キスだけは断固拒否します!現実に帰りたくないので!~異世界での私は救世主らしいです~

空木切

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白の裏は

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 空き家に到着した。宿が無いからとみんなここで過ごしていたらしい。ミケもハインツもまるで我が家のようなくつろぎ方をしている。私は初めて来たのに、ちょっと疎外感。
 椅子に降ろしてもらって礼を言うと、ラウロは私の足を見ながら言った。
「靴をどうにかしないといけませんね」
「裸足で歩き回るわけにもいかないもんねえ……服も靴も返って来ないのかな。ドレスも着慣れなくて恥ずかしいし、困る」
「よくお似合いですよ」
 ラウロは流れるように褒めた。私は冗談で返そうとして口をぱくぱくさせて、結局何も言えずに口を閉じた。こんな真っ白いふわっとしたドレスが似合う? 私に? 絶対嘘だ。今のは私をからかったに違いない。分かっていても少し照れた。
「靴を買いに行きましょうか。良さそうな店を見かけましたから」
「いいの? じゃあお言葉に甘えて……わっ、な、なんで!?」
 ラウロに抱え上げられた。これはいわゆる、お姫様抱っこだ。ミケやシルフィに注目されて恥ずかしい。おろおろしてしまう。
「そうしてると金持ちみたいだな」
 ミケが笑いながら言った。笑い事じゃない。私は羞恥で暴れたくなりながらラウロの顔を見た。
「あの、なんで、靴を買いに行くんだよね!?」
「はい。靴は大事な物ですから、きちんと測ってもらわなくてはなりません」
「私も行くの!?」
「当然です」
 ラウロは当然の顔だ。つまりこの状態で街に繰り出すということか。本気か。
「外は冷えますから毛布を……ああ、ハインツ様ありがとうございます」
「俺も行く」
「いりません」
「でっ、でも」
「ここで待っていてください」
「でも……」
 またもや二人のやり取りを見ている。ハインツは負けたらしく毛布を私の上にかけて去って行った。ごめんハインツ。私もさすがに人数が多いのは嫌だ。目立ちたくない。
「では行きましょうか」
「……はい」
 私は観念して身を委ねた。

 ラウロに抱き上げられたまま小さな靴屋さんに入る。中に入った途端、油のような独特の匂いがした。店主らしき男の人が出てきて驚いた顔で私たちを見る。すぐ買えるものをと尋ねて、革靴を購入することにした。
 店主が靴のサイズを調整する間、私とラウロは暖かい店内で待たせてもらった。店主の奥さんが椅子を持って来てくれて、私たちは礼を言った。優しそうな人だ。
「お客さんなんてとても久しぶり。ごめんなさいね、お茶を出せたらいいんだけど、茶葉なんて高くて買えないものだから」
「いえ、お構いなく」
 ラウロが答えた。店主の奥さんは私たちを見て本当に嬉しそうな顔をしている。
「私もね、そろそろ順番かしらーと思ってたところなの。こんな綺麗な人たちが来てくれて、何だか寿命が延びた気分」
 綺麗だなんて。浮かれるより先に気になった言葉があった。
「順番って何の順番ですか?」
「ほら、例の特別支援制度。お金と食べ物と色々貰えるんでしょう。隣の家の息子さんも申し込んだって言ってたのに、私も夫も決心がつかなくて。長生きする理由も無いのにね」
 例の食い扶持減らしの……。私は思い至って青ざめた。つい声が出る。
「そんなことないです! この国は絶対に大丈夫ですから、長生きしてください」
「お客さん良いこと言うねえ。あ、もう少しで出来ますからね」
 作業場との仕切りのカーテンが開き、青年が顔を出して言った。私は頭を下げる。青年はこの靴屋夫婦の息子さんのようだ。母親を見ながら肩を竦めた。
「母さんと父さんに死なれたら俺困っちゃうよ」
「でもね、もう食べ物も本当に無いって言われてるじゃない。お金だって……」
「いやいや。こんな身なりの綺麗な人たちがいるんだ、まだ他の街は裕福かもしれない。今度、隣の街にも商売に行こうと思ってるんだ。諦めるのはまだ早いよ」
 青年は前向きだ。どんなに厳しい環境でも、生きようとする人たちがいる。私は希望を貰えたような気持ちで頷いた。
「私もそう思います。きっと上手くいきますよ」
 エールを送るつもりで言った。青年は笑みを浮かべる。
「ありがとう! こんな綺麗で優しい人が来てくれるなんて、小さな靴屋でもやる価値はあるなあ」
「え、へへ、全然、ふ、普通ですよ」
 また綺麗って言われた。照れて気持ち悪い反応をしてしまう。言われ慣れてないのがバレバレだ。
「ははは、照れてる。っと、連れの人に睨まれてるんで俺は引っ込みますね。もう少しお待ちくださーい」
「は、はい……」
 青年はカーテンの後ろへ戻っていった。私は思わずラウロを振り返る。本当に睨んでたのかな。ラウロは真顔で、
「睨んでません」
 ですよね。あの青年なら商売も上手くいきそうだと思った。
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