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第1章 学園編
第19話 怖いの
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「よし、いい調子だ……むっ……」
「あー、惜しい! あともう少しでクリアだったのにー!」
ほとんど絶叫に近い声が部屋中に響き渡り、テーブルに置かれたコップは長い時間の経過を知らせるように大量の汗をかいていた。
いくら名門校と言われているこの学園も、寮の部屋はそれほど広くない。一部屋に、別でトイレと風呂があるだけ。三人集まっただけでも、暑苦しいくらいだ。
「お二人さん、ゲームはもうこれぐらいにして、今日はもうお開きにしようよ」
「えー! まだいいじゃない! キリのいい所まで、やらせてよぅ」
もうすっかり打ち解け、敬語がなくなり分かりやすく不満を言うルイナと、僕が言った手前文句を言えないメア……二人とも、まだゲームがやり足りないようである。
どこからか入手したのか、最新型のハードに今話題のアクションゲーム。
つい夢中になってしまうのも、分からなくはないが……。
「ダメダメ。あんまりやりすぎて目が悪くなったらどうするのさ」
ゲームは一日一時間……とまではいかなくとも、やはり制限時間はあった方がいい。
それこそ睡眠時間を削ってまでどっぷりとのめりこまれては、困るからだ。
「ふむ……さっきからずっと、同じ所で死んでしまっていたな。あそこのパターンを見極めれば、次こそはクリア出来るのではないか?」
「確かに! 相手の攻撃を避けた隙を狙われることが多いね。横じゃなくて、後ろに避けるべきだったかも――」
ゲームをシャットダウンしても、彼女たちの話は終わらない。むしろ、ますますヒートアップしているようだ。
「ふー、それにしても暑い……」
エアコン、設定温度をもう一度下げようか。
ピ、とリモコンを操作すれば、部屋の温度を更に下げるべくエアコンがフル稼働を始め……。
「あー! ユキちゃん!」
ルイナの手から離れたユキちゃんは、エアコンの風に乗って部屋中を駆け巡る。
「危ないから手を離さないでくれます!?」
部屋の中とはいえ、こうも縦横無尽に飛び回られては、危険だ。というか、単純にぶつからないか、ものすごく怖い。
「はー、ユキちゃん……よかった、無事で」
「いっそのこと、ヒモかなにかで繋いでおいた方がいいんじゃないか?」
メアの意見に、激しく同意する。
毎度毎度こんなことが起こっていては、ルイナもそうだがユキちゃんにとっても、ストレスだろう。
「うーん、でもそれだとユキちゃんが嫌がるから……」
「ユキちゃん感情あるんだ」
思わず声に出してしまった。
「ヒモで繋がれるのも、入れ物に入るのも、嫌がるの。お陰で、ここまで来るのにも一苦労だよ……」
「うんうん……いやそもそも、どうして僕の部屋に? 女子寮まで結構距離もあるし、わざわざここに集まらなくても……」
別に、女子寮と男子寮での行き来は禁止されていないが、ユキちゃん失踪の危険を犯してまで来ることもないだろう。
それなら、僕が向こうの部屋に行った方が……。
いや、それはなにかまずい気がする。
女子が男子の所へ遊びに行くのはいいが、逆はまずい。
「だってだって、メアちゃんと遊びたいんだもん! それに、入寮者は今の所私たちしかいないし、いいじゃない。暇だし」
確かにルイナの言う通り、入学式までの日を持て余していた所だが……。
というか、いつの間にかものすごく仲良くなっているな、この二人。一緒にゲームまでする仲か。
「……とにかく、ゲームはもう終わり! それと、いくらメアがいるっていっても、男の部屋に遊びに来るのは危ないよ?」
「あはは! なに言ってるの? だって、レイズくんは小さな女の子にしか興味がないでしょう?」
…………は?
