キスだけは断固拒否します!現実に帰りたくないので!~異世界での私は救世主らしいです~

空木切

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船上

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「し、シルフィ、何か水に強いような魔物はいないの?」
「……いない」
「何もするな。大人しくしていろ」
 ユリスは冷たく言い捨て私たちから離れると、また船の縁から海を覗き込んだ。何かする気なのか何もしないのか、私には分からない。
「ねえシルフィ、どうしよう、このままじゃラウロが死んじゃう。どうしよう、どうすれば……」
 私に出来ることは多くない。そんな私に出来ること、それは、
「シルフィ、空飛ぶ魔物出せる?」
「うん。分かった」
 シルフィは何も聞かず召喚の本を開いた。
「ハインツ、離してくれる?」
「で、でも」
「お願い」
 私は真剣に頼んだ。ハインツは戸惑いながらもゆっくり私を解放する。「ありがとう」私は礼を言って、シルフィに抱き付いた。
「エコ、いい?」
「いいよ!」
 魔力が引っ張られる感覚がして、本が光った。音もなく甲板の上に大きな鳥の魔物が出現する。
「余計な真似をするな!」
 ユリスの怒鳴り声が聞こえる。無視だ、無視! 私とシルフィは大鳥の背に乗って飛んだ。
「ひえーやっぱ怖い!」
「エコ、どうするの?」
「船からちょっと離れたところに行って! そこで私が腕輪を取って魔物を全部誘き寄せる!」
 私に出来ることはこれくらいしかない。魔力が多いことだけが私の長所。だからその魔力を使って囮になるだけだ。囮になるのは慣れている。
 シルフィは上手に魔物を操って移動した。しかし気になることがある。
「あの、一個聞いていい? 私が腕輪取ってもこの子は大丈夫なのかなあ?」
 今乗っている大鳥も魔物だ。私の魔力に反応して暴れる可能性はあるだろうか。私の問いに、シルフィは大分間を空けてから力強く答えた。
「たぶん……ううん、絶対、何とかしてみせる」
「分かった。じゃあ、お願いね」
 私はシルフィを信じる。きっと何とかなるはずだ。
「じゃあ取るね」
「うん!」
 私は覚悟を決めて腕輪を外した。すぐに大鳥が変な動きをし始める。シルフィが何とか抑え込んで、大人しくなった。高度は下がったけど、誘き寄せるなら丁度いい。
 私は祈るような気持ちで待った。次第に水面がすごい勢いで暴れ始める。
「うわあ~! 怖い!」
 びちびちと尾ひれなのか何なのか、ぶつかり合う音と水を叩く音が絶え間なく続く。私は緊張感のないことに、公園での鯉の餌やりを思い出していた。
 シルフィの体は強張っている。大鳥を抑え込むのに一生懸命なようだ。私は応援する気持ちを込めてシルフィにくっついていた。
 ざばあ、と大きな波の音が聞こえる。顔を上げるととてつもなく大きな塊、もとい、角の生えたクジラが見えた。これが船の下にいた魔物か! 水面から飛び出して、私たちの方へ倒れ込もうとしている。
「ま、待って待って、やばいやばい!」
 鳥より高く飛ぶクジラって何!? 私は焦るも何も出来ない。シルフィも、避ける余裕なんてとても無さそうだ。私は観念して目を閉じた。
「わーっ! わー……あれ?」
 角クジラの動きは止まっている。よく見ると、水面から無数の針が飛び出して角クジラを串刺しにしていた。ラウロの仕業だ。
 間を置いて、角クジラはゆっくりと海に沈んでいった。
「た、倒した!」
 ほっとした。のも束の間で、大鳥が暴れ始めた。私は急いで腕輪をつける。
「シルフィ、ありがとう! で、でも大丈夫?」
「ん、な、何とか」
「船に戻れそう?」
「……たぶ、ん、わっ!」
 ふっ、と大鳥が消える。一瞬の浮遊感の後、私とシルフィは海に落ちた。私はすぐ海面に顔を出してシルフィの姿を探した。
「ぷはっ! シルフィ、どこ!?」
「ここ! ごめん、エコ」
「いいよいいよ。ありがとうシルフィ。泳いで戻ろう」
 腕輪はつけてるし、魔物も寄ってこない、はず。しかし怖いので出来るだけ早めに戻りたい。
「二人とも無事ですか!」
 ラウロがすごい速さで泳いでくる。良かった、ラウロも無事みたいだ。
 私たちは船のところまでたどり着くと、ハインツが垂らしてくれた縄梯子を伝って船に上がった。
「無事に済んで良かったー。シルフィ、痛いところはない?」
「うん。エコは?」
「大丈夫! 何ともないよ」
「すげー無茶するなあ」
 ミケが呆れた声で言って、私は苦笑いをした。心配そうなハインツにも笑みを向けて、大丈夫だよーと伝える。ここまではいい。ここまでは。問題は主従二人である。怒られる気配がビンビンする。空気から分かる。どうしよう。何て言えば許してくれるかな。
 私は覚悟を決めてゆっくり振り返った。
「えーと、いやあ~無事で良かったよね、うん。あの、か、顔が怖いですよ二人とも……そうだ、ラウロ、怪我は無い?」
 しーん。沈黙が辛い。ユリスは苛ついたような溜め息を長く長く吐いてから、言った。
「お前は自分が何をしたか分かっているのか」
「分かってますよ、もちろん。でも私だって別に考え無しにやったわけじゃないです……よ一応」
 怖い。顔を見られない。
「呆れたな。あんな不確実な方法に身を投げ打つとは。大人しくしていろと言ったはずだろう。それとも、鎖で繋いで強制的に大人しくさせた方が良かったか」
「わ、私は上手くいく自信があった上でやったんです、だから、その、ちゃんと考えてやりました! 鎖は嫌です」
 完全にお怒りモードだ。ここは下手に反論しない方がいいかもしれない。耐えるべし。しかし、
「貴方は何故じっとしていられないんです」
 お怒りなのはユリスだけではない。二対一じゃ分が悪すぎませんか。
「だ、だって、あのままじゃラウロが死ぬかもしれないし、そんなの絶対に駄目だから」
「私は死んでもいいんです。何故そうわけの分からないことばかり言うんですか」
 ラウロが普通に言うので私はついスルーしかけてしまった。死んでもいい、って言った?
「え? 何言ってるの……? 死んでいいわけないでしょ……?」
「エコ、こいつは従者だ」
「だから、何? 従者だから死んでもいいって言うの? そんなのおかしいよ」
 私は同意を求めてみんなの顔を見た。しかし、誰一人同意してくれる人はいなかった。無言だ。頷きさえしない。
「ちょ、ちょっと待ってよ。おかしいよね? ねえ!」
「何もおかしくありませんよ」
 ラウロが追い打ちをかけるように言った。私は理解出来ずに俯く。私の髪から滴った雫で、小さな水たまりが出来ていた。
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