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第1章 学園編
第17話 ルイナちゃんの苦悩
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「入学式まで、残り一ヶ月を切ったね……うぅ、緊張してきた……」
「一ヶ月でそれは、早すぎじゃないか?」
メアはそう言うが、僕のような小心者でなければ、これは分からない感覚なのだ。
一日が終わるごとに、ジワジワとその日が近づいてくるのを実感させられると、嫌でも焦燥感に駆り立てられる。
それに、今日までずっと後回しにしてきた、メアが災厄のドラゴンであることを説明するという、ビッグイベントが控えているというのも、憂鬱の原因だった。
「うぅ……気が重い、気が重い……」
「まあ、そう悲観するな主よ。甘いものでも食べれば、細かいことなんて気にならなくなるぞ」
なんとなく体に悪そうという理由で、甘味は一日一つまでという制限をかけていたのだが、メアは僕を励ますという名目で本日二度目のおやつタイムに入ろうとしていた。
だが……うん、たまには僕も、なにか甘いものを食べてみてもいいのかもしれない。
「……そうだね、そうしようかな」
「流石は私の主だ。ちなみに、ショートケーキよりも断然パンケーキの方がお得だ。トッピングのアイスは、何個乗せてもいいのだからな」
もはや、ここの食堂に関しては、僕よりも詳しくなっているんじゃないのか?
というか、そんな抜け道みたいなことを普段からやられていたら、おやつに制限かけている意味がなくなるのだが……。
「パンケーキもいいが、期間限定のメロンとスイカのミックスケーキも捨て難い……ここは、二人いることだしホールで食べるのはどうだろうか?」
「いや二人でも、ホールは大きすぎるよ。というか、今日はまた一段と暑いな……」
食堂に行くには、一旦寮を出て、校舎内に入らなくてはならない。
入学式の季節とは程遠い、真夏のような暑さに視界がくらむ。
「メア、世界を管理しているんでしょ? この暑さ、どうにか出来ないの?」
「そんなに都合よく、丁度いい気温にしていたら逆によくないんだ。こういう異常気象も、世界にとっては必要なのだよ」
「僕にとっては、全然必要じゃないんだけどなぁ……」
でもそうか……つまりメアは、その気になれば天気を自由に変えられるし、天気予報にしても、その辺の気象予報士より抜群に信憑性はある訳か……。
「ねえメア。明日の天気はどうなるの? 晴れ? 雨?」
「……主は私を、夢を叶えてくれる便利なロボットかなにかだと、思っていないか?」
そんな感じで僕たちは、校舎へと続く道を、テクテクと歩いていた。
丁度、正門の所まで来た辺りで、声をかけられた。というか、叫ばれた。
走っているせいで荒い息遣いになってしまっているが、それでもお構いなくというほど、必死な声だった。
「すみませーん! その子……その子、捕まえてくださーい!」
「……え? え!?」
急に捕まえろと言われても……見えるのは、走ってくる……女の子だけだ。他に、見えるものはなにも……。
「主、上だ」
メアに言われ咄嗟に空を見上げると、確かになにか飛んでいる。
なにか……なんだろう、あれ。なんか……ゴミ? ホコリのようなものがフワフワと、風にのって流されていた。
「あんなに高いの、捕まえろって言われても……メア、お願い出来る?」
「了解した」
言うが早いか、メアは背中に一瞬だけ翼を広げ、ばさりと空へ舞い上がった。
たった一回翼をはためかせるだけであそこまで飛べるなんて、大したものだと感心してしまう。
「……むっ」
しかし、ホコリ……と呼ぶのはあんまりだから、綿毛ということにしよう。
