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第2章 救国のハムスターは新たな人生を歩む
47 私のお金はどこにいったのかしら?
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シーラの目論見どおり、私が王国公認の神の使いとなって二ヶ月が経った。
王国の式典や公式行事への参加を求められ、忙しいながらも充実した日々を送っている。
食事会やお茶会にも呼ばれるので、ハムスター時代よりも忙しい気がする。
トールのお屋敷での待遇も格段に上がった。
ターニャに加えてさらに二人、専属メイドが付けられた。
人に生まれ変わってから、ターニャにはお世話になりっぱなしだ。
意図した訳ではないけど、神の使いという地位を、私は再び手に入れた。
以前に誓ったとおり、ターニャに長期休暇をあげようとしたのだけど、ターニャは決して首を縦に振らなかった。
そこで、私はお屋敷からほとんど出たことのないターニャを誘って、王都観光に出かける計画をたてた。
私自身ハムスター時代を含めて、パレード以外で一度も王都を散策したことがなかった。
ふたりでいろんなお店に行こうねと、ターニャと手を取り合ってうなずき合った。
と、そこまでは良かった。
予定したターニャとのお出かけを三日後に控え、私は自分がどれほど浮世離れした暮らしを送っていたかに気付かされた。
そう――私はお金をまったく持っていなかったのだ。
日頃お世話になっている恩を返そうと、ターニャを誘ったのだから、支払いはもちろん私だ。
でも、お金がない。
どうしよう?
私は頭を抱えた。
唯一の収入だった攻戦の報奨金は使い切ってしまった。
お世話になっているみんなに贈り物を送り、残ったお金はすべて魔石に換えてもらった。
見事なまでに無一文だ。
トールに出してもらおうか、とも考えた。
しかし、トールには衣食住すべての面倒をみてもらっている。
新しい専属メイドだってレンホルム伯爵家が雇っている。
このうえ、他家の伯爵様におこづかいをせびる訳にはいかない。
私は首を捻った。
子爵になったにもかかわらず、私は未だに居候お嬢様のままだった。
うーん、どうしてこんなことになってるんだろう?
と悩んだ結果、私は学園で貴族経営学という講座を受け持つ講師に相談することにした。
その結果、あっさりと、原因というか、犯人が見つかった。
シーラだった。
本来、私がもらえるはずの報酬を、シーラがモランデル家としてまとめて受け取っていたのだ。
国土の狭いティトラン王国の貴族は、ほとんどが領地を持っていない。
レンホルム伯爵家のように、領地を持っている貴族はほんのわずかだ。
その代わり、貴族は爵位に応じて家禄という給金がもらえる。
ただ、家禄は家に対して支給されるものだ。
だから、私が子爵位を持っていても、家禄はモランデル家の当主であるシーラしかもらえない。
私はそう思っていた。
ところが――
――私が持っている子爵位は王勅子爵位と呼ばれるものであり、シーラの伯爵位とは別に家禄をもらえるらしいのだ。
さらに、勇者という称号を持っている私は、役職手当も加算されるはずだと、講師は教えてくれた。
神の使いに手当てがつくかどうかはわからないが、式典や公式行事に参加しているのであれば、その手当ももらえるらしい。
おのれ、シーラめ。
私の世話はトール任せなのに、お金だけは自分の懐に入れていたとは。
しかも、講師が概算で出してくれた私の収入は、莫大なものだった。
ターニャを百人雇っても余裕だろう。
ターニャとお出かけどころか、お屋敷を借りて使用人を雇って暮らすことだってできる。
それなのに、シーラが私にくれるものといえば、モランデル家の紋章が入った服だけだ。
以前はローブにだけびっしりと紋章が入っていたけど、今やシャツやズボンにすら紋章が刺繍されている。
生地はいいものを使っているようだけど、服代だけで私の収入が吹き飛んでるとは到底考えられなかった。
ちょうどその日、国王陛下に晩餐に招かれていた私は、早めに王宮へと出向き、精霊省長官の執務室に向かった。
とりあえず、お出かけする為のお金を手に入れなければならない。
さらには、シーラにネコババされているお金を取り戻して、トールに居候させてもらっている費用や、専属メイドの給金を自分で払うようにしよう。
それから、それから、えーっと、えーっと……まあ、いいや、あとで考えよう。
とにかくお金はたくさんあったほうがいい。
ということで、絶対結界を発動させて、おもいっきり扉をノックした。
返事も待たずに、バーンと勢い込んで執務室の扉を開けた私だったが、残念ながらシーラの姿はなかった。
代わりに、真ん丸の厚底メガネをかけたヒョロっとした男の人が、分厚いメガネの向こうに見える目の下のクマをゴシゴシと擦って、ひゃっ! と甲高い声で叫んだ。
はずみで椅子から転げ落ちかけた後、なんとか体勢を立て直して、直立不動の姿勢を取った。
「あ、あ、ああ、こ、こ、これは、ハーモニー様。そ、そ、その、どのような……」
あれっ?