「な……なに? 今……僕が、なんて……?」
「え? 小さい女の子しか好きじゃないんだよね?」
な、なんでだ……。僕が、なにをしたっていうんだ……。
一体なんだって、そんな異常性癖者にされて……。
「僕は、その……普通に! 普通の……女性が……好きですけど!?」
いや面と向かってこんなことを言うのも、恥ずかしくてたまらない。本当のことを言っているだけなのに、我ながら焦って言い訳をしているようにしか見えなかった。
「え? だって、メアちゃんってドラゴンが人の姿になっているんだよね? それで子どもの、しかも女の子って、そういうことじゃ……?」
「全っ然違う!! 初めて会った時からこの姿だったんだって! 僕の趣味じゃない!」
またも必死に弁明をしてしまうが、そうか……。
これから先、初対面の人ほぼ全員にこんな勘違いをされ、しかもいちいち誤解を解いていかなければならないのか。考えただけで、頭が痛くなってくる。
「じゃあメアちゃん。なんでメアちゃんは女の子の姿なの?」
「なんとなくだ」
なんとなくでロリコン認定されてたまるか。
「それなら! レイズくんが新しい姿を考えるのはどう?」
「え? うーん……なんだかんだ、この姿で見慣れちゃってるしなぁ。今さら変えるのも、違和感あるかも……? いや、別に女児が好きな訳じゃなくてね?」
そう、メアはこの姿だからメアなのであって、別の……例えばドラゴンのままの姿で出会っていたら、確実にパートナーにはなっていなかったし、ここにもいなかっただろう。
そう考えると、今の状況に出会わせてくれたこの姿が、一番しっくりくるというか……。
「でもなぁ……確実にロリコンだって思われるよなぁ……ルイナみたいに、それを言ってくれる人ばかりじゃないし……」
むしろ、あなたロリコンですかと聞いてくる人の方が少数だ。
僕の心の天秤が、ユラユラと揺れ動いている。このままにしておくか、別の姿に変えてもらうか。
そもそも、メア自身はどう思っているのだろう。
そっと様子をうかがってみるが、普段と変わらないように見える。
特になんとも思っていないのだろうか。
メアは、災厄のドラゴンとして世界中を飛び回り、数多の街に被害をもたらした。
その時に見た人たちの中からたまたま選ばれたのが、今の姿なのかもしれない。
あまり、思い入れはないのだろう。
「でも……変えるにしても、今のイメージが強すぎて新しい姿なんて思い浮かばないな」
「それなら、一旦リセットしてみるのはどう?」
「リセット?」
「そう、一度ドラゴンの姿に戻ってもらって、何日かすれば記憶もぼやけてくると思うんだよね。それだったら――」
「ごめん、無理だ……」
なるべく思い出さないようにしていた、あの日の記憶が掘り起こされる。
エアコンはガンガンに効いているはずなのに、汗が止まらない。体は芯から暑いというのに、ガタガタと震え出す始末だ。
「ど、どうしたの? 具合でも悪い?」
ああ、言わなければならない。パートナーになったからには、絶対にバレてはいけないことを。
……いや、違う。結局は、問題を先送りにしているだけなのだ。
今のことも、メアが災厄のドラゴンだということも、そう。いつかは言わなければならない日が来るというのに……見ないふりをして。最後の最後、破裂寸前にまでなってからやっと、観念して話すのだ。
「実は……実は、ね。最初に会った時に見たドラゴンの姿がトラウマになっちゃって、今になってもまだ怖いし、見られないんだ」
「あー、惜しい! あともう少しでクリアだったのにー!」
ほとんど絶叫に近い声が部屋中に響き渡り、テーブルに置かれたコップは長い時間の経過を知らせるように大量の汗をかいていた。
いくら名門校と言われているこの学園も、寮の部屋はそれほど広くない。一部屋に、別でトイレと風呂があるだけ。三人集まっただけでも、暑苦しいくらいだ。
「お二人さん、ゲームはもうこれぐらいにして、今日はもうお開きにしようよ」
「えー! まだいいじゃない! キリのいい所まで、やらせてよぅ」
もうすっかり打ち解け、敬語がなくなり分かりやすく不満を言うルイナと、僕が言った手前文句を言えないメア……二人とも、まだゲームがやり足りないようである。
どこからか入手したのか、最新型のハードに今話題のアクションゲーム。
つい夢中になってしまうのも、分からなくはないが……。
「ダメダメ。あんまりやりすぎて目が悪くなったらどうするのさ」
ゲームは一日一時間……とまではいかなくとも、やはり制限時間はあった方がいい。
それこそ睡眠時間を削ってまでどっぷりとのめりこまれては、困るからだ。
「ふむ……さっきからずっと、同じ所で死んでしまっていたな。あそこのパターンを見極めれば、次こそはクリア出来るのではないか?」
「確かに! 相手の攻撃を避けた隙を狙われることが多いね。横じゃなくて、後ろに避けるべきだったかも――」
ゲームをシャットダウンしても、彼女たちの話は終わらない。むしろ、ますますヒートアップしているようだ。
「ふー、それにしても暑い……」
エアコン、設定温度をもう一度下げようか。
ピ、とリモコンを操作すれば、部屋の温度を更に下げるべくエアコンがフル稼働を始め……。
「あー! ユキちゃん!」
ルイナの手から離れたユキちゃんは、エアコンの風に乗って部屋中を駆け巡る。
「危ないから手を離さないでくれます!?」
部屋の中とはいえ、こうも縦横無尽に飛び回られては、危険だ。というか、単純にぶつからないか、ものすごく怖い。
「はー、ユキちゃん……よかった、無事で」
「いっそのこと、ヒモかなにかで繋いでおいた方がいいんじゃないか?」
メアの意見に、激しく同意する。
毎度毎度こんなことが起こっていては、ルイナもそうだがユキちゃんにとっても、ストレスだろう。
「うーん、でもそれだとユキちゃんが嫌がるから……」
「ユキちゃん感情あるんだ」
思わず声に出してしまった。
「ヒモで繋がれるのも、入れ物に入るのも、嫌がるの。お陰で、ここまで来るのにも一苦労だよ……」
「うんうん……いやそもそも、どうして僕の部屋に? 女子寮まで結構距離もあるし、わざわざここに集まらなくても……」
別に、女子寮と男子寮での行き来は禁止されていないが、ユキちゃん失踪の危険を犯してまで来ることもないだろう。
それなら、僕が向こうの部屋に行った方が……。
いや、それはなにかまずい気がする。
女子が男子の所へ遊びに行くのはいいが、逆はまずい。
「だってだって、メアちゃんと遊びたいんだもん! それに、入寮者は今の所私たちしかいないし、いいじゃない。暇だし」
確かにルイナの言う通り、入学式までの日を持て余していた所だが……。
というか、いつの間にかものすごく仲良くなっているな、この二人。一緒にゲームまでする仲か。
「……とにかく、ゲームはもう終わり! それと、いくらメアがいるっていっても、男の部屋に遊びに来るのは危ないよ?」
「あはは! なに言ってるの? だって、レイズくんは小さな女の子にしか興味がないでしょう?」
…………は?
