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第2章 救国のハムスターは新たな人生を歩む
21 だまされたのかしら?
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夏真っ盛りにもかかわらず、厚手のローブを羽織ってなお肌寒さを感じる大陸最高峰ケブネカイセ山の中腹。
垂直に切り立った岩壁にへばりつくように造られている魔族の砦は、人の脚ではどうやってもたどり着けそうにない。
大勢の術師が揃って頭上を見上げる中、断崖絶壁を舞台に精霊と召喚獣による対魔族空中戦が繰り広げられていた。
ケブネカイセ山頂付近に生じた魔界と人界を隔てる壁の亀裂。
そこから人界へと進出した魔族は、周辺に強固な砦をいくつも作り、隙あらば人界へ兵を送り出してくる。
とはいっても、さすがの魔族も雪に閉ざされる秋から春にかけては、人界に攻めてくることはない。
魔族が本格的に暴れ出すのは、中腹に雪がなくなる初夏からだ。
そのため、一年に一度、ケブネカイセ山に隣接する四つの国は時期を合わせて、東西南北より一斉に魔族の砦を攻めたてるのだ。
さすがはシルフィー、大活躍だね。魔族も真っ青な強さだね。
精霊界最速と豪語するだけのことはある。シルフィーは追い詰めた魔族の反撃を寸前でかわし、至近距離から風の刃を連続で叩きこんだ。
魔力を体の表面にまとって身を守っている魔族とはいえ、シルフィーの攻撃をいつまでもしのぐことはできない。
三撃までは耐えたが、四撃目の刃がその身を真っ二つに切り裂いた。
魔族の体は地面に落ちる前に、砂のように風に吹かれて消えていった。
手にしていた剣が地面に突き刺さり、着ていた服が遠く離れた場所に舞い落ちる。
うーん、いつも思うんだけど、魔族って何でできてるんだろうね?
などと場違いな思いに耽っていると、私のパートナーとなっている魔術師のイルヴァがパチパチとシルフィーに拍手を送った。
「すごいですよー! さすがはモランデル様の精霊ですねー! 今回の合同攻戦の最優秀賞はまちがいなく私たちですよー! いやー、よかったー! わたくし、全身全霊でもってモランデル様を守らせていただきますね!」
この世界の戦いでは一般的なのだけど、精霊術師や召喚獣術師にはパートナーとして魔術師が付けられる。
術師が戦いに集中できるように、魔術師が常に防御膜を張って守ってくれるのだ。
そのこと自体はありがたいのだけど、イルヴァが私のことを家名で呼ぶ度に、正直言ってイラッとする。
イルヴァは私のことをモランデル様と呼ぶのだ。
言うまでもなく、モランデルというのはシーラの家名だ。
イルヴァの頭の中では、私はモランデル子爵令嬢であり、精霊省長官の養女というおえらい身分の方なのだ。
ハーモニーと呼んでください、という私の再三にわたる申し出は、その都度、なにをおっしゃいますやら、と困惑顔で却下された。
ご貴族様のファーストネームなど畏れ多くて呼べないということだろうか。
しかも、シルフィーの大活躍のおかげで難攻不落と言われていた魔族の砦が、今や陥落寸前だ。ゴマをすっておかなければならない相手に見えるのかもしれない。
ただ、ひとこと言わせてもらえば、私はハーモニー・オスカリウスであって、断じてハーモニー・モランデルではない。
私は今でもトールのお屋敷に住んでいるし、シーラに養ってもらっているわけでもない。
シーラにだまされたのだ。トールも私も。
ほんの二週間前、私はシルフィーと精霊契約を結び、晴れて精霊術師という身分を手に入れた。
しかも、精霊に乗って移動することができるという、前代未聞の精霊術師となった。
シーラの説明によると、人族と精霊は安定して接触できないらしく、精霊に乗る精霊術師など聞いたことがない、とのことだった。
そう言われてみれば、ハムスター時代の移動もすべて召喚獣だった。
