22 / 55
第2章 救国のハムスターは新たな人生を歩む
22 えっ? これって、ある意味、女王様かしら?
しおりを挟む
『見えたぞ。あそこだ。ざっと二、三千といったところか。それに魔族四天王か。腕がなるな』
『えー!? そんなにいるのー!? みんなはどうしてるのー!?』
最速で一班に合流せよ、という命令を受けた私は、すぐさま二班の術師たちと離れ、シルフィーに乗って飛び立った。
精霊界最速、つまりは四つの世界の中で最速と豪語するシルフィーにお姫様抱っこされること、およそ十五分。
一班が攻撃を仕掛ける予定だった、切り立った岩肌に造られた魔族の砦を視界に捉えた。
砦の崖下に広がる、ただただ石がごろごろ転がっているだけの不毛な荒れ地がピカピカ光っている。
えーっと、シルフィーって目がいいね。
魔族なんて全然見えやしないんだけど、と思っているうちにもぐんぐん距離が詰まる。
飛び交う魔族の攻撃を防いで絶え間なく光を放ち続ける、ドーム型の大きな防御膜と小さな防御膜。
あれだね。
シルフィーよりずいぶん遅れたけれど、ようやく私にも状況が把握できた。
周囲には魔族しかおらず、精霊や召喚獣たちも、術師とともに大きなドームの中に立てこもっている。
ただ、その数は魔族に比べて圧倒的に少なく、無傷のまま防御に徹しているというわけでもなさそうだ。
少なくとも一戦交えて、それから作戦を変更したということだろうか。
『ねえねえ、防御膜を張って援軍を待ってるのかな? でも、シルフィーだからこれだけ早く来られたけど、二班の援軍の到着って、あと三時間はかかるって言ってたよね。あっ! でも三班にも援軍の要請をしてる……って、三班って私たちより遠い場所だったよね。うーん、でも、あの大きいのって、第一位防御膜だよね、たぶん。一班は主力だから、魔術師も多いし大丈夫か。小さいのって何なんだろうね?』
『ほーおぅ、あの赤い奴は魔導砲が撃てるんだな。構えたまま力をためているぞ。なるほど、それでか。一瞬でも防御膜を消せば、魔導砲を撃ちこまれるから、味方を防御膜から出せんのだな』
『えーー!? 魔導砲って、あの魔王が撃ってたやつー!? 四天王も撃てるんだー!?』
『ハーモニー。そなた、魔王に会ったことがあるのか?』
『魔王っていうか魔王城にね。シルフィーが知ってる魔王とはちがうと思うけど』
『なにっ! いや、その話は今度にしようか。じき到着するぞ、どうする?』
『うーん、そうだね。あの小さいほうの防御膜って――』
そう言いかけた時、小さな防御膜に群がっている魔族の隙間から中の様子がチラッとだけ見えた。
まずいね。
王太子様だ……それに勇者とクレア。
勇者は倒れてた。
王太子様は勇者の胸に手を当ててたから、たぶん治療中なんだ。
ということは、防御膜を張っているのはクレアひとり。
三人収容しているということは、第一位防御膜ではなく……いや、三人ならなんとか入れるかもしれない。
とはいえ、寄ってたかって攻撃されたら、さすがのクレアでも長い間第一位防御膜を張り続けられるものなのだろうか?
『シルフィー、敵の注意を惹きつけて時間を稼ごう! 私を敵の中に下ろして!』
シルフィーは一瞬で決断したようで、楽しげに思念を返してきた。
『そうだな、そなたは撒き餌には最適だな。よし、一番目立つ所に下ろしてやろう』
『そーっと置いてね、そーっと。飛べないからね、私』
『それは無理だ。減速した瞬間に攻撃をくらうからな。絶対結界で守られているのであれば、転がったくらいではケガなどしないであろう?』
『いやいや、私自身が転がったら衝撃とかあるでしょう? ゆっくりね、ゆっくり』
そこまでは面倒見きれんな、というシルフィーのあきれたような声が頭の中に響いた直後――
――私はシルフィーの腕から放り投げられ、水面を跳ねる飛び石のように、ワンバウンド、ツーバウンド、スリーバウンドした後、ゴロゴロと地面に転がった。
殺す気か!