この人、どこかで見たような気が……えーっとっ……そうだ、シーラの結婚相手だ。
コンラード・モランデル。
ということは、私の養父ということになる。
ハムスター時代にシーラの結婚式で会って以来、姿を見たことがなかったのですっかり忘れてた。
「失礼しました、コンラード様。シーラ様はいらっしゃらないのですか?」
「あ、あ、はい。シ、シーラ様は外に出ておりまして、お、お、お急ぎでしたら、つ、使いを飛ばしますが……」
うんうん、そうそう、こんな人だった。
シーラの尻に敷かれてるだけあって、誰に対しても腰が低くて、オドオドしている。
精霊術師としては今ひとつだけど事務処理能力は抜群だと、シーラが言っていた覚えがある。
精霊省の事務仕事はすべて、この人に押し付けられているはずだ。
ということは、モランデル家のお金の管理もこの人がやってるのでは、と思った私はターゲットを変更することにした。
ハムスター時代を含めて、私はシーラと口論して勝ったことがない。
気の弱い養父を相手にしたほうが、何とかなりそうな気がする。
私は営業スマイルを全開にして、じわりとコンラードとの距離を詰めた。
「貴族経営学の講師に教わったのですけど、私がいただいた子爵位は王勅子爵位というらしいですね。国王陛下がお認めになった爵位だとかで、シーラ様の伯爵位とは別に家禄をいただけるそうですね」
ゼンマイのきれたからくり人形のように、コンラードの頭がガクンと傾いた。
「さらには、勇者としての役職手当や行事に参加した手当などもいただけるそうですが、それらの管理はコンラード様がなさっているのですよね?」
コンラードの視線がおかしな方向を向いている。
顔中から噴き出した汗が、顎から滴り落ちた。
「そのお金って――」
と、言いかけた私の目の前で、コンラードが崩れ落ちるように両手をつき、頭を床に叩きつけた。
「つ、つ、つ、使ってしまいました!」
ブルブル震えながらうずくまっているコンラードの背中を見ながら、私は眉をしかめた。
どういうことだろう?
まちがって使ってしまえるような金額ではないし、モランデル家の財布がひとつならば、シーラのお金を私に回せば済むのでは?
