転生ハムスターは王妃を夢見る?

ハイエルフスキー

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第2章 救国のハムスターは新たな人生を歩む

22 えっ? これって、ある意味、女王様かしら?

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『見えたぞ。あそこだ。ざっと二、三千といったところか。それに魔族四天王か。腕がなるな』

『えー!? そんなにいるのー!? みんなはどうしてるのー!?』

 最速で一班に合流せよ、という命令を受けた私は、すぐさま二班の術師たちと離れ、シルフィーに乗って飛び立った。

 精霊界最速、つまりは四つの世界の中で最速と豪語するシルフィーにお姫様抱っこされること、およそ十五分。

 一班が攻撃を仕掛ける予定だった、切り立った岩肌に造られた魔族の砦を視界に捉えた。



 砦の崖下に広がる、ただただ石がごろごろ転がっているだけの不毛な荒れ地がピカピカ光っている。

 えーっと、シルフィーって目がいいね。

 魔族なんて全然見えやしないんだけど、と思っているうちにもぐんぐん距離が詰まる。



 飛び交う魔族の攻撃を防いで絶え間なく光を放ち続ける、ドーム型の大きな防御膜と小さな防御膜。

 あれだね。

 シルフィーよりずいぶん遅れたけれど、ようやく私にも状況が把握できた。



 周囲には魔族しかおらず、精霊や召喚獣たちも、術師とともに大きなドームの中に立てこもっている。

 ただ、その数は魔族に比べて圧倒的に少なく、無傷のまま防御に徹しているというわけでもなさそうだ。

 少なくとも一戦交えて、それから作戦を変更したということだろうか。

『ねえねえ、防御膜を張って援軍を待ってるのかな? でも、シルフィーだからこれだけ早く来られたけど、二班の援軍の到着って、あと三時間はかかるって言ってたよね。あっ! でも三班にも援軍の要請をしてる……って、三班って私たちより遠い場所だったよね。うーん、でも、あの大きいのって、第一位防御膜だよね、たぶん。一班は主力だから、魔術師も多いし大丈夫か。小さいのって何なんだろうね?』

『ほーおぅ、あの赤い奴は魔導砲が撃てるんだな。構えたまま力をためているぞ。なるほど、それでか。一瞬でも防御膜を消せば、魔導砲を撃ちこまれるから、味方を防御膜から出せんのだな』

『えーー!? 魔導砲って、あの魔王が撃ってたやつー!? 四天王も撃てるんだー!?』

『ハーモニー。そなた、魔王に会ったことがあるのか?』

『魔王っていうか魔王城にね。シルフィーが知ってる魔王とはちがうと思うけど』

『なにっ! いや、その話は今度にしようか。じき到着するぞ、どうする?』

『うーん、そうだね。あの小さいほうの防御膜って――』

 そう言いかけた時、小さな防御膜に群がっている魔族の隙間から中の様子がチラッとだけ見えた。

 まずいね。

 王太子様だ……それに勇者とクレア。

 勇者は倒れてた。

 王太子様は勇者の胸に手を当ててたから、たぶん治療中なんだ。

 ということは、防御膜を張っているのはクレアひとり。

 三人収容しているということは、第一位防御膜ではなく……いや、三人ならなんとか入れるかもしれない。

 とはいえ、寄ってたかって攻撃されたら、さすがのクレアでも長い間第一位防御膜を張り続けられるものなのだろうか?

『シルフィー、敵の注意を惹きつけて時間を稼ごう! 私を敵の中に下ろして!』

 シルフィーは一瞬で決断したようで、楽しげに思念を返してきた。

『そうだな、そなたはには最適だな。よし、一番目立つ所に下ろしてやろう』

『そーっと置いてね、そーっと。飛べないからね、私』

『それは無理だ。減速した瞬間に攻撃をくらうからな。絶対結界で守られているのであれば、転がったくらいではケガなどしないであろう?』

『いやいや、私自身が転がったら衝撃とかあるでしょう? ゆっくりね、ゆっくり』

 そこまでは面倒見きれんな、というシルフィーのあきれたような声が頭の中に響いた直後――

 ――私はシルフィーの腕から放り投げられ、水面を跳ねる飛び石のように、ワンバウンド、ツーバウンド、スリーバウンドした後、ゴロゴロと地面に転がった。

 殺す気か!

 とうめきながら、なんとか膝をついて体を起こしかけた私に、剣を持った魔族が切りかかってきた。

 と、次の瞬間、身をひるがえしたシルフィーが、魔族の背中に風の刃を連撃で叩きこみ、素早く飛び去った。

 切り裂かれた魔族は驚愕の表情を浮かべたまま、砂のようにサラサラと風に吹かれて消えた。



 クレアの張った防御膜のまわりに群がっていた魔族たちが、慌ててこちらに向かってくる。

 シルフィーは私のまわりをつむじ風のように飛び回り、殺到する魔族に次々と風の刃を放った。

 さすがはシルフィー。

 速いし強い。

 あと、もう少し優しさがあれば惚れてしまうところだ。

 だけど、角ばった石がごろごろと転がっている荒れ地に、高速で人を放り投げる精霊を優しいとは思えなかった。

 私はボロボロになったローブを見て、溜め息をついた。

 絶対結界は私の体を守ってはくれたが、服までは守ってくれないらしい。



 とはいえ、おかげでクレアを攻撃していた敵をこちらに惹きつけることができた。

 狙いどおりだ。

 この次はどうしよう? 