と呻きながら、なんとか膝をついて体を起こしかけた私に、剣を持った魔族が切りかかってきた。
と、次の瞬間、身をひるがえしたシルフィーが、魔族の背中に風の刃を連撃で叩きこみ、素早く飛び去った。
切り裂かれた魔族は驚愕の表情を浮かべたまま、砂のようにサラサラと風に吹かれて消えた。
クレアの張った防御膜のまわりに群がっていた魔族たちが、慌ててこちらに向かってくる。
シルフィーは私のまわりをつむじ風のように飛び回り、殺到する魔族に次々と風の刃を放った。
さすがはシルフィー。
速いし強い。
あと、もう少し優しさがあれば惚れてしまうところだ。
だけど、角ばった石がごろごろと転がっている荒れ地に、高速で人を放り投げる精霊を優しいとは思えなかった。
私はボロボロになったローブを見て、溜め息をついた。
絶対結界は私の体を守ってはくれたが、服までは守ってくれないらしい。
とはいえ、おかげでクレアを攻撃していた敵をこちらに惹きつけることができた。
狙いどおりだ。
この次はどうしよう?
と思っていたところに、どこからか鞭が飛んできた。
黄色の魔族四天王だ。
そういえば、魔王との決戦の時にも鞭をびゅんびゅん飛ばしてくる魔族がいたね。
そうだ、こいつだ。
見覚えがある。
絶対結界が防いでくれるとはいえ、鞭が当たる度にローブが破れていく。
シルフィーも他の魔族の相手で忙しく、四天王にかまっている余裕はなさそうだ。
しかたなく、私はローブの下にしまっていた髪を引っ張りだし、軽く括っていた紐をほどいた。
服を守ってくれない絶対結界だけど、髪は私の体の一部だ。
たぶん、絶対結界の防御範囲に入るだろう。
幸いなことに、私の銀色の髪は膝上まで伸びている。
髪をほどいて軽く振り回せば、上半身は絶対結界で覆うことができる。
少々、ホラーな見た目にはなるけど、服をボロボロにされるよりはましだ。
思ったとおり絶対結界が発動したようで、髪の毛に攻撃を阻まれた黄色四天王の顔が、怒りでゆがんでいる。
正直言って、恐い。
魔族の顔自体そもそも悪鬼顔なのだ。
燕尾服のような黄色のコスチュームともあいまって、でかいスズメバチにしか見えない。
まさか毒とか持ってないよね、と髪の毛の隙間からじーっと見つめていると、黄色四天王はガンを付けられたと思ったのか、一気に距離を詰め私を鞭でぐるぐる巻きにした。
その時だった。
『鞭をつかめ! ハーモニー!』
頭の中に響き渡ったシルフィーの声に、私は言われるがままにガシッと鞭を両手でつかんだ。
『離すな! そのまま引っ張れ!』
えっー!?
と思いながらも私は、えいっとばかりに鞭を引っ張った。
すると、宙に浮いたまま黄色四天王がこちらに引き寄せられた。
『どんどん引っ張って、そのまま抱きつけ!』
えー!?
このスズメバチに抱きつくのー!?
と思ったが、シルフィーは戦い慣れしているし、何か考えがあるんだろうということで、私はスズメバチと目を合わさないようにあさっての方角を向いたまま、どんどん鞭をたぐり寄せた。
そして、ついにはスズメバチにしがみつくような形となった。
『よーし、よくやった! そのまま動くな!』
という声が頭の中で響いた直後、腕の中で黄色四天王が砂になって零れていくのがわかった。
えっ!?