「な……なに? 今……僕が、なんて……?」
「え? 小さい女の子しか好きじゃないんだよね?」
な、なんでだ……。僕が、なにをしたっていうんだ……。
一体なんだって、そんな異常性癖者にされて……。
「僕は、その……普通に! 普通の……女性が……好きですけど!?」
いや面と向かってこんなことを言うのも、恥ずかしくてたまらない。本当のことを言っているだけなのに、我ながら焦って言い訳をしているようにしか見えなかった。
「え? だって、メアちゃんってドラゴンが人の姿になっているんだよね? それで子どもの、しかも女の子って、そういうことじゃ……?」
「全っ然違う!! 初めて会った時からこの姿だったんだって! 僕の趣味じゃない!」
またも必死に弁明をしてしまうが、そうか……。
これから先、初対面の人ほぼ全員にこんな勘違いをされ、しかもいちいち誤解を解いていかなければならないのか。考えただけで、頭が痛くなってくる。
「じゃあメアちゃん。なんでメアちゃんは女の子の姿なの?」
「なんとなくだ」
なんとなくでロリコン認定されてたまるか。
「それなら! レイズくんが新しい姿を考えるのはどう?」
「え? うーん……なんだかんだ、この姿で見慣れちゃってるしなぁ。今さら変えるのも、違和感あるかも……? いや、別に女児が好きな訳じゃなくてね?」
そう、メアはこの姿だからメアなのであって、別の……例えばドラゴンのままの姿で出会っていたら、確実にパートナーにはなっていなかったし、ここにもいなかっただろう。
そう考えると、今の状況に出会わせてくれたこの姿が、一番しっくりくるというか……。
「でもなぁ……確実にロリコンだって思われるよなぁ……ルイナみたいに、それを言ってくれる人ばかりじゃないし……」
むしろ、あなたロリコンですかと聞いてくる人の方が少数だ。
僕の心の天秤が、ユラユラと揺れ動いている。このままにしておくか、別の姿に変えてもらうか。
そもそも、メア自身はどう思っているのだろう。
そっと様子をうかがってみるが、普段と変わらないように見える。
特になんとも思っていないのだろうか。
メアは、災厄のドラゴンとして世界中を飛び回り、数多の街に被害をもたらした。
その時に見た人たちの中からたまたま選ばれたのが、今の姿なのかもしれない。
あまり、思い入れはないのだろう。
「でも……変えるにしても、今のイメージが強すぎて新しい姿なんて思い浮かばないな」
「それなら、一旦リセットしてみるのはどう?」
「リセット?」
「そう、一度ドラゴンの姿に戻ってもらって、何日かすれば記憶もぼやけてくると思うんだよね。それだったら――」
「ごめん、無理だ……」
なるべく思い出さないようにしていた、あの日の記憶が掘り起こされる。
エアコンはガンガンに効いているはずなのに、汗が止まらない。体は芯から暑いというのに、ガタガタと震え出す始末だ。
「ど、どうしたの? 具合でも悪い?」
ああ、言わなければならない。パートナーになったからには、絶対にバレてはいけないことを。
……いや、違う。結局は、問題を先送りにしているだけなのだ。
今のことも、メアが災厄のドラゴンだということも、そう。いつかは言わなければならない日が来るというのに……見ないふりをして。最後の最後、破裂寸前にまでなってからやっと、観念して話すのだ。
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