ。まずはこの国、メセイルにいる精霊を起こす」
「まずは、って他にもいるんですか?」
「何を言っ……そうか、常識も知らないのかこの女は。仕方ない、ラウロ説明してやれ」
「承知しました」
本当にむかつく! 私はギリギリと歯ぎしりをしながらユリスを睨む。彼は自分は関係ないとばかりに部屋の奥のテーブルに腰掛け、用意済みの茶なんかを飲み始めた。しかも優雅に本まで開いている。こちとら立ち話を強要されているというのに大した身分だ本当に!
「申し訳ありませんエコ様、シルフィ様」
ラウロさんは僅かに声のトーンを落として言った。主人に聞こえないようにだろうか。
「実はですね、あのお方には少々問題がありまして」
「性格」即答した。
「……明言は避けますが。常々あんな風なので王である父君も大層お困りなんですよ。民はユリス様を恐れ、姿を見せれば逃げ出す始末です。心配した王は、ユリス様が民の信頼を得る為にと功績のお話をしたのです」
「完全に理解出来ました」
街から人影が消えたのはそういうことだったのか。あの横暴で傲慢な王子様に辟易していて皆逃げたと。私も今すぐにでも逃げたいのでよく分かる。ラウロさんの同情的な眼差しからしても彼の苦労が垣間見えた。ユリスはもっとラウロさんに感謝すべきだと私は思う。
「助かります。……では簡単にご説明をさせて頂きます。まず国が四つあることはご存じですか?」
「いえ全く初耳です」
「現在いるここがメセイル、西の国になります。他に南にリジェナント、東にトゥーリエ、北にディキタニアがあります。この四つの国の中央に緩衝地帯があり、そこはどの国も侵攻出来ない不可侵領域となっております。お陰でこの四つの国々は現状、衝突せず共存出来ているということです」
中央の緩衝地帯から見てこの国は西ということらしい。私は頷いて話の続きを促した。
「それぞれの国に精霊がおります。精霊の説明につきましては私も詳しくは無いので割愛いたしますが、この世界を作り出した存在と言われています。それぞれ水、火、風、土の属性を司っており、このメセイルには土の精霊がいます」
ちなみに、と。精霊は世界の基盤で、世界の全てに精霊の存在がある。他にも多くいるものの、最も大きな存在はその四人の精霊だということだ。日本でいう八百万の神みたいなものか。
「その精霊を起こせば魔力は増えるんですよね?」
「そういうことです」
「ん? でもこの国の精霊だけ起こすの? 他の国は?」
「その辺りは、ユリス様の采配によります。……そうですね、お話ししましょう。この四つの国は、現在非常に険悪な状態にあります」
ラウロさんは少し険しい表情になった。私は暢気に首を傾げる。
「どうしてですか?」
「魔力が無いからですよ。互いに少ない魔力を取り合っている状態なんです。国はそれぞれ強固な壁や結界を作り、自分たちの領地から魔力が出て行かないよう必死に守っています」
「え~、みんなで協力し合えばいいんじゃ……とも言えない感じ?」
「そうですね。どの国も民を守らなければなりません。魔力が無ければ人は生きていけませんから。精霊を起こす為には多くの魔力を必要とします。互いの国の魔力を合わせれば精霊も起こせるかもしれませんが、その為にどこかの国が滅んでは何の意味もありません」
「そんな危ない橋は渡れないってことですね」
「はい」
なるほどなあ。私は頷いて頭を整理した。精霊を起こしたいものの起こす為の魔力が無く、国同士協力し合おうにも国民が危険に晒されるので出来ず、結果少ない魔力を必死で守るしかない状態ということだ。私が手伝うことで事態が良くなるならもちろん協力するけども。保護を受けるつもりが妙な話になってしまった。
「私でよければお手伝いします。役に立つかどうか私自身よく分からないですけど」
「ありがとうございます。それともう一つ。エコ様に協力していただくこの件、王には内密なんです。先ほども言いましたが、ユリス王子は功績を残さなければならないので……王にこれを知られれば確実に全て王に取り上げられてしまいます」
「えー。要するに王様に手柄を取られないようにしたいと」
「理解が早くて助かります。これはエコ様の為でも、国の為でもあります。貴方が特定の国の所有物となってしまうと非常に危険なのですよ。貴方を発端に戦争が起きかねません」
「私、そこまで価値のある人間じゃないですけど……」
「危険物です。貴方も少しは自覚して頂いた方が宜しいかと」
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