ただ、当時は、精霊ともなると気位が高くて人を乗せてくれないんだな、ぐらいにしか考えていなかった。
あんたって本当にありえないわね、と何やら思案顔で呟いたシーラは、その場で契約している風の精霊シルフを召喚した。
呼び出されたシーラのシルフは、シルフィーを見るとペコペコと頭を下げて、愛想笑いのようなものを浮かべた。
それから、シルフはシーラと思念のやりとりをして、魔石をひとつもらって姿を消した。
その後だ。シーラはまるで善人であるかのような笑みを浮かべて私を振り返り、こう切り出した。
「あんた、王立学園に通ってみたくない? 九月から、私の末の弟も通うし、王太子様も入園することになってんのよ。名門よ、名門。どう頑張ったって、田舎の平民の小娘が入れるようなところじゃないわよ。でもね、精霊省枠があるから、私が推薦すれば大丈夫。あんたみどころがあるから、私が後見人になってあげるわよ。本来なら、今頃入学を申し込んでも手遅れなんだけど、私が後見人になればなんとかなるわ。どう?」
シーラが善人顔をしている時点で、おかしいと気付くべきだったのだけど、この時の私は王太子様というエサに釣られて、冷静な判断ができなくなっていたのだろう。
それに、ロッテンホイヤー女史のスパルタ教育にもウンザリしていたので、深く考えることもなく、ぜひお願いしますと、シーラに頭を下げてしまったのだ。
一緒にいたトールも、じゃあ、学費はこちらで出すよと言ってくれたので、私は跳び上がらんばかりに喜んだのだ。
シーラって結構いい奴だったんだ、とニコニコしながら、言われるがままに入学願書やら提出書類やらにサインをした。
トントン拍子に話は進み、一週間後にはシーラみずからがトールのお屋敷に現われ、私に入学許可書を手渡してくれた。
よーし、これで九月から王太子様と同級生だね、とホクホク顔で入学許可書を覗き込んだ私だったけど、そこに書かれた氏名を見て、唖然とした。
ハーモニー・モランデル、とそこには書かれていた。
うん?
モランデル?
私ってそんな家名だったっけ?
トールから家名をもらったのは、つい先日だ。
たしか、オスカリウスって……言ってなかったっけ?
あれっ?
一回聞いたきりだったから、覚えまちがえだったのかな?
そう思った私は隣に座っていたトールの目の前に、入学許可書をすーっとスライドさせて押し付けた。
トールは三度ばかり目を瞬いた後、目をゆっくりと細めながら、向かいに座っているシーラに視線を移した。
そして、いつもより少しだけ低めの声を発した。
「ハーモニー・モランデル?」
ああ、それね、とシーラはたいしたことではないかのように、軽く手を振った。
「入学願書を提出する時期がちょっと遅すぎてね。貴族っていうことにしないと無理だったから、とりあえず私の養女っていうことにしておいたわ。まあ、後見人とさして変わりがないしね。ああ、お礼ならいいのよ。私の厚意だから、ありがたく受け取っておきなさい」
しばらくの間、トールは呼吸するのを忘れていたようだ。
思い出したように大きく息を吸って、ソファーに深く体を沈みこませた後、不信感と一緒に吐き出した。
「シーラ、それは入学願書だけか? それとも、この前ハーモニーに書かせた書類の中に、養子縁組書類も混じっていたのか?」
「私は精霊省の長官なのよ、トール。まさか王立学園に提出する書類に虚偽を書くわけがないでしょう? もちろん、ちゃんと養子縁組もしておいたわよ。安心して」
すっかり悪人顔で微笑むシーラに、トールはソファーから背を離して起き上がった。
「いやいや、勝手に養子縁組したらまずいだろう? それこそ虚偽じゃないのか?」
「何言ってんの、トール? 私はこの子の後見人なのよ。後見人の許可があれば養子縁組は可能よ。この子のサインもあるし、書類にはまったく不備はないわよ」
「書類に不備がないといっても――」
