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村と魔物と泣き虫戦士
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寝支度というほどでもない寝支度を終えて私はベッドへ入ろうとした、ら、扉が乱暴に開かれ来客が入って来た。驚いて固まってしまう。
「えっと。部屋間違えてますよハインツさん」
相手を見てほっとした。ハインツさんだ。どう見ても酔っている。首まで真っ赤で、息も荒い。そして顔は涙でぐちゃぐちゃだ。すごく泣いている。泣き上戸?
「ふ、う、うぅ、俺を置いてくの……」
「だっ、大丈夫ですか?」
ハインツさんは部屋に入って来るなり膝から崩れ落ちた。そして突っ伏してぐじゅぐじゅ泣き始める。
「置いてかないで、一人にしないで……俺……っ、ちゃんと良い子にするから」
またお姉さんと間違えているのか。私はハインツさんの傍に寄って声をかけた。
「ハインツさん、私はお姉さんじゃないです。落ち着いてください。お姉さんも貴方を置いて行ったわけじゃないですよ」
「でも俺が何も出来ないから、だからみんな俺を置いてくんだ」
「違いますよ。皆さんハインツさんを大事にしてるんですよ」
「俺だって……俺だって……」
ぶつぶつと一人で喋っている。私の声が届いているかも分からない。どうしよう。とりあえず水を持って来ようと立ち上がると、裾を掴まれた。
「どこ行くの」
子供みたいだ。私の母性が刺激される。
「み、水を持って来るだけですよ~。大丈夫ですよ~」
あやすように言うと、ハインツさんはそのままぐうぐうと眠ってしまった。自由に生きてますね……。
しかし本当にこれは困った。私はすっかり彼に感情移入している。旅に連れていけないとはいえ置いて行くのは大変心苦しい。
どうせだし、と私はハインツさんの頭を撫でた。硬い髪質で、ちょっと汗をかいている。僅かに見える横顔に涙の痕があった。お姉さんはハインツさんが涙を流す姿を毎日見て来たんだろうか。どうやって慰めていたんだろう。今となっては分からない。
我に返った私はハインツさんの体を揺さぶって起こそうとした。しかし当然にタイミング悪くユリスが帰って来てしまう。彼はハインツさんを見るなり険しい表情になった。
「またこの男は……。何があった?」
「ただ酔って入って来ただけみたいです。今起こしますから、ユリスさんは気にしないでください」
起きろ~と念じながら熱の籠った体を揺らす。うんうん言うだけで目を覚まさない。背後からユリスの不機嫌オーラが迫って来ていた。
「叩き出せ。迷惑だ」
「そんな言い方無いでしょう。別に悪いことしたわけじゃないんですから」
つい言い返してしまった。今の私は完全に母モードだ。ユリスは小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「フン。情でも移ったか。ここで暮らすだとか馬鹿げたことを言っていたな。言っておくが貴様には」
「選択肢は無い、ですよね。分かってます。私も覚悟を決めましたから、投げ出すつもりはありません」
またこれだ。私はうんざりしながらハインツさんを見つめた。比べるのは良くないにしても、彼の優しさを思い出すと本当に嫌になってしまう。ユリスはユリスで、やけに苛ついている様子だ。やはり他人が同じ空間にいるのが不快なのかもしれない。
「その男から離れろ。また何をされるか分からんだろう」
「別に何もされてないですよ」
何かしたといえば私の方だ。散々撫でたわけだし。と、いきなり強く肩を引かれた。
「離れろと言っている!」
ユリスは怖い顔で怒鳴った。身が竦む。声が震えた。
「な、何でそんなに怒るんですか……? 少し待っててください。ちゃんと起こしますから、そしたら私も外に出ますから」
私は必死になってハインツさんを起こそうとした。ユリスの視線が刺さる。怒るなら手伝ってくれればいいのに。無言で脅されているみたいで怖い。
「ハインツさん、起きてください。お家に帰りましょう。私送って行きますから」
「余計なことはするな」
「もう! 何なんですかさっきから! 私のことが鬱陶しいのは分かりますけど、いちいち突っかかって来ないでくださいよ! とにかく、ハインツさんを送ってきたら私は隣の部屋に行きますから、ユリスさんはゆっくり休んでください」
叩き出せとか離れろとかユリスが言ってることはめちゃくちゃだ。ただの嫌がらせでしかない。我慢も限界だった。私がいなくなることでユリスの気が収まるなら私が消えるのが一番だ。
今の大声でハインツさんはやっと目を覚ましたらしい。緩慢な動きで身を起こしたのを見て、私は彼を引きずるようにして部屋を出た。
「えっと。部屋間違えてますよハインツさん」
相手を見てほっとした。ハインツさんだ。どう見ても酔っている。首まで真っ赤で、息も荒い。そして顔は涙でぐちゃぐちゃだ。すごく泣いている。泣き上戸?
「ふ、う、うぅ、俺を置いてくの……」
「だっ、大丈夫ですか?」
ハインツさんは部屋に入って来るなり膝から崩れ落ちた。そして突っ伏してぐじゅぐじゅ泣き始める。
「置いてかないで、一人にしないで……俺……っ、ちゃんと良い子にするから」
またお姉さんと間違えているのか。私はハインツさんの傍に寄って声をかけた。
「ハインツさん、私はお姉さんじゃないです。落ち着いてください。お姉さんも貴方を置いて行ったわけじゃないですよ」
「でも俺が何も出来ないから、だからみんな俺を置いてくんだ」
「違いますよ。皆さんハインツさんを大事にしてるんですよ」
「俺だって……俺だって……」
ぶつぶつと一人で喋っている。私の声が届いているかも分からない。どうしよう。とりあえず水を持って来ようと立ち上がると、裾を掴まれた。
「どこ行くの」
子供みたいだ。私の母性が刺激される。
「み、水を持って来るだけですよ~。大丈夫ですよ~」
あやすように言うと、ハインツさんはそのままぐうぐうと眠ってしまった。自由に生きてますね……。
しかし本当にこれは困った。私はすっかり彼に感情移入している。旅に連れていけないとはいえ置いて行くのは大変心苦しい。
どうせだし、と私はハインツさんの頭を撫でた。硬い髪質で、ちょっと汗をかいている。僅かに見える横顔に涙の痕があった。お姉さんはハインツさんが涙を流す姿を毎日見て来たんだろうか。どうやって慰めていたんだろう。今となっては分からない。
我に返った私はハインツさんの体を揺さぶって起こそうとした。しかし当然にタイミング悪くユリスが帰って来てしまう。彼はハインツさんを見るなり険しい表情になった。
「またこの男は……。何があった?」
「ただ酔って入って来ただけみたいです。今起こしますから、ユリスさんは気にしないでください」
起きろ~と念じながら熱の籠った体を揺らす。うんうん言うだけで目を覚まさない。背後からユリスの不機嫌オーラが迫って来ていた。
「叩き出せ。迷惑だ」
「そんな言い方無いでしょう。別に悪いことしたわけじゃないんですから」
つい言い返してしまった。今の私は完全に母モードだ。ユリスは小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「フン。情でも移ったか。ここで暮らすだとか馬鹿げたことを言っていたな。言っておくが貴様には」
「選択肢は無い、ですよね。分かってます。私も覚悟を決めましたから、投げ出すつもりはありません」
またこれだ。私はうんざりしながらハインツさんを見つめた。比べるのは良くないにしても、彼の優しさを思い出すと本当に嫌になってしまう。ユリスはユリスで、やけに苛ついている様子だ。やはり他人が同じ空間にいるのが不快なのかもしれない。
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何かしたといえば私の方だ。散々撫でたわけだし。と、いきなり強く肩を引かれた。
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「もう! 何なんですかさっきから! 私のことが鬱陶しいのは分かりますけど、いちいち突っかかって来ないでくださいよ! とにかく、ハインツさんを送ってきたら私は隣の部屋に行きますから、ユリスさんはゆっくり休んでください」
叩き出せとか離れろとかユリスが言ってることはめちゃくちゃだ。ただの嫌がらせでしかない。我慢も限界だった。私がいなくなることでユリスの気が収まるなら私が消えるのが一番だ。
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