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白銀の北国
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防寒着を貰い、私たちは王子を先頭に歩き始めた。最初は良かった、最初は。
「さ、寒くなってきた……」
分厚いコートを着ているのに寒い。雪が降ってる~と和んでいたのも束の間で、あっという間に銀世界に放り込まれてしまった。銀なのが地面だけならまだしも周囲が全部銀である。そう。空は暗く、とても吹雪いていた。雪だ。雪しか見えない。雪しかない! さすがに耐えられなくなってきた。
「イゼク王子、一体あとどれくらい歩くんですか?」
「もう少しです」
「ももももう少しってどれくらいですか」
被ったフードの襟元を必死で掴んでいた。寒くて寒くて指が死ぬ! 千切れる! こんなに寒いのにさっきから寒がっているのは私だけだ。みんな寒さに強いのか。どうして。
「エコ、そんなに寒いの?」
「さささ、さむ、寒いよ! 何でシルフィは平気なの!?」
シルフィは私が寒がるのを不思議そうに見ている。何故。私がひ弱すぎるということか。
「エコさん! お、俺のコートに入る!? 二人で入れば暖かいかも!」
「ハインツ様はそのまま歩いてください。エコ様、こちらへ」
「なな、ななななに、なになに」
歯の根も合わない。ラウロは冷たい風を物ともせず私に手を差し出した。私は氷のような空気を吸い込む。
「てて、てて、て?」
「寒いのでしたら私と手を繋ぎましょう」
「えっ……え? 何で、いや、繋ぐけど、指が千切れそうだし、ラウロ寒くなさそうだし」
差し出された手を握る。すると風呂に入った時のようにふわーっと温もりが全身に伝わった。
「えっ!?」
「静かに。エコ様の体質は他国の方に知られたくありません。普通にしていてください」
小声で言われて私は口を噤んだ。ラウロは前を向いて歩きながら言った。
「恐らくはエコ様と私たちの体の違いでしょう。私たちの体は、ある程度の寒暖なら魔力が補助して体温を調整してくれます」
「嘘、そうなの、なんて便利な」
「今は私が魔法で体を温めていますので、暑ければ言ってください」
「ありがとう、助かる……」
「ただ、すみません。手を繋いだままになりますが」
「全然いいよ。転びそうになったら助けてくれると嬉しい」
誰かと手を繋いで歩くなんていつぶりだろう。何だかちょっと楽しい気分になった。勝手に笑い声が零れる。
「ふふふ、嬉しい」
「何がですか」
「手を繋いで歩くのって嬉しくない? でも何でこんな嬉しいんだろ……よく考えたら分かんないな」
寒さは良くなったが足元は不安だ。時々足が埋まりそうになる。イゼク王子はよく迷わずに進めるものだ。一面同じ色で目印らしい目印もないのに。
いきなり右足がずぼっと沈んだ。つんのめったところをラウロがさりげなく支えて助けてくれる。握った手を頼りに私は足を引っこ抜いた。
「ありがとう。そして分かったよラウロ」
彼は訝しげに私を見ている。私は繋いでいる手をぎゅっと握った。
「久々にラウロが優しいからだ。そう、それだ。それで私は嬉しい」
「……私が怒りたくて怒っているとでも?」
真顔で言われ、私はそっと目をそらした。また怒られるパターンだこれ。余計なことは言わないでおこう。無言で再び歩き出した。もう怒られたくない。怖いから。
吹雪が酷く全く視界が見えなくなった頃に街に辿り着いた。街は高い壁に囲まれている。開きっぱなしの門を通りながら、
「一度閉じると開けるのが困難で、開けたままになっているんです」
とイゼク王子は説明した。街中は静かで歩きやすい。横殴りに吹いていた強い風も雪も、高い壁が阻んでいるのだ。ぴゅうぴゅうと笛のような風の音が遠くに聞こえる。
「こんにちは王子様。今日もお散歩ですか? そちらの方々は?」
外のベンチに座っているお婆さんがイゼク王子に声を掛けた。一般の人が気軽に声を掛けるような存在なのか、と私は少し驚いていた。王子はにこやかに対応している。
「お客様です。ぼくが国を案内しているところなんですよ。今日は少し暖かくて良い日ですね」
「本当にね、良い日ですよ……。王子様。私もそろそろそちらへ向かいますから、その時はよろしくお願いします」
お婆さんの言葉に、イゼク王子は表情を曇らせた。
「そう、ですか。残念です。申し訳ありません。力不足で」
「いいえ、いいんですよ。私はね、貴方のような素晴らしい方がこの国に生まれてくれて本当に感謝しています」
「……王は貴方に敬意を表します。もちろん、ぼくも」
私たちは二人の不思議なやり取りを見ていた。イゼク王子は胸に手を当て厳しい表情をしている。まだ幼く美しい王子が背負っているものを垣間見たような気がした。