この後、トールとシーラの押し問答が始まったのだけど、もちろん、トールがシーラを言い負かせるはずがなかった。
さらに、話し合いが終わる頃には、私は一週間後に行われる対魔族四ヶ国合同攻戦に参加することになっていた。
モランデル子爵家の養女ハーモニー・モランデルとして。
「よーし、敵は全滅した! これより掃討戦に移る! 土の精霊を使える精霊術師は砦を内部から破壊し尽くすように! 残りの者は周囲に残党がいないか調べてくれ!」
部隊長が辺り一帯に響き渡る声で指示を出した。
伝令役の召喚獣も飛び立ち、指示を受けたみんながいっせいに動き出す。
魔族の砦を奪っても、冬の間孤立する砦を守りきることはできない。
もったいないけど、破壊するしかない。
ハムスター時代に合同攻戦に参加した時もそうだった。
人界から完全に魔族を追い払うことは不可能に近い。
破壊されつつある砦から、巨岩がごろごろと転がってくる。
私たちは魔術師の防御膜に守られて、ぞろぞろと移動を開始した。
部隊長がいかつい顔をほころばせ、私とイルヴァを手招きする。
「よくやったな、ふたりとも。まさか、この砦を落とすことができるとはな。ひょっとしたら勲章をもらえるかもしれんな。とくに、モランデル子爵令嬢は大活躍だったな。さすがは精霊省長官ご自慢のご令嬢だ」
褒めてくれるのはうれしいのだけど、どうしてもシーラとセットにされているのが気になる。
どうにも釈然としないなと思っていると、ハヤブサによく似た伝令役の召喚獣がきりもみ状態でこちらに突っ込んできた。
すぐさま、部隊長が足に巻かれていた手紙に目を通す。
いかつい顔が驚愕でゆがみ、鋭い視線が私に向けられた。
「一班が攻めている砦に魔族四天王が現われた。二班、三班は現状を優先しつつ、余裕があれば援軍を差し向けるようにという指示だ」
ティトラン王国の攻戦部隊は三班に分かれている。
目の前の砦を攻めたてていたのは、私が所属している二班だ。
えっ?
魔族四天王?
あの四色の連中が?
一班って、王太子様がいるとこだよね。
それに、トールもシーラもクレアもいる。
たしか、勇者も一班だったよね。
要するに主力メンバーだよね。
一瞬、ひやっとしたものの、余裕があればということだし、大丈夫なんだろう。
私はほっと肩の力を抜いた。
「ただし、ハーモニー・モランデルは最速で一班に合流するように、とある」
最速?
私は頭の上に疑問符を浮かべたまま、なぜか部隊長の額に寄ったしわの数を数えていた。
垂直に切り立った岩壁にへばりつくように造られている魔族の砦は、人の脚ではどうやってもたどり着けそうにない。
大勢の術師が揃って頭上を見上げる中、断崖絶壁を舞台に精霊と召喚獣による対魔族空中戦が繰り広げられていた。
ケブネカイセ山頂付近に生じた魔界と人界を隔てる壁の亀裂。
そこから人界へと進出した魔族は、周辺に強固な砦をいくつも作り、隙あらば人界へ兵を送り出してくる。
とはいっても、さすがの魔族も雪に閉ざされる秋から春にかけては、人界に攻めてくることはない。
魔族が本格的に暴れ出すのは、中腹に雪がなくなる初夏からだ。
そのため、一年に一度、ケブネカイセ山に隣接する四つの国は時期を合わせて、東西南北より一斉に魔族の砦を攻めたてるのだ。
さすがはシルフィー、大活躍だね。魔族も真っ青な強さだね。
精霊界最速と豪語するだけのことはある。シルフィーは追い詰めた魔族の反撃を寸前でかわし、至近距離から風の刃を連続で叩きこんだ。
魔力を体の表面にまとって身を守っている魔族とはいえ、シルフィーの攻撃をいつまでもしのぐことはできない。
三撃までは耐えたが、四撃目の刃がその身を真っ二つに切り裂いた。
魔族の体は地面に落ちる前に、砂のように風に吹かれて消えていった。
手にしていた剣が地面に突き刺さり、着ていた服が遠く離れた場所に舞い落ちる。
うーん、いつも思うんだけど、魔族って何でできてるんだろうね?
