転生ハムスターは王妃を夢見る?

ハイエルフスキー

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第一章 転生ハムスターは王太子様がお気に入り

9 天使ですか? それとも、悪魔ですか?

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 雷でも落ちたのかというほどのまばゆい光があたり一面をおおい、ゆっくりと収束していく。

 王太子様の指の隙間から、私は目を細めて、その光景をジトーッと見つめていた。

 光が弱まるとともに、かすむ視界の中から姿を現したのは、大きく広げられた翼。

 白いトーガを身にまとい、頭にはキラキラと輝く白い輪っか。

 そんなバカな!? 

 という思いとともに、抑えきれない震えが私を襲った。

 まぶしすぎて顔がよく見えないが、三日月形につりあがった唇の形に見覚えがある。

 まちがいない。

 恐いほうの翼女、もしくはハンコ女だ。

 いや、今はハンコを持っていないから翼女と言うべきだろう。

 凶暴性が服を着たような翼女が、ゆっくりとこちらに漂ってきた。

 いやいや、こいつは援軍じゃないよ、絶対に。

 私はガクガク震える体を、王太子様の指にしがみつくことでなんとか抑え込んだ。

『私を呼び出したのはお前か?』

 聞き覚えのある冷たい声が、私の脳内に直接響き渡る。

 王太子様にも声が届いたみたいだ。

 しがみついていた王太子様の指が、全身ごと震えだした。

『ほーう、レベルを上げたのか。ああ、なるほど、命と引き換えに魔王を倒したのか。それで姿が変わっているのか。たいしたものだな、くっくっくっくっ』

 翼女の笑い声が頭の中でぐるぐる回る。

 こっ、恐すぎる。

 できれば、早急にお引き取り願いたい。

 涙目でブルブル震えている私の脳内に、さらに翼女の底冷えするような声が響いた。

『ほーう、ずいぶんと囲まれているんだな。精霊と召喚獣がざっと千匹といったところか。この連中をつぶせばいいのか?』

 えっ?

 本当に援軍なの?

 と半ば期待しながらも、信用していいものかどうか踏ん切りが付かない。

 私は返答に詰まりながらも、ハムスター脳をフル回転させた。

 しばしの思案の後、いやいや、信じるしかないよねと、私は首をぶんぶんと縦に振った。

 どうやら、私の意思は伝わったみたいだ。

 翼女はニヤッと口の端をつり上げた。

『しかし、対価はどうする? お前たちが持っている魔石では全然足りんな。代わりに命でも差し出すか?』

 ごめんなさい。

 まちがえました。

 やっぱり、援軍なんかじゃなかったです。

 更なる衝撃でブルブルと震えている私の目の前で、翼女はまわりをぐるっと見回した。

『ああ、あっちの連中が魔石をいっぱい持っているな。まあ、あれだけあればいいだろう』

 そう言いながら、翼女は敵であるプルッキア帝国軍の陣営を指差した。

『あ、あ、あのー、あっちは敵なんですけど……』

 あとから命を請求されてはかなわんと思った私は、脳内でどもりながらも、なんとか翼女に意思を伝えた。

『ああ、気にするな。どちらでもかまわん。取り立ても私がやってやろう。では、契約だ。私はお前の決戦相手である召喚獣と精霊を殲滅せんめつする。ただ、人を消すと提出する書類が面倒だからな。そちらは自分たちで何とかしろ。対価としてこの決戦場所にある魔石をすべていただく。それでいいな?』