「さ、寒くなってきた……」
分厚いコートを着ているのに寒い。雪が降ってる~と和んでいたのも束の間で、あっという間に銀世界に放り込まれてしまった。銀なのが地面だけならまだしも周囲が全部銀である。そう。空は暗く、とても吹雪いていた。雪だ。雪しか見えない。雪しかない! さすがに耐えられなくなってきた。
「イゼク王子、一体あとどれくらい歩くんですか?」
「もう少しです」
「ももももう少しってどれくらいですか」
被ったフードの襟元を必死で掴んでいた。寒くて寒くて指が死ぬ! 千切れる! こんなに寒いのにさっきから寒がっているのは私だけだ。みんな寒さに強いのか。どうして。
「エコ、そんなに寒いの?」
「さささ、さむ、寒いよ! 何でシルフィは平気なの!?」
シルフィは私が寒がるのを不思議そうに見ている。何故。私がひ弱すぎるということか。
「エコさん! お、俺のコートに入る!? 二人で入れば暖かいかも!」
「ハインツ様はそのまま歩いてください。エコ様、こちらへ」
「なな、ななななに、なになに」
歯の根も合わない。ラウロは冷たい風を物ともせず私に手を差し出した。私は氷のような空気を吸い込む。
「てて、てて、て?」
「寒いのでしたら私と手を繋ぎましょう」
「えっ……え? 何で、いや、繋ぐけど、指が千切れそうだし、ラウロ寒くなさそうだし」
差し出された手を握る。すると風呂に入った時のようにふわーっと温もりが全身に伝わった。
「えっ!?」
「静かに。エコ様の体質は他国の方に知られたくありません。普通にしていてください」
小声で言われて私は口を噤んだ。ラウロは前を向いて歩きながら言った。
「恐らくはエコ様と私たちの体の違いでしょう。私たちの体は、ある程度の寒暖なら魔力が補助して体温を調整してくれます」
「嘘、そうなの、なんて便利な」
「今は私が魔法で体を温めていますので、暑ければ言ってください」
「ありがとう、助かる……」
「ただ、すみません。手を繋いだままになりますが」
「全然いいよ。転びそうになったら助けてくれると嬉しい」
誰かと手を繋いで歩くなんていつぶりだろう。何だかちょっと楽しい気分になった。勝手に笑い声が零れる。
「ふふふ、嬉しい」
「何がですか」
「手を繋いで歩くのって嬉しくない? でも何でこんな嬉しいんだろ……よく考えたら分かんないな」
寒さは良くなったが足元は不安だ。時々足が埋まりそうになる。イゼク王子はよく迷わずに進めるものだ。一面同じ色で目印らしい目印もないのに。
いきなり右足がずぼっと沈んだ。つんのめったところをラウロがさりげなく支えて助けてくれる。握った手を頼りに私は足を引っこ抜いた。
「ありがとう。そして分かったよラウロ」
彼は訝しげに私を見ている。私は繋いでいる手をぎゅっと握った。
「久々にラウロが優しいからだ。そう、それだ。それで私は嬉しい」
「……私が怒りたくて怒っているとでも?」
真顔で言われ、私はそっと目をそらした。また怒られるパターンだこれ。余計なことは言わないでおこう。無言で再び歩き出した。もう怒られたくない。怖いから。
吹雪が酷く全く視界が見えなくなった頃に街に辿り着いた。街は高い壁に囲まれている。開きっぱなしの門を通りながら、
「一度閉じると開けるのが困難で、開けたままになっているんです」
とイゼク王子は説明した。街中は静かで歩きやすい。横殴りに吹いていた強い風も雪も、高い壁が阻んでいるのだ。ぴゅうぴゅうと笛のような風の音が遠くに聞こえる。
「こんにちは王子様。今日もお散歩ですか? そちらの方々は?」
外のベンチに座っているお婆さんがイゼク王子に声を掛けた。一般の人が気軽に声を掛けるような存在なのか、と私は少し驚いていた。王子はにこやかに対応している。
「お客様です。ぼくが国を案内しているところなんですよ。今日は少し暖かくて良い日ですね」
「本当にね、良い日ですよ……。王子様。私もそろそろそちらへ向かいますから、その時はよろしくお願いします」
お婆さんの言葉に、イゼク王子は表情を曇らせた。
「そう、ですか。残念です。申し訳ありません。力不足で」
「いいえ、いいんですよ。私はね、貴方のような素晴らしい方がこの国に生まれてくれて本当に感謝しています」
「……王は貴方に敬意を表します。もちろん、ぼくも」
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(追記2018.07.24)
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(追記2018.07.26)
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