その綿毛は、まるで意思があるかのようにフワリとメアを避けて、さらに高く高く上っていった。
そのまま上がり続けるかと思いきや、メアを避けるとまた下がり、フワフワと校舎の方向へと消えていく。
「……確実に捕まえたと、思ったのだが」
メアは信じられなかったのか、地面に降り立った後も自分の手のひらを、ジッと見つめていた。
「ハァ、ハァ……待って、待ってユキちゃん……!」
ここまでノンストップで走り続けてきたのか、僕たちに追いつくとついに彼女は、膝に手をつき走るのを止めてしまった。
ユキちゃん……さっきの綿毛の名前だろうか。というか、あれは生物なのか。
「あの、大丈夫? 水持ってくるから、ここで休んでてよ。あ、日陰の方がいいか……」
ピンクがかったブラウンの髪は、汗でしっとりと濡れ、彼女の呼吸に合わせ肩あたりで揺れている。被っている帽子も、居心地が悪そうだ。
とにかく、熱中症にでもかかったら大変だ。すぐに涼しいところへ……いっそ、一緒に校舎へと行こうか。
ここまで来られたということは、彼女もまたこの学園の関係者であることには、間違いないのだろうし……。
そう思っていた所、彼女は滴る汗を拭い、顔を上げ言った。
「いえ、こんな所で休んでいる訳にはいきません! ……あ、さっきはすみません、ありがとうございます!」
「いや、それは別にいいんだけど……あの、ユキちゃん? って、なんなの?」
「そ、そう! ユキちゃん! あ、私、ルイナっていいます。初対面で申し訳ないんですが、助けてくれませんか?」
彼女……ルイナは、暑さで顔を赤く染めながら、それでいて緑色の瞳は涙でウルウルとさせながら、僕に助けを求めてきた。
そんな顔をされて……嫌とは、言えない。
「お、落ち着いて。まず、なにがあったのか説明してもらわないと……」
「あの子……ユキちゃんは、私のパートナーなんです。それでユキちゃんはとっても軽くて……ちょっとした風でも、今みたいに飛んでいっちゃって……」
「なるほど、だからさっき私が捕まえようとしても、避けられたのか」
メアは納得した様子で、ポンと手のひらを打った。
つまり、メアが飛び上がった時に発生した風で、ユキちゃんとやらは飛ばされ、それが偶然避けた様に見えた……と。
……いやそれ、捕まえるの無理なのでは?
それにこんなにも暑い日、風なんてほとんど吹かない。それでもこうして飛ばされてくるだなんて……一体どうやって捕まえろというのか。
「早く捕まえないと……ユキちゃんは、雪属性なんです。このままじゃ、ユキちゃんが溶けちゃう!」
時間の猶予はなく、しかしなんとかする手立ても見つかっていない。
再び空を見てみるが、もうユキちゃんの姿はどこにも見当たらなかった。
「一ヶ月でそれは、早すぎじゃないか?」
メアはそう言うが、僕のような小心者でなければ、これは分からない感覚なのだ。
一日が終わるごとに、ジワジワとその日が近づいてくるのを実感させられると、嫌でも焦燥感に駆り立てられる。
それに、今日までずっと後回しにしてきた、メアが災厄のドラゴンであることを説明するという、ビッグイベントが控えているというのも、憂鬱の原因だった。
「うぅ……気が重い、気が重い……」
「まあ、そう悲観するな主よ。甘いものでも食べれば、細かいことなんて気にならなくなるぞ」
なんとなく体に悪そうという理由で、甘味は一日一つまでという制限をかけていたのだが、メアは僕を励ますという名目で本日二度目のおやつタイムに入ろうとしていた。
だが……うん、たまには僕も、なにか甘いものを食べてみてもいいのかもしれない。
「……そうだね、そうしようかな」
「流石は私の主だ。ちなみに、ショートケーキよりも断然パンケーキの方がお得だ。トッピングのアイスは、何個乗せてもいいのだからな」
もはや、ここの食堂に関しては、僕よりも詳しくなっているんじゃないのか?