と急いで視線を戻した私の視界に一瞬だけ、飛び去っていくシルフィーの残像が映った。
うん?
と首を傾げた私の視界の片隅で、切り刻まれたローブの布地が、はらりと宙を舞って風に吹かれて飛んでいった。
ふと、それを追って視線を動かした私は、服にも何本もの切り跡があることに気がついた。
隙間から下着がチラッと白い色をのぞかせている。
『シルフィー! 私ごと切ったでしょー! 服が切れてるわよー! どうするの、これー!?』
『はっはっはっは。怒るな怒るな。魔族四天王の命と引き換えだ。服ぐらいお安いものだろう』
シルフィーは私の猛抗議を高笑いで受け流し、次の獲物を狙って急旋回した。
値段の問題じゃないよね、とプンプンしながら、ふとクレアのほうを見ると、王太子様が真っ赤な顔でこちらを見ていた。
私と目が合うとすぐ治療中の勇者に視線を戻したけど、絶対見えてたよね。
恥ずかしさから顔がぽっと火照るのを感じ、私も思わず顔をそらして、下を向いた。
一年ぶりの再会が台無しだよ。
シルフィーめ。
ハムスターの時は服すら着てなかったけど、今は人だからね。
下着が見えるだけで大問題だよ。
『おっと、気をつけろ、ハーモニー。魔導砲で狙われてるぞ』
えっ!?
さっきまでは大きい防御膜に向けて、魔導砲を構えてなかったっけ?
私がよそ見している間に、赤い四天王が標的を変えたってこと?
『えっ!? どうすればいい、シルフィー?』
あたふたと悲鳴のような思念を送った私に、シルフィーはひどく他人事のような思念を返してきた。
『どうするって、そなたの運動神経で避けられるはずがあるまい? 当たるしか――』
その思念を聞き終える前に、懐かしい一条の閃光が私に向かって放たれた。
ほんのひとつ瞬きをした後、私のまわりにあった石が吹き飛ばされ、地面がえぐりとられて窪地となっていた。
私はパチパチと瞬きをしながら、自分の姿に目をやった。
『最悪……は免れたのかな?』
下を向いて髪が私を囲んでいたのが良かったのだろう。
かろうじて服は焼けることなく残っていた。
ただ、髪が届いていない膝から下はローブもズボンもすっかり焼け焦げて、華奢な白い素肌をさらしていた。
靴ももちろん跡形なく焼失して、裸足になっていた。
許すまじ、魔族。
この肌寒い山奥で、膝から下の衣類を焼きつくすとは。
私は無意識のうちに、握りしめていた鞭を大きく振りあげた。
そして、いちばん近くにいた魔族に向けて振りおろした。
鞭は唸るような音をたてながら魔族に向かって飛ぶと、バーンという音とともに魔族を弾き飛ばした。
その衝撃で倒れ込んだ魔族に、すかさずシルフィーが風の刃を叩きこんで砂に変えた。
あれっ?
何この鞭?
おかしいね。
私の力でこんなに長い鞭が振れるわけないよね。
というか、この鞭っていつの間に?
