訳あり幼女に声をかけたら最強のドラゴンだった

Luculia

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第1章 学園編

第22話 無力

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「……クラス分け、Sクラスになれてよかったな。まあ、私と主なら当然だな」
 クラス分け……そうか、終わったのか。
 記憶が曖昧だ。いつ、終わったんだっけ? どうやって、帰ったんだろう。
 ベッドでうつ伏せになっているのを、顔だけ上げて見てみれば外はもう夕暮れ時だ。
 電気もついていない部屋を、夕日が真っ赤に照らす。それでもこの後に夜が控えているからか、部屋の中は薄暗く、壁にもたれるようにして座っているメアの姿も、見えにくかった。
「一週間後には、入学式だ。どんなことをするんだろうな? 楽しみだな、主」
 入学式か……そういえば、同じクラスには、どんな人たちがいるんだろう。
 ……いや、関係ないか。
 その人たちは皆、パートナーと力を合わせ、実力でSクラスを勝ち取った人たちだ。
 僕のように、パートナーだけの力でSクラスになった人だなんて、誰もいないだろう。
「……主、どうして元気がないんだ? 嬉しくないのか?」
 今は、なにも考えたくない。なにも聞きたくない。そんなことは関係なく、メアは一人で喋り続ける。
 分かっている。メアは、悪くない。なにも悪くないんだ。
 ……それでも――。
「元気がない時は、美味しいものを食べるに限る。今日の夕飯がまだだろう? 食堂に行って――」
「いらない。少し、一人にさせてくれない……」
 つい、強い口調で言ってしまった。
 後から後悔が襲ってくるが、もう言ってしまったことは取り消せない。
 僕は頭まで布団を被り、なにもかもを見ないようにした。
「……そうか。じゃあ、一人で行ってくる」
 布団を被っているからなのか、妙に小さな声。ガチャンとドアが閉まる音が聞こえ、そして完全に誰の気配もなくなった。
「最低だ……最低だ……」
 完全に八つ当たりではないか。メアは僕が指示を出せなかったせいで、時間いっぱい攻撃を受けて……それでも、こうして慰めてくれている。
 それを、僕は……。
 なにもかもが、嫌になる。こんな僕に、メアの後を追う権利なんてない。
 ……そうしているうちに、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
 寝ぼけ半分で布団から出ても、真っ暗なまま。完全に夜だ。
 覚醒していない頭で、それでもなんとか電気をつける。
 パッと部屋全体が明かりに包まれる中で、そこにいるはずの姿が見当たらない。
「……メア?」
 メアが使っているベッドに、お風呂、トイレ……隠れられる場所は限られているというのに、どこにも見当たらない。
 ……ああ、そうか。そういえばメアは、一人で食事に行くと言っていた。
 ……って、いやいや。こんな夜まで食堂にいる訳がないだろう。どれだけ食べているんだ。
「帰ってきていないのか……?」
 スッと血の気が引いていく。メアが出ていく時に言ってしまった、酷い言葉が思い出される。
「と、とにかく、探しに行かないと……」
 気まずいだとか、そんなことは後回しだ。今はとにかく、メアは見つけないと。
 電気もつけっぱなしで部屋を出て、とりあえず食堂へと走る中、僕は考えていた。
 メアはもう僕に愛想がつきて、学園から出て行ってしまったのではないかと。
 ……食堂に来てみたが、やはりメアの姿はない。他に行きそうなところといえば……。
 思いつかない……。食べること以外で、こんな夜遅くまで熱中することが、メアにあるのか?
 強いて言うなら、ゲームをやっていたことくらいか。それでも僕の部屋で、ルイナとやっていた所しか見ていないが。
「ルイナ……ルイナか」
 行きにくい……というか、もしもバレたら晒し上げにされてしまう。
 だが、もう他に行きそうな所が思い当たらなかった。
 僕は思い足取りで、女子寮の方へと向かう。
「……うん。こんな所、誰か人に見られでもしたら、一発で覗き魔変態ストーカー扱いだろうな」
 闇夜に紛れて、茂みから茂みへ移動するその姿は、下手すれば学園の七不思議と見間違えられても不思議ではなかった。
 いつもルイナが言っているように、別に校則違反でもなんでもないのだが、夜というのがよくない。絶対にバレる訳にはいかなかった。
 ここまでの苦労を持ってしても、残念、メアはルイナの元へ行っていないようだった。
 なぜ分かるのか。それは、女子寮の電気が全て消えていたからである。
 もしメアが来ていたとすれば、電気はついているはず。
「ここにもいない……じゃあもう、どこを探せばいいんだろう……」
 広大な学園の敷地内、ノーヒントで探すのは無理があった。
 ……そう考えると、僕はメアのこと、なにも知らなかったんだな。
 たった二箇所あてが外れただけで、もうお手上げだなんて。
 もう一度、考え直そう。そう思って広場へと向かう。
 こんな夜に広場に来る人だなんていないだろうし、考え事をするのにはちょうどいい。
 そんな感じで、なんとなく行っただけだった。
「いたー……」
 広場のベンチに、ちょこんと座っているのは、後ろ姿でも分かる。メアだ。
 こんな所で、なにをしているのだろう。
 すぐに声をかければいいものを、僕はつい近くの木の影へ隠れてしまった。
「……うむ」
 なんだ? なにか喋っている。この静けさだ。耳に全神経を集中させれば、なんとか聞き取ることが出来た。
「結局、主のことを元気づけるのは、失敗したな」
 ……僕のことを言っている? そんなことを気にして、今の今までここにいたのか?
「そもそも主はなんで、あんなに落ちこんでいたのだ? Sクラスになったのは、主の望んでいたことではなかったのか……」
「まだ、分かっていないんだ……」
 いや、分からなくて当然か。だって、メアに一切の落ち度はなかったのだから。
 僕が、自分自身の無能ぶりに落ちこんでいるだなんて、分かる訳ないか。
「……正直、クラスとか学園生活だとかはどうでもいいが、私は主のパートナーだ。パートナーとしての役目を果たさなければならないというのに、私は……どうしようもなく、無力だ……」
 それを聞いた後、僕は慌てて元来た道を引き返す。
 メアが、もう帰ろうとする仕草をしていたからだ。
 声は、かけなかった。ここで聞いたことは、なんとなく秘密にしておいた方がいいと思った。
 メアは……メアも、同じことを思っていたんだ。
 僕が、トレーナーとして無力だと感じていたように、メアもパートナーとして、同じことを感じている。
 部屋に帰るなり電気を消し、慌てて布団に入る。逆だろう、色々と。
「ただいま……主、寝ているのか?」
 メアの声で、さも今起きたかのように振る舞う。
 せめて、メアの邪魔だけはしないようにしよう。
 僕の尻拭いだけでなく、メアの志しまで奪ってしまったら、僕は本当にどうしようもないやつになってしまうから。
「……ごめん、メア。寝ちゃってたよ。お腹空いたし、ちょっと遅いけどご飯食べに行こうかな。付き合ってくれる?」
「む、勿論だ。主はきっと寝不足だったんだな。寝たら元気になったようで、安心したぞ」
 そう、気づかれないように僕は演じ続けよう。
 メアが、気持ちよくパートナーをやれるように。
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