などと場違いな思いに耽っていると、私のパートナーとなっている魔術師のイルヴァがパチパチとシルフィーに拍手を送った。
「すごいですよー! さすがはモランデル様の精霊ですねー! 今回の合同攻戦の最優秀賞はまちがいなく私たちですよー! いやー、よかったー! わたくし、全身全霊でもってモランデル様を守らせていただきますね!」
この世界の戦いでは一般的なのだけど、精霊術師や召喚獣術師にはパートナーとして魔術師が付けられる。
術師が戦いに集中できるように、魔術師が常に防御膜を張って守ってくれるのだ。
そのこと自体はありがたいのだけど、イルヴァが私のことを家名で呼ぶ度に、正直言ってイラッとする。
イルヴァは私のことをモランデル様と呼ぶのだ。
言うまでもなく、モランデルというのはシーラの家名だ。
イルヴァの頭の中では、私はモランデル子爵令嬢であり、精霊省長官の養女というおえらい身分の方なのだ。
ハーモニーと呼んでください、という私の再三にわたる申し出は、その都度、なにをおっしゃいますやら、と困惑顔で却下された。
ご貴族様のファーストネームなど畏れ多くて呼べないということだろうか。
しかも、シルフィーの大活躍のおかげで難攻不落と言われていた魔族の砦が、今や陥落寸前だ。ゴマをすっておかなければならない相手に見えるのかもしれない。
ただ、ひとこと言わせてもらえば、私はハーモニー・オスカリウスであって、断じてハーモニー・モランデルではない。
私は今でもトールのお屋敷に住んでいるし、シーラに養ってもらっているわけでもない。
シーラにだまされたのだ。トールも私も。
ほんの二週間前、私はシルフィーと精霊契約を結び、晴れて精霊術師という身分を手に入れた。
しかも、精霊に乗って移動することができるという、前代未聞の精霊術師となった。
シーラの説明によると、人族と精霊は安定して接触できないらしく、精霊に乗る精霊術師など聞いたことがない、とのことだった。
そう言われてみれば、ハムスター時代の移動もすべて召喚獣だった。
ただ、当時は、精霊ともなると気位が高くて人を乗せてくれないんだな、ぐらいにしか考えていなかった。
あんたって本当にありえないわね、と何やら思案顔で呟いたシーラは、その場で契約している風の精霊シルフを召喚した。
呼び出されたシーラのシルフは、シルフィーを見るとペコペコと頭を下げて、愛想笑いのようなものを浮かべた。
それから、シルフはシーラと思念のやりとりをして、魔石をひとつもらって姿を消した。
その後だ。シーラはまるで善人であるかのような笑みを浮かべて私を振り返り、こう切り出した。
「あんた、王立学園に通ってみたくない? 九月から、私の末の弟も通うし、王太子様も入園することになってんのよ。名門よ、名門。どう頑張ったって、田舎の平民の小娘が入れるようなところじゃないわよ。でもね、精霊省枠があるから、私が推薦すれば大丈夫。あんたみどころがあるから、私が後見人になってあげるわよ。本来なら、今頃入学を申し込んでも手遅れなんだけど、私が後見人になればなんとかなるわ。どう?」
シーラが善人顔をしている時点で、おかしいと気付くべきだったのだけど、この時の私は王太子様というエサに釣られて、冷静な判断ができなくなっていたのだろう。
それに、ロッテンホイヤー女史のスパルタ教育にもウンザリしていたので、深く考えることもなく、ぜひお願いしますと、シーラに頭を下げてしまったのだ。
一緒にいたトールも、じゃあ、学費はこちらで出すよと言ってくれたので、私は跳び上がらんばかりに喜んだのだ。
シーラって結構いい奴だったんだ、とニコニコしながら、言われるがままに入学願書やら提出書類やらにサインをした。
トントン拍子に話は進み、一週間後にはシーラみずからがトールのお屋敷に現われ、私に入学許可書を手渡してくれた。
よーし、これで九月から王太子様と同級生だね、とホクホク顔で入学許可書を覗き込んだ私だったけど、そこに書かれた氏名を見て、唖然とした。
ハーモニー・モランデル、とそこには書かれていた。
うん?
モランデル?
私ってそんな家名だったっけ?
トールから家名をもらったのは、つい先日だ。
たしか、オスカリウスって……言ってなかったっけ?
あれっ?
一回聞いたきりだったから、覚えまちがえだったのかな?
そう思った私は隣に座っていたトールの目の前に、入学許可書をすーっとスライドさせて押し付けた。
トールは三度ばかり目を瞬いた後、目をゆっくりと細めながら、向かいに座っているシーラに視線を移した。
そして、いつもより少しだけ低めの声を発した。
「ハーモニー・モランデル?」
ああ、それね、とシーラはたいしたことではないかのように、軽く手を振った。
「入学願書を提出する時期がちょっと遅すぎてね。貴族っていうことにしないと無理だったから、とりあえず私の養女っていうことにしておいたわ。まあ、後見人とさして変わりがないしね。ああ、お礼ならいいのよ。私の厚意だから、ありがたく受け取っておきなさい」
しばらくの間、トールは呼吸するのを忘れていたようだ。
思い出したように大きく息を吸って、ソファーに深く体を沈みこませた後、不信感と一緒に吐き出した。
「シーラ、それは入学願書だけか? それとも、この前ハーモニーに書かせた書類の中に、養子縁組書類も混じっていたのか?」
「私は精霊省の長官なのよ、トール。まさか王立学園に提出する書類に虚偽を書くわけがないでしょう? もちろん、ちゃんと養子縁組もしておいたわよ。安心して」
すっかり悪人顔で微笑むシーラに、トールはソファーから背を離して起き上がった。
「いやいや、勝手に養子縁組したらまずいだろう? それこそ虚偽じゃないのか?」
「何言ってんの、トール? 私はこの子の後見人なのよ。後見人の許可があれば養子縁組は可能よ。この子のサインもあるし、書類にはまったく不備はないわよ」
「書類に不備がないといっても――」
この後、トールとシーラの押し問答が始まったのだけど、もちろん、トールがシーラを言い負かせるはずがなかった。
さらに、話し合いが終わる頃には、私は一週間後に行われる対魔族四ヶ国合同攻戦に参加することになっていた。
モランデル子爵家の養女ハーモニー・モランデルとして。
「よーし、敵は全滅した! これより掃討戦に移る! 土の精霊を使える精霊術師は砦を内部から破壊し尽くすように! 残りの者は周囲に残党がいないか調べてくれ!」
部隊長が辺り一帯に響き渡る声で指示を出した。
伝令役の召喚獣も飛び立ち、指示を受けたみんながいっせいに動き出す。
魔族の砦を奪っても、冬の間孤立する砦を守りきることはできない。
もったいないけど、破壊するしかない。
ハムスター時代に合同攻戦に参加した時もそうだった。
人界から完全に魔族を追い払うことは不可能に近い。
破壊されつつある砦から、巨岩がごろごろと転がってくる。
私たちは魔術師の防御膜に守られて、ぞろぞろと移動を開始した。
部隊長がいかつい顔をほころばせ、私とイルヴァを手招きする。
「よくやったな、ふたりとも。まさか、この砦を落とすことができるとはな。ひょっとしたら勲章をもらえるかもしれんな。とくに、モランデル子爵令嬢は大活躍だったな。さすがは精霊省長官ご自慢のご令嬢だ」
褒めてくれるのはうれしいのだけど、どうしてもシーラとセットにされているのが気になる。
どうにも釈然としないなと思っていると、ハヤブサによく似た伝令役の召喚獣がきりもみ状態でこちらに突っ込んできた。
すぐさま、部隊長が足に巻かれていた手紙に目を通す。
いかつい顔が驚愕でゆがみ、鋭い視線が私に向けられた。
「一班が攻めている砦に魔族四天王が現われた。二班、三班は現状を優先しつつ、余裕があれば援軍を差し向けるようにという指示だ」
ティトラン王国の攻戦部隊は三班に分かれている。
目の前の砦を攻めたてていたのは、私が所属している二班だ。
えっ?
魔族四天王?
あの四色の連中が?
一班って、王太子様がいるとこだよね。
それに、トールもシーラもクレアもいる。
たしか、勇者も一班だったよね。
要するに主力メンバーだよね。
一瞬、ひやっとしたものの、余裕があればということだし、大丈夫なんだろう。
私はほっと肩の力を抜いた。
「ただし、ハーモニー・モランデルは最速で一班に合流するように、とある」
最速?
私は頭の上に疑問符を浮かべたまま、なぜか部隊長の額に寄ったしわの数を数えていた。
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