と思ったが、まあ、使ったものは仕方がないということで、そのまま話を続けることにした。
「では、来月からは私の収入は分けてもらって――」
「も、も、申し訳ございません! ら、来月からの分につきましても、使い道が決まっているのです!」
私は口をパクパクさせながら、次の言葉を必死で探した。
しかし、頭に血が上ったせいか、何ひとつ言葉が浮かんでこなかった。
「そ、そ、その、お金が必要なのであれば、び、微々たるものですが、わ、わたくしの小遣いの中から捻出させていただきたく……い、いかほど必要でございますか?」
コンラードが頭をあげて、泣き出しそうな顔で私を見た。
泣きたいのはこっちのほうだと思ったけど、この状況だけ見ると、まるで私が気の弱い養父から無理やりお金を巻き上げようとしているみたいだ。
私は眉間に寄ったしわを揉みほぐしながら、ため息をついた。
「私のお金を何に使っているのですか?」
顔色を真っ青にして、口をつぐんだコンラードだったが、今から国王陛下に会うのですけど、そのことを話してもよろしいですか? と言うと、がっくりとうなだれた。
シーラはモランデル家の収入の大半を注ぎ込んで、周辺諸国の情報を集めていた。
王国も諜報活動はおこなっているのだが、シーラは独自の判断で諸国の動きを探っているらしい。
新たにもらえるようになった私の収入を使って、ルステル王国の公爵領に送り込む諜報員を増員したそうだ。
ティトラン王国への出兵を諦めたプルッキア帝国が、矛先を変えて内部からルステル王国を揺さぶろうとしている、という情報をつかんだらしい。
諜報活動は長期的に人件費がかかるのです、とコンラードは私を祈らんばかりに見上げた。
私は再びため息をついた。
聞くんじゃなかった。
コンラードが嘘をついているとは思えなかった。
モランデル家は子爵だった頃から貴族にしては小さな屋敷を構え、使用人も極端に少なかった。
伯爵となった今でも、シーラの暮らしぶりは変わらない。
ただ単に、ケチなんだと思っていたけど、そうじゃなかったのか。
そんなことを聞いてしまっては、ターニャとお出かけするのでお金が欲しいとは言いにくい。
モランデル家からお金を引き出すことをあきらめた私は、コンラードに問いかけた。
「なぜ、シーラ様はご自身で情報を集めているのですか? 王国や精霊省の情報だけでは不充分なのですか?」
そう、ですね、とコンラードは苦しそうに言って、どこか遠いところを見つめた。
「魔族の侵攻によって、シーラ様は大切な人を失ったのです。もし、王国が滅びれば、その人の死が無駄になると、シーラ様はお考えなのでしょう」
コンラードはゆっくりと噛みしめるように、そう応えた。
言葉の端々ににじむコンラードの複雑な想いに、私はそれ以上のことを聞けなかった。
わかりました、と言わざるをえなかった。
お金の使い道はこれまでどおりで結構ですと、私はコンラードに伝えた。
「ただし、今日コンラード様がおっしゃったことは、私は一切聞かなかったことにしておいてください」
結局、私は何の収穫もないまま、精霊省の執務室を後にした。
お出かけするお金が欲しかっただけなのに、なんでこんなことになったんだろう。
私はまたしても大きなため息をついた。
王国の式典や公式行事への参加を求められ、忙しいながらも充実した日々を送っている。
食事会やお茶会にも呼ばれるので、ハムスター時代よりも忙しい気がする。
トールのお屋敷での待遇も格段に上がった。
ターニャに加えてさらに二人、専属メイドが付けられた。
人に生まれ変わってから、ターニャにはお世話になりっぱなしだ。
意図した訳ではないけど、神の使いという地位を、私は再び手に入れた。
以前に誓ったとおり、ターニャに長期休暇をあげようとしたのだけど、ターニャは決して首を縦に振らなかった。
そこで、私はお屋敷からほとんど出たことのないターニャを誘って、王都観光に出かける計画をたてた。
私自身ハムスター時代を含めて、パレード以外で一度も王都を散策したことがなかった。
ふたりでいろんなお店に行こうねと、ターニャと手を取り合ってうなずき合った。
と、そこまでは良かった。
予定したターニャとのお出かけを三日後に控え、私は自分がどれほど浮世離れした暮らしを送っていたかに気付かされた。
そう――私はお金をまったく持っていなかったのだ。
日頃お世話になっている恩を返そうと、ターニャを誘ったのだから、支払いはもちろん私だ。
でも、お金がない。
どうしよう?
私は頭を抱えた。
唯一の収入だった攻戦の報奨金は使い切ってしまった。
お世話になっているみんなに贈り物を送り、残ったお金はすべて魔石に換えてもらった。
見事なまでに無一文だ。
トールに出してもらおうか、とも考えた。
しかし、トールには衣食住すべての面倒をみてもらっている。
新しい専属メイドだってレンホルム伯爵家が雇っている。
このうえ、他家の伯爵様におこづかいをせびる訳にはいかない。
私は首を捻った。
子爵になったにもかかわらず、私は未だに居候お嬢様のままだった。
うーん、どうしてこんなことになってるんだろう?