というか、そんな抜け道みたいなことを普段からやられていたら、おやつに制限かけている意味がなくなるのだが……。
「パンケーキもいいが、期間限定のメロンとスイカのミックスケーキも捨て難い……ここは、二人いることだしホールで食べるのはどうだろうか?」
「いや二人でも、ホールは大きすぎるよ。というか、今日はまた一段と暑いな……」
食堂に行くには、一旦寮を出て、校舎内に入らなくてはならない。
入学式の季節とは程遠い、真夏のような暑さに視界がくらむ。
「メア、世界を管理しているんでしょ? この暑さ、どうにか出来ないの?」
「そんなに都合よく、丁度いい気温にしていたら逆によくないんだ。こういう異常気象も、世界にとっては必要なのだよ」
「僕にとっては、全然必要じゃないんだけどなぁ……」
でもそうか……つまりメアは、その気になれば天気を自由に変えられるし、天気予報にしても、その辺の気象予報士より抜群に信憑性はある訳か……。
「ねえメア。明日の天気はどうなるの? 晴れ? 雨?」
「……主は私を、夢を叶えてくれる便利なロボットかなにかだと、思っていないか?」
そんな感じで僕たちは、校舎へと続く道を、テクテクと歩いていた。
丁度、正門の所まで来た辺りで、声をかけられた。というか、叫ばれた。
走っているせいで荒い息遣いになってしまっているが、それでもお構いなくというほど、必死な声だった。
「すみませーん! その子……その子、捕まえてくださーい!」
「……え? え!?」
急に捕まえろと言われても……見えるのは、走ってくる……女の子だけだ。他に、見えるものはなにも……。
「主、上だ」
メアに言われ咄嗟に空を見上げると、確かになにか飛んでいる。
なにか……なんだろう、あれ。なんか……ゴミ? ホコリのようなものがフワフワと、風にのって流されていた。
「あんなに高いの、捕まえろって言われても……メア、お願い出来る?」
「了解した」
言うが早いか、メアは背中に一瞬だけ翼を広げ、ばさりと空へ舞い上がった。
たった一回翼をはためかせるだけであそこまで飛べるなんて、大したものだと感心してしまう。
「……むっ」
しかし、ホコリ……と呼ぶのはあんまりだから、綿毛ということにしよう。
その綿毛は、まるで意思があるかのようにフワリとメアを避けて、さらに高く高く上っていった。
そのまま上がり続けるかと思いきや、メアを避けるとまた下がり、フワフワと校舎の方向へと消えていく。
「……確実に捕まえたと、思ったのだが」
メアは信じられなかったのか、地面に降り立った後も自分の手のひらを、ジッと見つめていた。
「ハァ、ハァ……待って、待ってユキちゃん……!」
ここまでノンストップで走り続けてきたのか、僕たちに追いつくとついに彼女は、膝に手をつき走るのを止めてしまった。
ユキちゃん……さっきの綿毛の名前だろうか。というか、あれは生物なのか。
「あの、大丈夫? 水持ってくるから、ここで休んでてよ。あ、日陰の方がいいか……」
ピンクがかったブラウンの髪は、汗でしっとりと濡れ、彼女の呼吸に合わせ肩あたりで揺れている。被っている帽子も、居心地が悪そうだ。
とにかく、熱中症にでもかかったら大変だ。すぐに涼しいところへ……いっそ、一緒に校舎へと行こうか。
ここまで来られたということは、彼女もまたこの学園の関係者であることには、間違いないのだろうし……。
そう思っていた所、彼女は滴る汗を拭い、顔を上げ言った。
「いえ、こんな所で休んでいる訳にはいきません! ……あ、さっきはすみません、ありがとうございます!」
「いや、それは別にいいんだけど……あの、ユキちゃん? って、なんなの?」
「そ、そう! ユキちゃん! あ、私、ルイナっていいます。初対面で申し訳ないんですが、助けてくれませんか?」
彼女……ルイナは、暑さで顔を赤く染めながら、それでいて緑色の瞳は涙でウルウルとさせながら、僕に助けを求めてきた。
そんな顔をされて……嫌とは、言えない。
「お、落ち着いて。まず、なにがあったのか説明してもらわないと……」
「あの子……ユキちゃんは、私のパートナーなんです。それでユキちゃんはとっても軽くて……ちょっとした風でも、今みたいに飛んでいっちゃって……」
「なるほど、だからさっき私が捕まえようとしても、避けられたのか」
メアは納得した様子で、ポンと手のひらを打った。
つまり、メアが飛び上がった時に発生した風で、ユキちゃんとやらは飛ばされ、それが偶然避けた様に見えた……と。
……いやそれ、捕まえるの無理なのでは?
それにこんなにも暑い日、風なんてほとんど吹かない。それでもこうして飛ばされてくるだなんて……一体どうやって捕まえろというのか。
「早く捕まえないと……ユキちゃんは、雪属性なんです。このままじゃ、ユキちゃんが溶けちゃう!」
時間の猶予はなく、しかしなんとかする手立ても見つかっていない。
再び空を見てみるが、もうユキちゃんの姿はどこにも見当たらなかった。
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