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船上
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夜。海には魔物が多いのもあって、夜間は見張りを一人立てておくことになっていた。今見張りをしているのはユリスだ。
全員同室だし、また眠れずに魔力不足になっているかもしれない。私は皆が寝転がっている部屋を出て、ユリスの様子を見に行った。
甲板に出ると、冷えた風が吹いていた。黒い空に鈍く光る星と月が浮かんでいる。海も真っ黒だ。思わず足が竦む。
「夜の海、怖っ……」
「何の用だ」
私は縮んでいた背を伸ばして、ユリスの姿を探した。この真っ黒空間に黒いユリスを見つけられるか不安だ。
「後ろだ」
呆れた声が聞こえる。振り向くと、暗がりに長い髪がなびいていた。目が慣れてきたので表情も見える。
「よく一人で見張りできますね。こ、怖くないですか?」
私が腕を擦りながら近付くと、喉の奥で笑う声が聞こえた。
「怖いなら何故出てきた? お前に見張りは期待していない。休んでいろ」
「それくらい分かってますー。ユリスさんの魔力は足りてるのかなと思って様子見に来ただけです。どうですか?」
「お節介だな」
ユリスは鼻で笑って海の方を見つめた。どうせ私はお節介おばちゃんですよ。体調悪くてふらふらしてたのは一体どこの誰だよ! 私はちょっとむかついたので、むかつきを露わにして言った。
「別に! 元気ならいいんですけど! 何かあったら言ってくださいね!」
「お前の声で魔物が寄って来るぞ」
「どうせ私はうるさいお節介おばちゃんですよ! もう寝ます!」
私はぷりぷり怒ったまま、ユリスの横を通り過ぎて部屋に戻ろうとすると、ユリスがどこかを見ながら呟いた。
「気が変わったら言え」
「何をですか」
「伴侶の話だ」
ユリスはそう言いながら私に青い目を向けた。私は色々思い出して恥ずかしくなる。恥ずかしさの逃げ場が無く、意味もなく腕をわたわたと動かした。
「だっ……だから、その話は……!」
溺れた人のように動かしていた右腕をユリスに掴まれる。ジャージの布越しに、ユリスの体温が伝わってくるような気がした。
「あ、あの……う!?」
ユリスは私の手の甲を自分の方に向けて軽く口を付けた。私は魔法でもかけられたみたいに硬直してしまった。
「念の為言っておくが、本気だ」
「あ……なっ、な、い、うっ……」
言葉が出てこない。ユリスは面白そうに私を見ている。
「何だ?」
「私はっ!! 寝ますから!!」
やけくそで叫んでユリスの手を振り払うと、大慌てで扉を開けて中に駆け戻った。寝室に入る前に息を整える。寝室には扉が無いので、誰かのいびきがここまで聞こえてきた。それに少し安堵して、私は右手の甲を左手で包みこんで息を吐いた。
さすがに気持ちが揺らぎそうになる。本気だと、言われて平気でいられるわけもない。私、からかわれてる? そんなわけないのに、そう思いたくなる。あまりに現実味が無さすぎて。
「どうすればいいんだ~……」
このままでは勢いでイエスと言ってしまいそうである。でも私はこの世界で生きる限り、好きな人とキスすら出来ない。ずっと元の世界と呪いで繋がったままだ。そんな不安定な存在と一国の王子様が、なんて有り得ない。大体、私にはそんな価値もない。
みんなを起こさないよう静かに寝室に入って横になった。薄いマットが敷いてあるけどベッドに比べるとやはり寝にくい。
私は悶々とした気持ちを抱えて、なかなか寝付けないまま夜を過ごした。
全員同室だし、また眠れずに魔力不足になっているかもしれない。私は皆が寝転がっている部屋を出て、ユリスの様子を見に行った。
甲板に出ると、冷えた風が吹いていた。黒い空に鈍く光る星と月が浮かんでいる。海も真っ黒だ。思わず足が竦む。
「夜の海、怖っ……」
「何の用だ」
私は縮んでいた背を伸ばして、ユリスの姿を探した。この真っ黒空間に黒いユリスを見つけられるか不安だ。
「後ろだ」
呆れた声が聞こえる。振り向くと、暗がりに長い髪がなびいていた。目が慣れてきたので表情も見える。
「よく一人で見張りできますね。こ、怖くないですか?」
私が腕を擦りながら近付くと、喉の奥で笑う声が聞こえた。
「怖いなら何故出てきた? お前に見張りは期待していない。休んでいろ」
「それくらい分かってますー。ユリスさんの魔力は足りてるのかなと思って様子見に来ただけです。どうですか?」
「お節介だな」
ユリスは鼻で笑って海の方を見つめた。どうせ私はお節介おばちゃんですよ。体調悪くてふらふらしてたのは一体どこの誰だよ! 私はちょっとむかついたので、むかつきを露わにして言った。
「別に! 元気ならいいんですけど! 何かあったら言ってくださいね!」
「お前の声で魔物が寄って来るぞ」
「どうせ私はうるさいお節介おばちゃんですよ! もう寝ます!」
私はぷりぷり怒ったまま、ユリスの横を通り過ぎて部屋に戻ろうとすると、ユリスがどこかを見ながら呟いた。
「気が変わったら言え」
「何をですか」
「伴侶の話だ」
ユリスはそう言いながら私に青い目を向けた。私は色々思い出して恥ずかしくなる。恥ずかしさの逃げ場が無く、意味もなく腕をわたわたと動かした。
「だっ……だから、その話は……!」
溺れた人のように動かしていた右腕をユリスに掴まれる。ジャージの布越しに、ユリスの体温が伝わってくるような気がした。
「あ、あの……う!?」
ユリスは私の手の甲を自分の方に向けて軽く口を付けた。私は魔法でもかけられたみたいに硬直してしまった。
「念の為言っておくが、本気だ」
「あ……なっ、な、い、うっ……」
言葉が出てこない。ユリスは面白そうに私を見ている。
「何だ?」
「私はっ!! 寝ますから!!」
やけくそで叫んでユリスの手を振り払うと、大慌てで扉を開けて中に駆け戻った。寝室に入る前に息を整える。寝室には扉が無いので、誰かのいびきがここまで聞こえてきた。それに少し安堵して、私は右手の甲を左手で包みこんで息を吐いた。
さすがに気持ちが揺らぎそうになる。本気だと、言われて平気でいられるわけもない。私、からかわれてる? そんなわけないのに、そう思いたくなる。あまりに現実味が無さすぎて。
「どうすればいいんだ~……」
このままでは勢いでイエスと言ってしまいそうである。でも私はこの世界で生きる限り、好きな人とキスすら出来ない。ずっと元の世界と呪いで繋がったままだ。そんな不安定な存在と一国の王子様が、なんて有り得ない。大体、私にはそんな価値もない。
みんなを起こさないよう静かに寝室に入って横になった。薄いマットが敷いてあるけどベッドに比べるとやはり寝にくい。
私は悶々とした気持ちを抱えて、なかなか寝付けないまま夜を過ごした。
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