転生ハムスターは王妃を夢見る?

ハイエルフスキー

文字の大きさ
1 / 55
第一章 転生ハムスターは王太子様がお気に入り

1 どうやら、異世界らしい?

しおりを挟む
 テレビドラマそのまんまの取調室だった。

 無機質な壁に事務机と卓上ライト。

 向かいに座る白いトーガを身にまとった女性が翼を広げた。

「お前は死んだ」

 頭の上の輪っかがまぶし過ぎて、顔がよく見えなかった。

「嘆願書が出てるな」

 状況についていけず、とりあえずうなずいた。

「ハムスターのハムちゃんだ」

 さっきまで会社で残業してたのに……。

「とてもかわいがってくれました、だそうだ」

 そういえば、小学生の頃に飼ってたな、ハムちゃん。

「よかったな。では二択だ」

 女が卓上ライトで私を照らした。

「強いのと弱いの、どちらがいい!?」

 眩しさのあまり、私は手で光を遮った。

「急げ! 時間が無限にあると思うな!」

 あまりの女の迫力に、私はガクガクと体を震わせながら、強いほうを選んだ。

「次! かっこいいのとかわいいのはどちらがいい!?」

 今度は急かされる前にかわいいのを選んだ。

「最後だ! 通常用と決戦用、どちらがいい!?」

 えっ? 

 ……それって、どういう意味?

「答えろ!」

 卓上ライトがジリジリと私を焼いて、机が割れるかと思うほど激しく叩かれた。

 私ははじかれたように叫んだ。

「決戦用で!」

 女は手にした大きなハンコを書類に叩きつけた。

「では、行ってこい!」

 次の瞬間、世界が反転して、私は意識を手放した。







「おい、おい、どういうことだ、ハムスターが出たぞ」

 大きな声に驚いて目を覚ますと、魔法使いのコスプレをしたおっさんが、こちらを睨みつけていた。

 えーっと、これはひょっとして東京で行われているというコスプレ会場に紛れ込んだのかな?

「ハムスターって何に使うんだよ、おもしろいな、はっはっはっ!」

 勇者のコスプレをしたイケメンがこっちを見て笑った。

 あー、まちがいなさそうだね。

 コスプレだね。

「ちょっとー、トール! あれだけ魔石注ぎこんで召喚したのがハムスターって! あんた、死んで詫びなさいよ! さもなきゃ、貸した魔石今すぐ返しなさいよ!」

 白いローブを羽織った目つきの悪い女の子が、おっさんに石を投げた。

 どことなく、夢で見たハンコ女に似ている。なんとなくだけど。

 この子が私をコスプレ会場に連れてきたのかな?

「まあまあ、トールだってたまにはミスをすることもあるよ。それに、そのハムスターかわいいよね。なんか、こう、癒やされるよね」

 あっ! と思うと同時に、私の耳がピクンと立ち上がった。

 かわいい!

 銀色のさらっとした巻き毛に大きな空色の瞳。

 気品とやさしさをまとった、絵にかいたような王子様がそこにいた。

 まちがいない!

 およそ三次元には存在しえない、私の二次元的理想の弟さんですね!

 ひゃー、少年執事のようなコスプレも違和感ないわ!

 高鳴る胸の鼓動に居ても立ってもいられず、私は一目散に男の子に向かって走った。

 チョコチョコと足を動かし、ひたすら男の子の元へと。

 走っているはずだった。

 しかし、私の体は宙に浮き、短い手足は空をかいていた。

 首の後ろがびにょーんと伸びている気がする。

「どうするかな、これ。契約しようにもこんな弱そうな奴、契約枠の無駄遣いだしな」

 巨人だ! 

 巨人が私の首の後ろを掴んで……って思って見上げると、さっきのコスプレ魔法使い男と目があった。

 なっ! 

 この魔法使い男、でかいんですけど!

 ちょっ! 

 なに!? 

 ひょっとして、ここってコスプレ会場じゃなくって巨人の世界なのー!?

 た……食べられる……? 

 ふるふると震えて頭を抱えている私の元に、男の子が走ってきた。

 両手ですくうように、私を手のひらに乗せてくれた男の子の、高く可愛らしい声が響く。

「わー、ほんとうにちっちゃくてかわいいねー。ねえ、トール。いらないんだったら、この子、僕にくれない?」

 男の子は私の頭をやさしく撫でてくれる。

 おー、気持ちいいですよ、私の理想の弟くんよ。

 うんうん、もっと撫でてー、と私は頭を男の子の手にこすりつけた。

「それはかまいませんが、こんなちっこいのでも召喚獣ですからね。ちゃんと契約しないとこっちの世界に留まれないって……ありゃ? なんだこいつ、契約のわっかを背負ってないな。うーん、こいつ召喚獣じゃないのか?」

「それって、その辺にいた本当のハムスターなんじゃないの? 要するに、あんた召喚に失敗したのよ。ふふっ、大陸一の召喚術師が聞いてあきれるわね」

「なんだとっ! 聞き捨てならんな、シーラ! この私が失敗などするものか!」

「ふふっ、じゃあ、そのハムスターを召喚したっていうことでいいわよ。ドラゴンすら召喚できるほどの魔石をつぎ込んで、ハムスターを召喚したってことでね。ふふっ、あんた歴史に名前を残せるわよ」

 頭上でなにやら緊迫した空気が漂う中、私は男の子の温かな手にくるまれて、ゴロゴロと喉を鳴らしていた。

「まあまあ、トールもシーラも落ちつけよ。明日はついに魔王との最終決戦なんだからさ、仲良くいこうぜ。ねえ、テディ王太子殿下」

 うん?

 コスプレ勇者よ、今、妙なこと言わなかった?

 テディ王太子殿下って、この男の子だよね。

 うんうん、私の理想の弟くんは王太子様なんだね。

 うんうん、それはいいね。

 さすがは私の弟くん。

 未来の王様なんだ。

 よしっ、私の目に狂いはなかった。

 一生ついていきますよ、殿下。

 それは良しとして、魔王との最終決戦。

 これは聞き捨てならないね。

 魔王なんてのがいるということは、これはどう考えても、異世界だね。

 ということは……うーん……これは、あれだね。

 死んで転生。

 転生先は異世界で、この方々は勇者様御一行。

 二十九年の人生が終わって、転生後、二日目に魔王と戦うってこと?

 ハムスターとして? 

 それって、あれだよね。

 詰んだ――ってやつだよね、もしかしなくても。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた

たぬきち25番
恋愛
男爵家の三女イリスに転生した七海は、貴族の夜会で相手を見つけることができずに女官になった。 女官として認められ、夜会を仕切る部署に配属された。 そして今回、既婚者しか入れない夜会の責任者を任せられた。 夜会当日、伯爵家のリカルドがどうしても公爵に会う必要があるので夜会会場に入れてほしいと懇願された。 だが、会場に入るためには結婚をしている必要があり……? ※本当に申し訳ないです、感想の返信できないかもしれません…… ※他サイト様にも掲載始めました!

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。 ※後日談を更新中です。

妹の身代わりだった私に「本命は君だ」――王宮前で王子に抱き潰され、溺愛がバレました。~私が虐げられるきっかけになった少年が、私と王子を結び付

唯崎りいち
恋愛
妹の身代わりとして王子とデートすることになった私。でも王子の本命は最初から私で――。長年虐げられ、地味でみすぼらしい私が、王子の愛と溺愛に包まれ、ついに幸せを掴む甘々ラブファンタジー。妹や家族との誤解、影武者の存在も絡み、ハラハラと胸キュンが止まらない物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...