と悩んだ結果、私は学園で貴族経営学という講座を受け持つ講師に相談することにした。
その結果、あっさりと、原因というか、犯人が見つかった。
シーラだった。
本来、私がもらえるはずの報酬を、シーラがモランデル家としてまとめて受け取っていたのだ。
国土の狭いティトラン王国の貴族は、ほとんどが領地を持っていない。
レンホルム伯爵家のように、領地を持っている貴族はほんのわずかだ。
その代わり、貴族は爵位に応じて家禄という給金がもらえる。
ただ、家禄は家に対して支給されるものだ。
だから、私が子爵位を持っていても、家禄はモランデル家の当主であるシーラしかもらえない。
私はそう思っていた。
ところが――
――私が持っている子爵位は王勅子爵位と呼ばれるものであり、シーラの伯爵位とは別に家禄をもらえるらしいのだ。
さらに、勇者という称号を持っている私は、役職手当も加算されるはずだと、講師は教えてくれた。
神の使いに手当てがつくかどうかはわからないが、式典や公式行事に参加しているのであれば、その手当ももらえるらしい。
おのれ、シーラめ。
私の世話はトール任せなのに、お金だけは自分の懐に入れていたとは。
しかも、講師が概算で出してくれた私の収入は、莫大なものだった。
ターニャを百人雇っても余裕だろう。
ターニャとお出かけどころか、お屋敷を借りて使用人を雇って暮らすことだってできる。
それなのに、シーラが私にくれるものといえば、モランデル家の紋章が入った服だけだ。
以前はローブにだけびっしりと紋章が入っていたけど、今やシャツやズボンにすら紋章が刺繍されている。
生地はいいものを使っているようだけど、服代だけで私の収入が吹き飛んでるとは到底考えられなかった。
ちょうどその日、国王陛下に晩餐に招かれていた私は、早めに王宮へと出向き、精霊省長官の執務室に向かった。
とりあえず、お出かけする為のお金を手に入れなければならない。
さらには、シーラにネコババされているお金を取り戻して、トールに居候させてもらっている費用や、専属メイドの給金を自分で払うようにしよう。
それから、それから、えーっと、えーっと……まあ、いいや、あとで考えよう。
とにかくお金はたくさんあったほうがいい。
ということで、絶対結界を発動させて、おもいっきり扉をノックした。
返事も待たずに、バーンと勢い込んで執務室の扉を開けた私だったが、残念ながらシーラの姿はなかった。
代わりに、真ん丸の厚底メガネをかけたヒョロっとした男の人が、分厚いメガネの向こうに見える目の下のクマをゴシゴシと擦って、ひゃっ! と甲高い声で叫んだ。
はずみで椅子から転げ落ちかけた後、なんとか体勢を立て直して、直立不動の姿勢を取った。
「あ、あ、ああ、こ、こ、これは、ハーモニー様。そ、そ、その、どのような……」
あれっ?
この人、どこかで見たような気が……えーっとっ……そうだ、シーラの結婚相手だ。
コンラード・モランデル。
ということは、私の養父ということになる。
ハムスター時代にシーラの結婚式で会って以来、姿を見たことがなかったのですっかり忘れてた。
「失礼しました、コンラード様。シーラ様はいらっしゃらないのですか?」
「あ、あ、はい。シ、シーラ様は外に出ておりまして、お、お、お急ぎでしたら、つ、使いを飛ばしますが……」
うんうん、そうそう、こんな人だった。
シーラの尻に敷かれてるだけあって、誰に対しても腰が低くて、オドオドしている。
精霊術師としては今ひとつだけど事務処理能力は抜群だと、シーラが言っていた覚えがある。
精霊省の事務仕事はすべて、この人に押し付けられているはずだ。
ということは、モランデル家のお金の管理もこの人がやってるのでは、と思った私はターゲットを変更することにした。
ハムスター時代を含めて、私はシーラと口論して勝ったことがない。
気の弱い養父を相手にしたほうが、何とかなりそうな気がする。
私は営業スマイルを全開にして、じわりとコンラードとの距離を詰めた。
「貴族経営学の講師に教わったのですけど、私がいただいた子爵位は王勅子爵位というらしいですね。国王陛下がお認めになった爵位だとかで、シーラ様の伯爵位とは別に家禄をいただけるそうですね」
ゼンマイのきれたからくり人形のように、コンラードの頭がガクンと傾いた。
「さらには、勇者としての役職手当や行事に参加した手当などもいただけるそうですが、それらの管理はコンラード様がなさっているのですよね?」
コンラードの視線がおかしな方向を向いている。
顔中から噴き出した汗が、顎から滴り落ちた。
「そのお金って――」
と、言いかけた私の目の前で、コンラードが崩れ落ちるように両手をつき、頭を床に叩きつけた。
「つ、つ、つ、使ってしまいました!」
ブルブル震えながらうずくまっているコンラードの背中を見ながら、私は眉をしかめた。
どういうことだろう?