 暴力を具現したような翼女を目の前にして、その申し出を断る勇気があるものが存在するのだろうか。

 私はそう思いながらも、ぜひお願いします、と力いっぱい念じた。

 それに、精霊や召喚獣への報酬として使われる魔石は、味方陣営にはほとんど残っていないみたいだし、とってもいい話のような気もする。

 唯一気がかりなのは、この翼女が恐すぎるということだけだ。

『よし、契約成立だ。ああ、それと聖剣を借りていくぞ。代わりにお前たちの魔石には手を出さないようにしてやろう』

 その言葉が私の脳内に響き渡ると同時に、翼女は翼を大きく広げ、空高く舞いあがった。

 なぜか、その手に聖剣エクスカリバーを携えて。



 翼女はドラゴンに標的を定めたらしく、暇そうに二頭仲良く飛んでいたドラゴンに瞬く間に迫ると、聖剣エクスカリバーを振りかぶり、軽く斬撃を飛ばした。

 次の瞬間、光の斬撃はドラゴン二頭を真っ二つに切り裂き、まわりにいた精霊や召喚獣をも、衝撃ではじけ飛ばした。

 そこからはもう、現実の世界というよりはゲームの世界だった。

 プレイヤーだけが極端に強い無双系の格闘ゲームの戦闘場面といったところだろうか。

 翼女が飛びながら聖剣を振りまわすだけで、敵が次々と倒されていくという、ゲームバランスを著しく欠いたゲーム。

 もちろん、ゲームではなく現実として、その光景を目の当たりにした敵の精霊や召喚獣たちは、先を争って逃げようとした。

 だけど、あたり一面に見えない網のようなものが張られているらしく、猫の子一匹逃げることすらかなわなかった。

 恐ろしい速さで飛びながら聖剣エクスカリバーを振りまわす翼女から逃れることができず、次々と光の斬撃を浴びて姿を消していく精霊や召喚獣。

 私たちはただただ、口を半開きにしたまま空を見上げ続けた。

「おーい、大変だ! 俺の聖剣が消えたんだよ! どこに行ったか知らないか!?」

 馬車に乗り込んできた勇者の叫び声で、みんながようやく我に返り、いっせいに翼女を指差した。

「……ラルフ、えーっとね、大天使様がちょっと借りるって言ってたよ」

 私以外で唯一、翼女の声を聞いていた王太子様が、申し訳なさそうに勇者にそう告げた。

 同時にお腹がぐーっと鳴った私は、おおあわてでヒマワリの種をガッつきながらも、首をひねった。

 えっ? 

 大天使? 

 あれって天使なの?

 どっちかっていうと、悪魔に見えるんですけど。

「えっ!? 大天使様が!? っていうかあれ大天使様なんですか!? すげー、初めて見た! でも、なんで大天使様が!? どういうこと!?」

 勇者が口をパクパクさせながら、バカみたいな速さで王太子様と翼女に交互に視線を送る。

「うーん、ハムちゃんの援軍っていうか、ハムちゃんが召喚したというか、ハムちゃんの友達みたいだったよ」

 いやいや、王太子様、友達ではないよ。

 百歩譲って顔見知りだとしても、あんな恐い奴が友達っていうのはありえないよ。

 いや、頭の上の輪っかがまぶしすぎて、顔が見えないから、顔見知りですらないよね。

 そう言いたかったけど、ちょうどヒマワリの種を噛み砕くのに忙しかった私は、王太子様に突っ込みを入れることができなかった。

 そこに、間髪かんぱつ入れず、シーラが満面の笑みを私に向けてきた。

「ほんと使えるわね、あんた! まさか大天使様と友達って、ありえないわよ! ちょっとー、今度紹介しなさいよ!」

 いやいや、本人を目の前にして使えるってセリフはどうかと思うよ。

 それと、あんな恐ろしい奴を紹介して欲しいっていうのもね。

 ちょっとご機嫌損ねたら消されるよ、シーラ。

「ということは、このハムスターは召喚獣ではなくて、神の使いなのかもしれんな」

「そう言われればそうね。こいつってずっとこの世界に居座ってるわよね。普通の召喚獣ならとっくに帰ってるはずよね」

 ちぃっ! 

 せっかくトールがいいこと言ったのに、シーラめ!

 居座ってるってどういうことよ、この性悪女が!

 というか、召喚獣ってどこに住んでるの?

「そっかー、神の使いなんだ、ハムちゃんって。そうだよね、大天使様とも友達だし」

 まあ、王太子様ってば、私のことを神の使いだなんて。

 ぷぷっ。

 私も出世したもんだね。

 ぷぷっ。

 笑いがとまりませんな。

 今度は、大天使ではなく、王太子様のウルウルした尊敬の眼差しがまぶしすぎてたまらない。

 大丈夫ですよ、王太子様。

 たとえ、私が神の使いでも、王太子様は私の大切な婚約者だからね。

 大事にしますよ。

 などと脳内にバラの花を咲かせていると、勇者の大声があたりに響き渡った。

「すっげー! あっという間に全滅させたぞ! さすがは大天使様! おいおい、ハムスター、俺にも大天使様を紹介してくれよ。聖剣の必殺技とか教えてくんねーかな?」
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