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南国の道のり
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私は勧められた椅子に腰かけて、一息吐いた。
「船を造るの、お好きなんですか?」
「まあな。全然商売にはならねえが、好きなんだよな」
「何で船が売れないの?」
シルフィが問う。私もそれは気になっていた。船を買う人がいないと言っていたけれど、移動に船が必須な国で船が売れないというのは、いまいち納得出来ない話だ。
ダリアさんは困ったように眉を下げた。
「世の中、魔力不足だろ? 船は一応風や波の力でも動かせるが、遅いんだよな。魔法で動かせないのは面倒だって、誰も乗らなくなっちまったんだ。昔はもっと盛んに島を行き来してて、この辺もちょっと沖に目をやると船がたくさん並んでたんだがなあ」
言われてみると、私たち以外の船は一隻も見かけなかった。今は、移動の際には船を持っている人に乗せてもらったり、いわゆるタクシーのような商売があって、料金を支払って目的地まで運んでもらうそうだ。
船がたくさんあった、かつての光景を私は知らないけれど。ダリアさんの反応を見る限り、やはり寂しいのだろうと思った。
「今は城の周辺が栄えてるらしくて、島の中で全部用が済むようになってる。その方が便利だし、みんなそっちに移住しちまった。わざわざ危険な海に出る必要もねえけどよ、生まれた島から出たことが無い連中も増えてるってのは信じられねえよな……折角こんなに広い海があるのに」
ダリアさんは急に言葉を切って、私たちを気まずそうに見た。
「わ、悪い。あんたらも島から出たこと無かったんだろ? 悪いように言うつもりはなかったんだ」
私たちが外の国から来たって話はしてないんだっけ。どこかの島の貴族と思われているようだ。念の為素性は隠した方がいいかもしれないし、ここは話を合わせておこう。私は笑顔を作って言った。
「気にしないでください! ダリアさんは、海がすごく好きなんですね」
「ああ。好きだよ。船も、海も」
ダリアさんは、懐かしむような愛おしむような優しい顔をした。ああ、なんかいいな。海の男。どうしようもなく好きだという気持ちが伝わって来る。
「親父も俺と同じだ。……だから母さんに出て行かれたんだよなあ! 馬鹿だよな、馬鹿!」
先のしんみりした空気を吹き飛ばすように、わはは、と豪胆に笑い声を上げた。私は少しびっくりしながら首を傾げる。
「ええ。そんな理由で?」
「船は売れねえからもうやめろって、子供にはもっとまともな商売をさせろって、揉めてな、出て行った。馬鹿なんだよ、親父は。俺も」
そう言って、ダリアさんは苦笑した。日に焼けた顔や、硬そうな指先が、ダリアさんのひたむきさを表しているように見えた。
厳しい現実に抗い、好きなものを追い続ける男たちの図に、私の乙女心が疼いた。良い。かっこいい。ロマンがある。売れない船を、誰も欲しがらない船を、趣味で作り続ける親子二人。現代社会に疲れ切っていた私の目には輝いて見えた。心の中で感動を噛み締める。
「ダリア、船のここから魔力入れるの?」
シルフィが設計図を指差しながら言った。ダリアさんが覗き込んで、
「おお? よく分かるな。こういう船に乗ったことがあるのか?」
「ううん。無いけど、何となく分かった!」
「すごいなあ! 将来は船乗りになるか? だが船は儲からねえぞ」
「今聞いたよ」
シルフィが設計図にあれこれ質問をしたり、ダリアさんが答えたりするのを私は見守っていた。微笑ましい風景だ。ダリアさんはシルフィを普通の子供だと思っているんだろう。実は召喚士で、魔物と戦えることも知らずに。
私はシルフィを子供扱いしないように気を付けているけれど、子供らしく過ごさせてあげるのも大事なのかも。と、少し悩んでしまった。
「船を造るの、お好きなんですか?」
「まあな。全然商売にはならねえが、好きなんだよな」
「何で船が売れないの?」
シルフィが問う。私もそれは気になっていた。船を買う人がいないと言っていたけれど、移動に船が必須な国で船が売れないというのは、いまいち納得出来ない話だ。
ダリアさんは困ったように眉を下げた。
「世の中、魔力不足だろ? 船は一応風や波の力でも動かせるが、遅いんだよな。魔法で動かせないのは面倒だって、誰も乗らなくなっちまったんだ。昔はもっと盛んに島を行き来してて、この辺もちょっと沖に目をやると船がたくさん並んでたんだがなあ」
言われてみると、私たち以外の船は一隻も見かけなかった。今は、移動の際には船を持っている人に乗せてもらったり、いわゆるタクシーのような商売があって、料金を支払って目的地まで運んでもらうそうだ。
船がたくさんあった、かつての光景を私は知らないけれど。ダリアさんの反応を見る限り、やはり寂しいのだろうと思った。
「今は城の周辺が栄えてるらしくて、島の中で全部用が済むようになってる。その方が便利だし、みんなそっちに移住しちまった。わざわざ危険な海に出る必要もねえけどよ、生まれた島から出たことが無い連中も増えてるってのは信じられねえよな……折角こんなに広い海があるのに」
ダリアさんは急に言葉を切って、私たちを気まずそうに見た。
「わ、悪い。あんたらも島から出たこと無かったんだろ? 悪いように言うつもりはなかったんだ」
私たちが外の国から来たって話はしてないんだっけ。どこかの島の貴族と思われているようだ。念の為素性は隠した方がいいかもしれないし、ここは話を合わせておこう。私は笑顔を作って言った。
「気にしないでください! ダリアさんは、海がすごく好きなんですね」
「ああ。好きだよ。船も、海も」
ダリアさんは、懐かしむような愛おしむような優しい顔をした。ああ、なんかいいな。海の男。どうしようもなく好きだという気持ちが伝わって来る。
「親父も俺と同じだ。……だから母さんに出て行かれたんだよなあ! 馬鹿だよな、馬鹿!」
先のしんみりした空気を吹き飛ばすように、わはは、と豪胆に笑い声を上げた。私は少しびっくりしながら首を傾げる。
「ええ。そんな理由で?」
「船は売れねえからもうやめろって、子供にはもっとまともな商売をさせろって、揉めてな、出て行った。馬鹿なんだよ、親父は。俺も」
そう言って、ダリアさんは苦笑した。日に焼けた顔や、硬そうな指先が、ダリアさんのひたむきさを表しているように見えた。
厳しい現実に抗い、好きなものを追い続ける男たちの図に、私の乙女心が疼いた。良い。かっこいい。ロマンがある。売れない船を、誰も欲しがらない船を、趣味で作り続ける親子二人。現代社会に疲れ切っていた私の目には輝いて見えた。心の中で感動を噛み締める。
「ダリア、船のここから魔力入れるの?」
シルフィが設計図を指差しながら言った。ダリアさんが覗き込んで、
「おお? よく分かるな。こういう船に乗ったことがあるのか?」
「ううん。無いけど、何となく分かった!」
「すごいなあ! 将来は船乗りになるか? だが船は儲からねえぞ」
「今聞いたよ」
シルフィが設計図にあれこれ質問をしたり、ダリアさんが答えたりするのを私は見守っていた。微笑ましい風景だ。ダリアさんはシルフィを普通の子供だと思っているんだろう。実は召喚士で、魔物と戦えることも知らずに。
私はシルフィを子供扱いしないように気を付けているけれど、子供らしく過ごさせてあげるのも大事なのかも。と、少し悩んでしまった。
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