『ハーモニー! それは魔族四天王の鞭だ。おそらく意志を汲み取って、狙ったところに当たるはずだ。当たりさえすれば、あとは我が風の刃を叩きこむ。どんどん振り回せ!』
『えー!? そんなにいるのー!? みんなはどうしてるのー!?』
最速で一班に合流せよ、という命令を受けた私は、すぐさま二班の術師たちと離れ、シルフィーに乗って飛び立った。
精霊界最速、つまりは四つの世界の中で最速と豪語するシルフィーにお姫様抱っこされること、およそ十五分。
一班が攻撃を仕掛ける予定だった、切り立った岩肌に造られた魔族の砦を視界に捉えた。
砦の崖下に広がる、ただただ石がごろごろ転がっているだけの不毛な荒れ地がピカピカ光っている。
えーっと、シルフィーって目がいいね。
魔族なんて全然見えやしないんだけど、と思っているうちにもぐんぐん距離が詰まる。
飛び交う魔族の攻撃を防いで絶え間なく光を放ち続ける、ドーム型の大きな防御膜と小さな防御膜。
あれだね。
シルフィーよりずいぶん遅れたけれど、ようやく私にも状況が把握できた。
周囲には魔族しかおらず、精霊や召喚獣たちも、術師とともに大きなドームの中に立てこもっている。
ただ、その数は魔族に比べて圧倒的に少なく、無傷のまま防御に徹しているというわけでもなさそうだ。
少なくとも一戦交えて、それから作戦を変更したということだろうか。
『ねえねえ、防御膜を張って援軍を待ってるのかな? でも、シルフィーだからこれだけ早く来られたけど、二班の援軍の到着って、あと三時間はかかるって言ってたよね。あっ! でも三班にも援軍の要請をしてる……って、三班って私たちより遠い場所だったよね。うーん、でも、あの大きいのって、第一位防御膜だよね、たぶん。一班は主力だから、魔術師も多いし大丈夫か。小さいのって何なんだろうね?』
『ほーおぅ、あの赤い奴は魔導砲が撃てるんだな。構えたまま力をためているぞ。なるほど、それでか。一瞬でも防御膜を消せば、魔導砲を撃ちこまれるから、味方を防御膜から出せんのだな』
『えーー!? 魔導砲って、あの魔王が撃ってたやつー!? 四天王も撃てるんだー!?』
『ハーモニー。そなた、魔王に会ったことがあるのか?』
『魔王っていうか魔王城にね。シルフィーが知ってる魔王とはちがうと思うけど』
『なにっ! いや、その話は今度にしようか。じき到着するぞ、どうする?』
『うーん、そうだね。あの小さいほうの防御膜って――』
そう言いかけた時、小さな防御膜に群がっている魔族の隙間から中の様子がチラッとだけ見えた。
まずいね。
王太子様だ……それに勇者とクレア。
勇者は倒れてた。
王太子様は勇者の胸に手を当ててたから、たぶん治療中なんだ。
ということは、防御膜を張っているのはクレアひとり。
三人収容しているということは、第一位防御膜ではなく……いや、三人ならなんとか入れるかもしれない。
とはいえ、寄ってたかって攻撃されたら、さすがのクレアでも長い間第一位防御膜を張り続けられるものなのだろうか?
『シルフィー、敵の注意を惹きつけて時間を稼ごう! 私を敵の中に下ろして!』
シルフィーは一瞬で決断したようで、楽しげに思念を返してきた。
『そうだな、そなたは撒き餌には最適だな。よし、一番目立つ所に下ろしてやろう』
『そーっと置いてね、そーっと。飛べないからね、私』
『それは無理だ。減速した瞬間に攻撃をくらうからな。絶対結界で守られているのであれば、転がったくらいではケガなどしないであろう?』
『いやいや、私自身が転がったら衝撃とかあるでしょう? ゆっくりね、ゆっくり』
そこまでは面倒見きれんな、というシルフィーのあきれたような声が頭の中に響いた直後――
――私はシルフィーの腕から放り投げられ、水面を跳ねる飛び石のように、ワンバウンド、ツーバウンド、スリーバウンドした後、ゴロゴロと地面に転がった。
殺す気か!
