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プロローグ

楽しみだった学園生活が一瞬にして恐怖に変わる瞬間。

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「…ここが、千蘭次学院…。 今日から私が通う学校……。」

私、“真城 七海”は、昇降口の前で立ち尽くしていた。
もう呟いてしまったが、今日から通うこの“私立 千蘭次学院”は、日本全国の次男・次女を集めた次男・次女の為の学園なのだ。
初等部・中等部・高等部、それら全ての生徒と教師が次男・次女であり、ここでは彼らが“空気の読み方”を主に教わるのだ。
ちなみに、今年出来たばかりなので、生徒は学園側から選出されて声をかけられる。

さて、話は変わるが、この学園には“落第”というものが存在する。
自分たちから私たちを呼んだのに、いきなり落第とは酷すぎる話だと思うが…。
この学園には落第者・進級者を決める試験がある。
それは、いわゆる“戦争”だ。
とにかく空気を読む戦争、通称“カラ戦”
戦場の中でいかに空気が読めるか、それが戦争の結果に繋がる…とかいう話を聞いたが、入学すらしていない私にはまだ分からない話だ。

まあ、とりあえず編入されたクラスに行こう。
私は欠伸をしながら昇降口の中に入ろうとした。
その時だった。
「お兄ちゃん!?」
私の兄にそっくりな人が少し遠くの方を歩いていた。
真城家の兄妹の中で『次』が付くのは私だけだ。
私は姉と兄がいて、構成的には女2人男1人なのだ。
だからお兄ちゃんは長男で、この学園には通えないはずだ。
私が兄を見ながらそんな事を考えていると、兄と目が合ってしまった。兄は、私を見てニコッと爽やかな笑顔を浮かべる。
(あれ、絶対お兄ちゃんだあアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!)
今の私は絶望の塊だ。
「よし、今のは見なかった事にしよう。」
私は真顔でそう呟いた。もういっその事開き直ってしまおうと思ったのだ。


そんなこんなで、やっと自分の教室に着いた。
教室のクラスは“中等部・3年D組”。

「はあ…。何か、もう疲れが……。」
私は新しい自分の机に伏せて唸っている。
もう新しい学校生活がどうとかどうでもいい。
「七海! 七海!!」
聞き覚えのある声が右耳の方から聞こえた。
「……あ。」
顔を上げると右側に小学校からの友達の“夢野 鈴香(ゆめの りんか)”がいた。
「おはよう!一昨日振りだね!!」
「それ、振りっていうのかな?」
「同じクラスで良かったねー!」
「うん、そうだね。」
彼女は名前の通り、夢見がちな女の子で、どうして私たちが仲良くなったのかは不明だが、まあそれはいいだろう。
それよりも……
「ねえ!この間貸したゲームやった!?」
「あ、あの乙女ゲーム?まだやってないけど。」
お前の貸してくるゲームは、まずやらない。
「マジかー!! あれさ、主人公の女の子との恋愛じゃなくて、攻略キャラ同士の絡みがツボでさ!!」
「う、うん…。」
「もう特ににあの2人はお似合いだと思うんだよ!!  セントが攻めでマモルが受け…みたいな!?ww」
……最近、彼女が見る“夢”が違う何かになってる気がする…。

そんな話をしていたら、チャイムが鳴った。

「鈴香、席に行った方がいいよ。」
「うん!また後でね!!」
やけにテンションの高い台風が去った所で、私は頬杖をつく。

クラスの全員が席についた頃、教室のドアが開いた。
その時私は下を向いていたが、クラスの男子が「綺麗な先生。」と言ったので、興味本位で見てみる。

「皆さん!初めまして、今日からこの中等部・3年D組の担任になりました!! “真城 愛”で~す♪」
「……は?」

教卓に立っていたのは、長女である私の姉だった。

「あ!七海ー!!」
姉が私に向かって手を振り出すので、クラスメイトたちが全員私に視線を送る。
お姉ちゃん!恥ずかしいから止めてよっ!!
っていうか、お姉ちゃん長女なのに何でこの学園に来てるの!?

「それでは、出席をとりましょー!!」
姉は出席簿を手に取って、ペン回しを1回してから出席を始めた。
「それでは、“相澤 奈々”さん。」
「は……」
「ちなみに父親は“相澤 利光”、母は“相澤 志織”さんです!!」
「は、はい…。」
お姉ちゃん、何人の個人情報流してんの!?
親の名前なんていらないから!!
しかも相澤さん、返事しにくくなってるし!!
「相澤さん、もっと元気よく返事しないと駄目だよ?」
「は、はい…。」
貴方のせいで返事しにくくなってるんだよ!
「それじゃあ次は……天谷雄二君、父親は……」
こんな感じで、全員の個人情報が1日目にして知られる事になってしまった。

「えっと、じゃあ知ってる人がほとんどだけど、この学園のシステムについて教えるねー!
この学園には、全国から次男と次女だけが集められました。 そして、ここでは次男・次女の長所とする“容量の良さ”・“空気の読み方”などを中心に授業をしていきます。
皆が噂している“カラ戦”については、後日、オリエンテーションをやるから★」

……全員無言だ。

「そ、それじゃあ私の可愛い妹について語るねー♪」
「お姉ちゃん止めてっ!!」
あー、ついに言葉に出てしまった。
「というか先生、入学式とか…ないんでしょうか?始業式とか……。」
窓側の席の1番前の席に座っているメガネ男子が、挙手をして発言をする。
「…………。」
空間が静まり返った。
「あ!!忘れてた!! 委員長ありがとう!!」
「委員長!?」
「みんなー!早く並んでー!! 多分もう始まってると思うけどー!!」
お姉ちゃん、天然過ぎるにも程がある!!
マジでふざけるな!!



何か、空気の読み方を学びに来たのに、担任の教師が空気を読まない変な学校に来てしまったが……この学校で何とかやって行こうと思う。
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