まちがって使ってしまえるような金額ではないし、モランデル家の財布がひとつならば、シーラのお金を私に回せば済むのでは?
と思ったが、まあ、使ったものは仕方がないということで、そのまま話を続けることにした。
「では、来月からは私の収入は分けてもらって――」
「も、も、申し訳ございません! ら、来月からの分につきましても、使い道が決まっているのです!」
私は口をパクパクさせながら、次の言葉を必死で探した。
しかし、頭に血が上ったせいか、何ひとつ言葉が浮かんでこなかった。
「そ、そ、その、お金が必要なのであれば、び、微々たるものですが、わ、わたくしの小遣いの中から捻出させていただきたく……い、いかほど必要でございますか?」
コンラードが頭をあげて、泣き出しそうな顔で私を見た。
泣きたいのはこっちのほうだと思ったけど、この状況だけ見ると、まるで私が気の弱い養父から無理やりお金を巻き上げようとしているみたいだ。
私は眉間に寄ったしわを揉みほぐしながら、ため息をついた。
「私のお金を何に使っているのですか?」
顔色を真っ青にして、口をつぐんだコンラードだったが、今から国王陛下に会うのですけど、そのことを話してもよろしいですか? と言うと、がっくりとうなだれた。
シーラはモランデル家の収入の大半を注ぎ込んで、周辺諸国の情報を集めていた。
王国も諜報活動はおこなっているのだが、シーラは独自の判断で諸国の動きを探っているらしい。
新たにもらえるようになった私の収入を使って、ルステル王国の公爵領に送り込む諜報員を増員したそうだ。
ティトラン王国への出兵を諦めたプルッキア帝国が、矛先を変えて内部からルステル王国を揺さぶろうとしている、という情報をつかんだらしい。
諜報活動は長期的に人件費がかかるのです、とコンラードは私を祈らんばかりに見上げた。
私は再びため息をついた。
聞くんじゃなかった。
コンラードが嘘をついているとは思えなかった。
モランデル家は子爵だった頃から貴族にしては小さな屋敷を構え、使用人も極端に少なかった。
伯爵となった今でも、シーラの暮らしぶりは変わらない。
ただ単に、ケチなんだと思っていたけど、そうじゃなかったのか。
そんなことを聞いてしまっては、ターニャとお出かけするのでお金が欲しいとは言いにくい。
モランデル家からお金を引き出すことをあきらめた私は、コンラードに問いかけた。
「なぜ、シーラ様はご自身で情報を集めているのですか? 王国や精霊省の情報だけでは不充分なのですか?」
そう、ですね、とコンラードは苦しそうに言って、どこか遠いところを見つめた。
「魔族の侵攻によって、シーラ様は大切な人を失ったのです。もし、王国が滅びれば、その人の死が無駄になると、シーラ様はお考えなのでしょう」
コンラードはゆっくりと噛みしめるように、そう応えた。
言葉の端々ににじむコンラードの複雑な想いに、私はそれ以上のことを聞けなかった。
わかりました、と言わざるをえなかった。
お金の使い道はこれまでどおりで結構ですと、私はコンラードに伝えた。
「ただし、今日コンラード様がおっしゃったことは、私は一切聞かなかったことにしておいてください」
結局、私は何の収穫もないまま、精霊省の執務室を後にした。
お出かけするお金が欲しかっただけなのに、なんでこんなことになったんだろう。
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