訳あり幼女に声をかけたら最強のドラゴンだった

Luculia

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第1章 学園編

第6話 嫌です

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 災厄のドラゴン……その名前は、知っている。というか、その名を知らない人だなんて、いないだろう。それくらい、有名であった。
 僕ら人類がここまで繁栄するまでに、その災厄は何度も訪れ、その度に窮地へと追いやってきたのだ。
 幾日にも渡って続く日照りに陥る飢餓、村が丸々一つ飲みこまれるほどの洪水を引き起こし、人口を約半分にまで削る。
 そして、何百年かに一度現れては、その圧倒的な力で数ヶ月も燃え盛る火の海を、数十キロに渡り作り出してしまう、まさに災厄。破壊の限りを尽くす最悪のドラゴン。
 最後に姿を見せたのは二百年くらい前で、もうあの日の惨劇を見たものは誰もいない。
 それでも、だ。確かに、今日までしっかりと語り継がれている。誰も見たことがなくとも、誰もが恐れている。それが、そんなドラゴンが……。
「目の前にいるとか……未だに信じられないよ……」
「まだ信じられないのか? なら、街の一つでも壊滅してみるか」
「違ーう! そういうことを言っているんじゃ……!」
 元の姿――もとい、人間の姿へと戻った彼女と、目が合う。
 もう、子ども扱いは出来ない。正体を知ってしまったのだ。普通に話そうとしても、勝手に声が上ずってしまう。
「そういうことを言っているんじゃ……な、ないんですよ……」
「……別に、敬語なんて使わなくてもいい。私はそんなこと気にしないし、求めてもいない」
 そうは言うが、あの災厄のドラゴンだぞ? 少しでも気に食わないことがあれば、瞬きをしている間に殺されてしまいそうだ。
 そして彼女はきっと、戸惑いも躊躇も罪悪感もなく、それをやってのけてしまうのだろう。殺すだなんて行為は、彼女にとって日常茶飯事なのだから。
「それにだ。パートナーになるのなら、敬語だなんてなおさら必要ないだろう」
 もう、パートナーになる気でいる! これは、あれだ。はい、いいえで選択肢を用意しておいて、結局いいえを選択しても強制的にはいのルートに入らされるやつだ。
 断ったら最後、色々と終わる。なんなら、人生ごと終わってしまう。
「えっと、あの……なんで僕なんですか……? 他にも、色んな人がいたんじゃ……」
 例えば、国に関わっているような、重要人物だとか。少なくとも、一般人の僕なんかに務まる役目ではない。
「敬語じゃなくてもいいと言っているだろう。それに、そっちから声をかけてきたのではないか」
「それは、人だと思っていたからで……」
 数秒、間が空く。夜の森はとても静かで、僕はその間下を向いたまま目を合わせることが出来なかった。なんなら、息をすることすら恐れ多くて、呼吸を止めていた。
「……つまるところ、君はどっちなんだ? パートナーになるのかならないのか。はっきりと答えを聞きたいのだが」
 ヤバいヤバいヤバいヤバい。殺される殺される殺される殺される。
 あぁ、なんでこんなことに……。こうなるなら、声なんてかけなければよかった。
 そうすれば今頃……。
 今頃、家に帰っていて……それで、どうするのだろう。
 ……ここで殺されていなくとも、死んだような毎日を送ることになるのは、間違いなかった。
 だったら――。
 怖い……けど、僕は僕の本当の気持ちを伝えよう。
 それに、この子にはきっと嘘は通じない。
「ごめん、僕は君のパートナーにはならないよ」
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