と呻きながら、なんとか膝をついて体を起こしかけた私に、剣を持った魔族が切りかかってきた。
と、次の瞬間、身をひるがえしたシルフィーが、魔族の背中に風の刃を連撃で叩きこみ、素早く飛び去った。
切り裂かれた魔族は驚愕の表情を浮かべたまま、砂のようにサラサラと風に吹かれて消えた。
クレアの張った防御膜のまわりに群がっていた魔族たちが、慌ててこちらに向かってくる。
シルフィーは私のまわりをつむじ風のように飛び回り、殺到する魔族に次々と風の刃を放った。
さすがはシルフィー。
速いし強い。
あと、もう少し優しさがあれば惚れてしまうところだ。
だけど、角ばった石がごろごろと転がっている荒れ地に、高速で人を放り投げる精霊を優しいとは思えなかった。
私はボロボロになったローブを見て、溜め息をついた。
絶対結界は私の体を守ってはくれたが、服までは守ってくれないらしい。
とはいえ、おかげでクレアを攻撃していた敵をこちらに惹きつけることができた。
狙いどおりだ。
この次はどうしよう?
と思っていたところに、どこからか鞭が飛んできた。
黄色の魔族四天王だ。
そういえば、魔王との決戦の時にも鞭をびゅんびゅん飛ばしてくる魔族がいたね。
そうだ、こいつだ。
見覚えがある。
絶対結界が防いでくれるとはいえ、鞭が当たる度にローブが破れていく。
シルフィーも他の魔族の相手で忙しく、四天王にかまっている余裕はなさそうだ。
しかたなく、私はローブの下にしまっていた髪を引っ張りだし、軽く括っていた紐をほどいた。
服を守ってくれない絶対結界だけど、髪は私の体の一部だ。
たぶん、絶対結界の防御範囲に入るだろう。
幸いなことに、私の銀色の髪は膝上まで伸びている。
髪をほどいて軽く振り回せば、上半身は絶対結界で覆うことができる。
少々、ホラーな見た目にはなるけど、服をボロボロにされるよりはましだ。
思ったとおり絶対結界が発動したようで、髪の毛に攻撃を阻まれた黄色四天王の顔が、怒りでゆがんでいる。
正直言って、恐い。
魔族の顔自体そもそも悪鬼顔なのだ。
燕尾服のような黄色のコスチュームともあいまって、でかいスズメバチにしか見えない。
まさか毒とか持ってないよね、と髪の毛の隙間からじーっと見つめていると、黄色四天王はガンを付けられたと思ったのか、一気に距離を詰め私を鞭でぐるぐる巻きにした。
その時だった。
『鞭をつかめ! ハーモニー!』
頭の中に響き渡ったシルフィーの声に、私は言われるがままにガシッと鞭を両手でつかんだ。
『離すな! そのまま引っ張れ!』
えっー!?
と思いながらも私は、えいっとばかりに鞭を引っ張った。
すると、宙に浮いたまま黄色四天王がこちらに引き寄せられた。
『どんどん引っ張って、そのまま抱きつけ!』
えー!?
このスズメバチに抱きつくのー!?
と思ったが、シルフィーは戦い慣れしているし、何か考えがあるんだろうということで、私はスズメバチと目を合わさないようにあさっての方角を向いたまま、どんどん鞭をたぐり寄せた。
そして、ついにはスズメバチにしがみつくような形となった。
『よーし、よくやった! そのまま動くな!』
という声が頭の中で響いた直後、腕の中で黄色四天王が砂になって零れていくのがわかった。
えっ!?
と急いで視線を戻した私の視界に一瞬だけ、飛び去っていくシルフィーの残像が映った。
うん?
と首を傾げた私の視界の片隅で、切り刻まれたローブの布地が、はらりと宙を舞って風に吹かれて飛んでいった。
ふと、それを追って視線を動かした私は、服にも何本もの切り跡があることに気がついた。
隙間から下着がチラッと白い色をのぞかせている。
『シルフィー! 私ごと切ったでしょー! 服が切れてるわよー! どうするの、これー!?』
『はっはっはっは。怒るな怒るな。魔族四天王の命と引き換えだ。服ぐらいお安いものだろう』
シルフィーは私の猛抗議を高笑いで受け流し、次の獲物を狙って急旋回した。
値段の問題じゃないよね、とプンプンしながら、ふとクレアのほうを見ると、王太子様が真っ赤な顔でこちらを見ていた。
私と目が合うとすぐ治療中の勇者に視線を戻したけど、絶対見えてたよね。
恥ずかしさから顔がぽっと火照るのを感じ、私も思わず顔をそらして、下を向いた。
一年ぶりの再会が台無しだよ。
シルフィーめ。
ハムスターの時は服すら着てなかったけど、今は人だからね。
下着が見えるだけで大問題だよ。
『おっと、気をつけろ、ハーモニー。魔導砲で狙われてるぞ』
えっ!?
