キスだけは断固拒否します!現実に帰りたくないので!~異世界での私は救世主らしいです~

空木切

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女王様の言うことは

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「エコ」
「あっ、はい、何ですか」
 ユリスに固く呼ばれて返事をした。私をじっと見る青い目。相変わらず何を考えているのか分からない。こうしてまじまじ見ると、ユリスは顔色が悪いような気がした。
「その道化に妙な真似はされていないだろうな」
「みょ、妙な真似? 別にないですよ」
 道化、はミケのことか。妙な真似が何を指すのか分からないけど、大丈夫だ。私は念を押すように数度頷いてみせた。ユリスはまだ私を見つめている。
「あの、何か疑ってますか? 本当に大丈夫ですよ? 二人で何か企んだりとかもしてないです」
「そうか」
「……えっと」
 視線が刺さる。痛い。何か言いたいなら言って欲しい。もしかして私変な顔してるのかな。不安になっていると、ミケが腕を引いた。
「ユリス、撫でて欲しいんじゃない?」
「なっ!? ななな何言ってんの! そんなわけないでしょ!」
 声が裏返った。さすがにそれはあり得ない! と私は思う。ミケは私と違う意見のようだけど、でも私は信じられない。一応ユリスの反応を窺うも、
「……くだらん」
 一蹴された。ふいと顔を背けてしまう。ですよね。
「勿体なーい。じゃあシルフィくん撫でてもらったら?」
「ぼ、僕?」
 ミケはすぐにターゲットを変える。シルフィは少し困っているようだ。この流れで撫でてくださいと言う人間はいないだろう。
「ミケ、あんまりシルフィを困らせちゃ……」
「はい! あ、あの! じゃあ俺!」
「え?」
 ハインツが元気よく手を上げている。私はすごく首を傾げた。ハインツはたどたどしく言う。
「お、俺、は別に嫌じゃない、から、撫でたいなら俺を撫でてください!」
 前言撤回。この流れで言う人物、いた。
「お願いします!」
 私が返事をするより先に、ハインツは目の前で頭を下げた。私は勢いに押されるまま、折角だし撫でさせてもらおう、と手を伸ばした。が、
「おわっ」
 驚いて声が出た。ユリスに手を掴まれたのだ。彼の方を見上げる。
「あの? どうしました?」
 無言だ。綺麗な顔で見下ろされると威圧感がある。悪いことをしただろうかと咄嗟に自分の行動を思い返してしまう。
「やっぱりユリスも撫でて欲しいんじゃない?」ミケが言う。私は今度こそ混乱してきた。
「ええ? そ、そうなんですか?」
「違う……」
 呪詛でも言ったかのような声で否定された。じゃあ一体何なのだろう。ハインツが顔を上げ、ユリスへ訝しむ視線を投げた。私も同じ顔をしているに違いない。しかしミケだけは違った。笑顔で、わざとらしく「へーそうなんだー?」と声を上げる。
「違うんだー、残念。エコ、撫でたがってたのにねぇ」
「それは」シルフィなんだけどね、と言いかけて止める。シルフィに気を使わせてしまうかもしれない。私は首を振った。
「……でも無理強いしてもしょうがないし、私のワガママに付き合わせるのも申し訳ないから。大丈夫だよ。ハインツも、ありがとう。気持ちだけで十分」
 ちょっと残念だけど。ユリスも見苦しいと思って止めたのかもしれないし、私がちょっと我慢すれば良い話だ。これでいい。と、掴まれたままの腕が引かれ、気付けば私の手はユリスの頭に乗っていた。
「好きにしろ」
 長い長い溜息の後で、ユリスが頭を傾けながらそう呟いた。私は咄嗟に手を引っ込めようとしたものの、それは違うと思い直し、ユリスの言葉に甘えさせてもらうことにした。その前にラウロに目配せをする。無事に微笑みと頷きが返ってきたので、私はユリスの頭を撫でた。本当に大丈夫ですよね、後で不敬罪で訴えられたりしないよね、と若干の不安を抱えつつ。
 ユリスの髪の毛はサラサラだ。ほんのり温かい。何だかユリスの母親か姉にでもなったような気持ちになる。ユリスは偉いね、いつも頑張ってるね、とか考えながら撫でていると、急に頭が離れた。
「もういいだろう」
「はっ。す、すみませんつい!」
 完全に止め時を見失っていた。申し訳なく思い彼を見上げると、少し俯き気味で、赤くなった耳を見つけた。見間違いか、と確認する間もなくユリスは素早く背を向けると「戻るぞ」と一方的に言ってさっさと部屋を出て行ってしまった。後を追うラウロやシルフィたちと別れ、私とミケは部屋にぽつんと取り残された。
「も、もしかして怒らせた、わけではないよね?」
 照れてただけだよね? 不安になってミケに問うと、彼は歯を見せて笑った。
「大丈夫だってー」
 いまいち信用出来ない。私は苦笑いを浮かべた。
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