 と思っていたところに、どこからかむちが飛んできた。

 黄色の魔族四天王だ。

 そういえば、魔王との決戦の時にも鞭をびゅんびゅん飛ばしてくる魔族がいたね。

 そうだ、こいつだ。

 見覚えがある。

 絶対結界が防いでくれるとはいえ、鞭が当たる度にローブが破れていく。

 シルフィーも他の魔族の相手で忙しく、四天王にかまっている余裕はなさそうだ。



 しかたなく、私はローブの下にしまっていた髪を引っ張りだし、軽くくくっていたひもをほどいた。

 服を守ってくれない絶対結界だけど、髪は私の体の一部だ。

 たぶん、絶対結界の防御範囲に入るだろう。

 幸いなことに、私の銀色の髪は膝上まで伸びている。

 髪をほどいて軽く振り回せば、上半身は絶対結界で覆うことができる。

 少々、ホラーな見た目にはなるけど、服をボロボロにされるよりはましだ。



 思ったとおり絶対結界が発動したようで、髪の毛に攻撃を阻まれた黄色四天王の顔が、怒りでゆがんでいる。

 正直言って、恐い。

 魔族の顔自体そもそも悪鬼顔なのだ。

 燕尾服えんびふくのような黄色のコスチュームともあいまって、でかいスズメバチにしか見えない。

 まさか毒とか持ってないよね、と髪の毛の隙間からじーっと見つめていると、黄色四天王はガンを付けられたと思ったのか、一気に距離を詰め私を鞭でぐるぐる巻きにした。
 
 その時だった。

『鞭をつかめ! ハーモニー!』

 頭の中に響き渡ったシルフィーの声に、私は言われるがままにガシッと鞭を両手でつかんだ。

『離すな! そのまま引っ張れ!』

 えっー!? 

 と思いながらも私は、えいっとばかりに鞭を引っ張った。

 すると、宙に浮いたまま黄色四天王がこちらに引き寄せられた。

『どんどん引っ張って、そのまま抱きつけ!』

 えー!? 

 このスズメバチに抱きつくのー!? 

 と思ったが、シルフィーは戦い慣れしているし、何か考えがあるんだろうということで、私はスズメバチと目を合わさないようにあさっての方角を向いたまま、どんどん鞭をたぐり寄せた。

 そして、ついにはスズメバチにしがみつくような形となった。

『よーし、よくやった! そのまま動くな!』

 という声が頭の中で響いた直後、腕の中で黄色四天王が砂になって零れていくのがわかった。

 えっ!? 

 と急いで視線を戻した私の視界に一瞬だけ、飛び去っていくシルフィーの残像が映った。

 うん?

 と首を傾げた私の視界の片隅で、切り刻まれたローブの布地が、はらりと宙を舞って風に吹かれて飛んでいった。

 ふと、それを追って視線を動かした私は、服にも何本もの切り跡があることに気がついた。

 隙間から下着がチラッと白い色をのぞかせている。

『シルフィー! 私ごと切ったでしょー! 服が切れてるわよー! どうするの、これー!?』

『はっはっはっは。怒るな怒るな。魔族四天王の命と引き換えだ。服ぐらいお安いものだろう』

 シルフィーは私の猛抗議を高笑いで受け流し、次の獲物を狙って急旋回した。

 値段の問題じゃないよね、とプンプンしながら、ふとクレアのほうを見ると、王太子様が真っ赤な顔でこちらを見ていた。

 私と目が合うとすぐ治療中の勇者に視線を戻したけど、絶対見えてたよね。

 恥ずかしさから顔がぽっと火照るのを感じ、私も思わず顔をそらして、下を向いた。

 一年ぶりの再会が台無しだよ。

 シルフィーめ。

 ハムスターの時は服すら着てなかったけど、今は人だからね。

 下着が見えるだけで大問題だよ。

『おっと、気をつけろ、ハーモニー。魔導砲で狙われてるぞ』

 えっ!? 

 さっきまでは大きい防御膜に向けて、魔導砲を構えてなかったっけ?
 
 私がよそ見している間に、赤い四天王が標的を変えたってこと?

『えっ!? どうすればいい、シルフィー?』

 あたふたと悲鳴のような思念を送った私に、シルフィーはひどく他人事のような思念を返してきた。

『どうするって、そなたの運動神経で避けられるはずがあるまい? 当たるしか――』

 その思念を聞き終える前に、懐かしい一条の閃光せんこうが私に向かって放たれた。

 ほんのひとつ瞬きをした後、私のまわりにあった石が吹き飛ばされ、地面がえぐりとられて窪地くぼちとなっていた。

 私はパチパチと瞬きをしながら、自分の姿に目をやった。

『最悪……は免れたのかな?』

 下を向いて髪が私を囲んでいたのが良かったのだろう。

 かろうじて服は焼けることなく残っていた。

 ただ、髪が届いていない膝から下はローブもズボンもすっかり焼け焦げて、華奢な白い素肌をさらしていた。

 靴ももちろん跡形なく焼失して、裸足になっていた。

 許すまじ、魔族。

 この肌寒い山奥で、膝から下の衣類を焼きつくすとは。



 私は無意識のうちに、握りしめていた鞭を大きく振りあげた。

 そして、いちばん近くにいた魔族に向けて振りおろした。

 鞭は唸るような音をたてながら魔族に向かって飛ぶと、バーンという音とともに魔族を弾き飛ばした。

 その衝撃で倒れ込んだ魔族に、すかさずシルフィーが風の刃を叩きこんで砂に変えた。



 あれっ?

 何この鞭?

 おかしいね。

 私の力でこんなに長い鞭が振れるわけないよね。

 というか、この鞭っていつの間に?

『ハーモニー! それは魔族四天王の鞭だ。おそらく意志を汲み取って、狙ったところに当たるはずだ。当たりさえすれば、あとは我が風の刃を叩きこむ。どんどん振り回せ!』
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