さっきまでは大きい防御膜に向けて、魔導砲を構えてなかったっけ?
私がよそ見している間に、赤い四天王が標的を変えたってこと?
『えっ!? どうすればいい、シルフィー?』
あたふたと悲鳴のような思念を送った私に、シルフィーはひどく他人事のような思念を返してきた。
『どうするって、そなたの運動神経で避けられるはずがあるまい? 当たるしか――』
その思念を聞き終える前に、懐かしい一条の閃光が私に向かって放たれた。
ほんのひとつ瞬きをした後、私のまわりにあった石が吹き飛ばされ、地面がえぐりとられて窪地となっていた。
私はパチパチと瞬きをしながら、自分の姿に目をやった。
『最悪……は免れたのかな?』
下を向いて髪が私を囲んでいたのが良かったのだろう。
かろうじて服は焼けることなく残っていた。
ただ、髪が届いていない膝から下はローブもズボンもすっかり焼け焦げて、華奢な白い素肌をさらしていた。
靴ももちろん跡形なく焼失して、裸足になっていた。
許すまじ、魔族。
この肌寒い山奥で、膝から下の衣類を焼きつくすとは。
私は無意識のうちに、握りしめていた鞭を大きく振りあげた。
そして、いちばん近くにいた魔族に向けて振りおろした。
鞭は唸るような音をたてながら魔族に向かって飛ぶと、バーンという音とともに魔族を弾き飛ばした。
その衝撃で倒れ込んだ魔族に、すかさずシルフィーが風の刃を叩きこんで砂に変えた。
あれっ?
何この鞭?
おかしいね。
私の力でこんなに長い鞭が振れるわけないよね。
というか、この鞭っていつの間に?
『ハーモニー! それは魔族四天王の鞭だ。おそらく意志を汲み取って、狙ったところに当たるはずだ。当たりさえすれば、あとは我が風の刃を叩きこむ。どんどん振り回せ!』
0
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた
たぬきち25番
恋愛
男爵家の三女イリスに転生した七海は、貴族の夜会で相手を見つけることができずに女官になった。
女官として認められ、夜会を仕切る部署に配属された。
そして今回、既婚者しか入れない夜会の責任者を任せられた。
夜会当日、伯爵家のリカルドがどうしても公爵に会う必要があるので夜会会場に入れてほしいと懇願された。
だが、会場に入るためには結婚をしている必要があり……?
※本当に申し訳ないです、感想の返信できないかもしれません……
※他サイト様にも掲載始めました!
【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!
こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。
そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。
婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。
・・・だったら、婚約解消すれば良くない?
それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。
結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。
「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」
これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。
そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。
※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。
※本編完結しました。
※後日談を更新中です。
妹の身代わりだった私に「本命は君だ」――王宮前で王子に抱き潰され、溺愛がバレました。~私が虐げられるきっかけになった少年が、私と王子を結び付
唯崎りいち
恋愛
妹の身代わりとして王子とデートすることになった私。でも王子の本命は最初から私で――。長年虐げられ、地味でみすぼらしい私が、王子の愛と溺愛に包まれ、ついに幸せを掴む甘々ラブファンタジー。妹や家族との誤解、影武者の存在も絡み、ハラハラと胸キュンが止まらない物語。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる