転生ハムスターは王妃を夢見る?

ハイエルフスキー

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第2章 救国のハムスターは新たな人生を歩む

48 王国一のお金持ちかしら?

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「でしたら、ご自身のお金を使えばよろしいのではありませんか?」

 そう言って、クレアは私にだけ見せる笑みを浮かべた。

「お忘れですか? トール様はハーモニー様の資産をすべて管理しておりました。今なお、その任は解かれておりません」

「資産? トールが? そんなものがあるの?」

 ターニャとのお出かけを二日後に控え、いよいよ切羽詰まった私は、クレアに相談することにした。

 どうにもならなければ、トールにおこづかいをもらおうと考えていた私に、王子様モードに移行したクレアは即座に答えを出した。


 だけど、私に資産があるなんて初耳だ。

 モランデル家だけじゃなくて、レンホルム家にも私の収入が入っているのだろうか?

「はい。自由にできるお金と言う意味であれば、ハーモニー様は王国一のお金持ちでいらっしゃいます」

 王国一?

 キョトンとしている私に、クレアは優しくうなずいて、その端正な顔を近づけた。

「ハーモニー様はトール様を信頼していらっしゃるのですよね?」

 うん?

 話が変わった?

 と思いながらも、そうだね、トールは頼りになるね、と応えた私に、クレアはさらに二度ほどうなずいた。

「トール様はハーモニー様の義理の兄にあたります。そのことをトール様に内密にされているのには、何か訳があるのでしょうか?」

 義理の兄?

 ということは、私が元救国のハムスターであることをトールに黙っているのはなぜなのか、ということだろう。

 そうだね……えーっと、王国を守れないから? 

 うん? 

 でも、今の私は神の使いということになっている。

 ということは、どういうことだろう?



 頭を悩ましている私を見て、クレアは声をひそめた。

「大天使様の御指示なのでしょうか?」

「指示? ううん、ちがうよ。大天使様に指示なんて受けたことないし……うーん、そうだね。最初はしゃべれなかったし、言葉もわからなくて……ようやくしゃべれるようになったら、救国のハムスターは生きてるって聞いて……その後は、何の力も持ってない私がしゃしゃりでてもって思ったり、アンジェリカ王女様もいるし、ニルス殿下と婚約したし……今さら、ね?」

 クレアは慈愛に満ちた瞳で私の目をのぞき込んだ。

 それでしたら、と優しく微笑む。

「トール様に打ち明けてみてはいかがですか? 先ほどハーモニー様がおっしゃったことは、トール様とは関係ございません。トール様は信頼に足るお方です。口外しないようにおっしゃれば、秘密を漏らすようなことはございません。それに、亡くなったと思っていた義妹が生きていたと知れば、トール様もお喜びになります」

 うーん、喜ぶかなー? 

 と私は首を捻った。

 それに、クレアの意図するところがわからない。

 そもそも、私の相談はお出かけの費用をどう捻出ねんしゅつするか、ということなのだ。

 クレアの話はお金と関係がないような気がする。

「そのことと、私のお金とどういう関係があるの?」

「救国のハムスター様、つまりはハーモニー様の資産の管理は、トール様に任されております。他でもないハーモニー様がトール様にお命じになったと聞いております」

 ああ、ハムスター時代の資産ってことか。

 そういえば、ハムスター時代の私は贈り物をいっぱいもらっていた。

 でも、当時の私は、宝石や美術品といったものにまったく興味がなかった。

 チラッと見ただけで、ぜんぶトールに預かってもらってたような気がする。

 あれのことか。

 でも、贈り物なら今でもいっぱいもらっている。

 昨日も国王陛下に高価な置き物をもらったし、アンジェリカ王女にも大きな宝石のついた指輪や髪飾りをもらった。

「でも、お金はなかったよね。宝石とかは売ればお金になるんだろうけど……」

「いえ、プルッキア帝国からの賠償金はティトラン王国の金貨に換えられているはずです。賠償金はプルッキアの金貨で支払われましたが、救国のハムスター様に収められた分は鋳直されたと伺っております」

「プルッキアの賠償金? なんで、そんなものを私が貰ったの?」

「プルッキア帝国は大天使様の許しを乞うために、賠償金の一部を救国のハムスター様が受け取るように指定したのです。当時のプルッキア皇帝の恐慌ぶりは大変なものであったらしく、退位しただけでは大天使様のお怒りから逃れられないと考えたそうです」

「へー、そうなんだ。うーん、あんまり覚えてないなー。ああ、お金じゃなくて目録だったのかな?」

 ハムスター時代の私は、お金にもまったく興味がなかったし、たぶん適当にうんうん言ってたんだろう。

 そういえば、これも私が預かっておくのか? とトールにびっくりされたことがあったね。

 あれか。

 王太子様との結婚式にパーッと使うからね、と応えたような気がする。

 そうだ。

 そのお金で純白のウェディングドレスを作ってもらおうと思ってたんだ。

 ハムスター脳、恐るべしだね。

「王国の国家予算の一年分に匹敵すると聞いております。それを――」

「えっ!? 国家予算!? 一年分!? そんなに!? 使っていいのー!?」




 というわけで、さっそくクレアとともにトールの書斎を訪れた私は、挨拶もなしにいきなり本題に入った。

 事は急を要する。

 ターニャとのお出かけがかかっているのだ。

 決して、大金に目がくらんだわけではない。

 かなりテンションが上がっているが、ハムスター時代の私は常にハイテンションだったので、トールを説得するにはちょうどいいだろう。

「ねえねえ、トール。すっかり忘れてたんだけど、トールって私への贈り物とか、お金を預かってくれてるんだよね?」

 今まで敬語を使っていたせいだろう。

 突然、なれなれしい口調で話し始めた私を、トールはまじまじと見つめ、顎に添えた指をせわしなく動かした。

「そうだったかな? どのようなものだろう?」

「やだなー、とぼけちゃって。王太子様との結婚式に使うからって、プルッキア帝国の賠償金を預かってもらってたよね。明後日、ターニャとお出かけするからそのお金を――」

 ハムスター時代並みのウキウキ気分で調子よくしゃべっていた私の耳に、はあああー!? というトールの叫び声が突き刺さった。

 どうやら、勢いよく立ち上がろうとして向こうずねをテーブルにぶつけたらしい。

 顎が外れんばかりに大口を開いて、慌てて向こうずねをゴシゴシとこすっている。

「大丈夫、トール? まあ、そんなことより今は――」

「いやいやいやいや、ちょっと待て! ちょっと待て! どういうことだ、それは!?」

「ハーミア様です、トール様」

 私が応えるよりも先に、クレアが応えた。トールは向こうずねをこすりながら、ものすごい速さで私とクレアに交互に視線を送った。

 そして、ソファーに倒れ込んで頭を抱えた。

「それは、ハーモニーが救国のハムスターだという意味なのか?」

「あー、ごめんね、トール、今まで黙ってて。ちょっとタイミングが悪くって、言いそびれてたんだよね。まあ、それはともかく――」

「いやいやいやいや、そんな荒唐無稽こうとうむけいな話をいきなりされても、というよりも、おまえが召喚獣契約陣から現われたことを黙っていたことすら怒られたのに、そのうえ、実はハムスターだったなどということになったら……」

 その話は私の耳にも届いている。

 私が神の使いであることを裏付けるために、シーラはトールが私を召喚したことにした。

 実際に、私はトールに召喚されたわけだけど、いずれにせよ、今までそのことを黙っていたのは何故なのかということになる。

 そこで、トールは私に口止めされていたと応えたのだ。

 それでも、かなり怒られたらしい。

「そうそう、トール。それってトールが悪いんだよね。私が口止めしたのって、たしか精霊祭の前の日だよね。怒られるのが嫌で、ごまかしたんだよね、トール」

「いやいやいやいや、実際に口止めはされていただろう? たしかに、契約陣から現われてすぐに報告したわけではないが、それは仕方がないだろう?」

「それは、どうかなー、トール。私を再召喚するためにって、いっぱい予算もらってたんでしょう? 少なくとも、契約陣から人が現われたことを、宰相閣下あたりに報告しておくべきだったんじゃないの?」

「ぐぅっ! そう言われればそうだが、おまえそんなに頭が良かったか? ハムスターだった頃とは別人のようだぞ。そもそも、死んだんじゃなかったのか?」

「まあ、そのへんはいろいろとね。別人っていうか、人だからね。それよりも、お出かけの――」

「いやいやいやいや、そんなことより、王太子様のことはいいのか? アンジェ、いや、ニルス殿下と……その……どう……」

 トールは急に神妙な顔をして、ゴニョゴニョと口ごもった。

 私はトールの表情など見なかったことにして、ハイテンションのまま応えた。

「あー、ごめんね、トール。王妃になったらトールを王妃親衛隊長にするって約束してたのにね。アンジェリカ王女様に頼んでおこうか? 私、王女様に気に入られてるみたいだから、私が推薦すればきっと大丈夫だよ」

 トールは考えこむように視線を床に落とした。

 ああ、そんなことを言っていたな、とボソッと声に出した。

 頭の後ろで組んだ両手で、首のあたりをグリグリと揉みほぐした。

「いや、そもそも、王妃親衛隊などというものが存在しないからな。気にするな」

 人になった今では、もちろんそんなことはわかっている。

 トールも私に気を使ってそう言ってるんだろう。

 私はわざとおおげさに驚いてみせた。

「えっ!? ないの!?」

「あたりまえだ。そんなおかしなことを言っていたのは、おまえだけだ。それで、このことは国王陛下に奏上していいんだろうな。また怒られるのはごめんだぞ」

「もちろん、内緒だよ、トール。神の使いに頼まれたら断れないんでしょう?」

 トールは苦虫を噛みつぶしたような顔をして、クレアに視線を送った。

「内緒です」

 クレアは表情を変えることなく、即答した。
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