キスだけは断固拒否します!現実に帰りたくないので!~異世界での私は救世主らしいです~

空木切

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南国の道のり

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 ラウロたちが帰って来て、日も暮れてきたので私たちは宿へと引き上げた。私たちが寝泊まりするのは最上階の大部屋二つ。問題は部屋割りだった。
「私はシルフィと一緒がいいです!」
 現在、一部屋に全員で集まり、食事を済ませた後だった。私は真っ先に挙手して発言をする。少しの間の後、ミケが言った。
「それは聞かなくても分かる。で、もう一人はどうすんだよ」
 六人なので三人ずつで別れることになる。もう一人、もう一人は別に誰でも……良くなかった。
「ユリスさん以外でお願いします!」
「何?」
 即睨まれたので私も即目を逸らした。こればっかりは無理です。しばらくは距離を取りたいです。
「俺! 俺、エコさんと同じ部屋がいいです!!」
 ハインツが元気よく手を上げた。私はよしきた! とばかりに応える。
「じゃあハインツと一緒がいいです! そうしましょう!!」
「えー……」
 ミケが不満たっぷりに私を見る。何故そんな顔をする、と残りの面子を思い浮かべた。ラウロとユリスとミケ。うーん。気持ちは分からないでもない。
「オレもそっちがいい~」ミケはベッドに突っ伏して足をばたばたさせた。子供か。ミケまでこっちに来たら割り振りが四人と二人になってしまう。……これはこれで、何とかなるのでは。
「ね、ねえラウロ、何も三人ずつで分けなくてもいいんじゃない? 四人と二人でもさー」
「エコ様。大変申し上げにくいのですが、シルフィ様とエコ様は別室にしましょう」
「え!? 何で!?」
 私は思わずラウロを凝視した。何故私とシルフィが離れ離れに! 何か困ることでも!? 私の勢いに押されたのかラウロは若干困ったようで苦笑いを浮かべた。
「メセイルでもそうですが、トゥーリエでの例を見ても召喚士は貴重な存在だと言えます。この国でも同じかもしれませんし、シルフィ様もお守りできる状態にした方が良いと思います」
「僕、自分の身くらい守れるよ!」
 シルフィが抗議するもラウロは申し訳なさそうに返した。
「そうですね。ですが先の部屋割りだと、シルフィ様はご自身に加えてエコ様と、魔法を使えないハインツ様も守らなくてはなりません」
「……そっか、それはさすがに良くないかな」
 シルフィの負担が大きすぎる。私としてもそれは望むところではない。
「はい。ですから、部屋割りは――」

**

 夜。寝付けない私は起き出していた。私の両脇にはラウロとハインツが寝ている。結局、部屋割りは三人ずつ、私とラウロとハインツ、そしてシルフィとユリスとミケという形で収まった。シルフィと離れるのは寂しいけど、隣の部屋なのでここは諦めることにする。
 私は窓に近寄って、夜の海を眺めた。五階建ての最上階というだけあって、島の家屋を通り越して海が見えるのだ。オーシャンビューというほどでもない、普通の小さな窓からのささやかな景色。この国では海も珍しくないし、わざわざ眺めるように作られていないんだろう。それでも私には十分綺麗に見えた。
 窓は二つ、別の方角につけられていても両方から海が見える。贅沢だ。この国の人からしたら、窓から日差しが入って暑いとか、そんな程度なのかもしれないけど。
 夜の海は黒いばかりで怖い。でも不思議と落ち着く気もする。私の世界にも海があったからだろうか。でも、この世界の海は魔物だらけだ。同じに見えても違う。
 意識すると波の音が聞こえてくる。まるで旅行にでも来たみたいだ。随分遠くに来たな、本当に。
「エコ様」
「ひえぇ!?」
 驚いて飛び上がった。後ろにラウロが。全然気配を感じなかった。私、ぼんやりしすぎかもしれない。
 ラウロは申し訳なさそうに言った。
「すみません。気を使って静かに近付いたつもりだったのですが、余計に驚かせてしまいましたね」
「だ、大丈夫、大丈夫です」
「また眠れないんですか?」
 暗がりの中、ラウロは優しい目で私を見つめていた。私は何故か居心地が悪くなって、窓の外に目をやった。
「最近はすぐ眠れたんだけどね、元気が有り余ってるのかも」
 私がそう言ったきり、お互い無言になってしまった。ラウロは何も言わず私のそばにいるだけだ。
「ええとー……海綺麗ですね」
 微妙な空気に耐えられなくなって言うと、ラウロはようやく口を開いた。
「そうですね。ユリス様と喧嘩でもしましたか?」
「え、な、何故に?」
「態度が少し、気になったものですから」
 さすがに不自然だったか。ラウロは従者だし、ユリスに何かあったとなると気になるのだろう。
「ごめん。でも別に喧嘩とかじゃないから全然、大丈夫。うん、大丈夫です」
 私は安心させるように笑みを作った。ラウロは分かったような分かってないような微妙な顔をしている。そしてまた何も言わない。返事もしないのは、詳しく聞くべきか迷っているからだろうか。詳しく聞かれても困るので、私は適当な話題を探した。
「あの、全然関係ない話なんだけど。ユリスって、結婚相手はもう決まってるんだよね? 王子様だしね? すごい家柄の人とかなの?」
 本当は関係ある話だ。さりげなく嘘を吐いてしまった。
 ユリスは王家の人間である以上、結婚相手が自由に決められるとは限らない。既に相手がいて、ユリス本人だけ知らない可能性もある。あれは白昼夢だったけど、白昼夢。そう白昼夢だけど気になるには気になるのだ。
 ラウロは一瞬眉をひそめたものの、すぐに表情を戻した。
「私の知る限りですが、そういった相手はいないと思います。ユリス様の母君もごく一般の方ですから」
「え、そうなの?」
「はい。素行に問題が無ければ、伴侶は当人で自由に決められるはずです。王は国の為に心身を捧げます。伴侶の存在は、その心を助ける意味合いが強いのです。ですから例え伴侶となっても権力などは一切ありません。王の妻という立場のみですね。王が倒れた場合も、王位はそのまま子が継ぐことになります」
「へえ。トゥーリエとはまた違うんだね」
 私は表向きは冷静でいようと頑張っていたものの、内心かなり動揺していた。じゃあもし私が頷けば本当に……わ、忘れよう。しかしすぐにユリスの真剣な眼差しを思い出して、むず痒くなる。暗くて良かった。顔、赤くなってる気がする。
「ユリス様にしつこく言われたのですか? 私から注意しておきましょうか」
「いっ、いや、全然、本当そんなことない。から、気にしないで! 忘れて!」
 私も忘れるから! 本当、多分ユリスは勘違いをしている。魔力が欲しいから私が欲しいだけで、その、色々多分混同しているのだ。そうに違いない。そういうことにしておこう。そもそも私既に断ってるし、この話はお終いだ。
「うん! そう! よし、明日は体を動かそうかな。そしたら早く眠れるだろうし」
 ね! とラウロを見ると、彼は少し目を伏せて、「良いと思います」とどこか上の空で言った。さすがに眠いのかな。これ以上付き合わせるのは申し訳ない。
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