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第2章 退屈
髪の毛と爪
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「マジでヒドイっすよ、どう思います? 秋山さん。山上さん、俺のことストーカーだと思ってたんすよ!?」私はひたすらに謝るしかなかった。
「それはヒドイな」と秋山さんが言ったが、内心、秋山さんだってちょっとは思っていたんじゃないのかと毒づいた。
名古屋さんはストーカーではなかった。純粋に、飯塚香の迷子になった飼い犬を三日間、寝る間も惜しんで捜していただけだったらしい。その熱意はストーカーに匹敵するような気もしたが、実際に後をつけたという事実はないのだという。
「でも、飯塚さんは犬の犬種も言ってなかったのにどうやってその迷子犬を見つけるつもりだったんですか?」
「それは彼女の鞄にストラップが付いてたんですよ。コーギーの。その横にネームプレートみたいなのにコーちゃんって書いてあったから飼い犬はコーギーなのかって。気づかなかったんすか?」
「そんなところまで見てなかったですよ」と私は半ば呆れ気味で言ったがそれが分かったのか名古屋さんは鋭い視線を私に向ける。
「見つかったのか? コーギー」
「いや、まだ見つかってないんす」
「そうか」
「そもそも、名古屋さんはなんであのコンビニにいたんですか?」あんな紛らわしいところに、という言葉は飲みこんだ。
「コーちゃんを捜してたら、飯塚さんがあのコンビニに入っていくのを見かけて。飯塚さんに聞けば目撃情報とか教えてもらえるかなって思って出てくるのを待ってたんすよ。それに、俺がコーちゃんを捜してるってアピールにもなるじゃないっすか。一石二鳥じゃないっすか」
そうゆうことなのか、と私は少し落胆したが、名古屋さんがストーカーではなかったという安堵の方が大きかった。
「でも、それじゃあストーカーは別にいるってことになりますね」
「飯塚さんを好きになる気持ちは痛いほど分かりますけど、ストーカーは許せないっすね」と名古屋さんは語気強く言った。
「飯塚香は恋人と一緒に帰って行った、と言ってたな」
「そうですよ。だから一応安心ですね」
「秋山さん、恋人じゃなくて弟かお兄さんっすよ」
「いや、安心はできない」と秋山さんは静かに言った。
「なんでですか?」
「ストーカーが逆上する可能性がある。自分が作り上げた妄想の中の飯塚香には恋人はいないし自分のことを必要だと思っている。それなのに飯塚香は恋人がいた。ストーカーはそれを酷い裏切り行為だと判断し兼ねない」
「裏切り行為…」
「そうだ。人間は、自分のものが自分の手から離れると酷い嫌悪を感じる生き物だ。切り落とされた爪や髪の毛は、単体で見せられれば気味が悪いだろう? 自分のものだと思っていた飯塚香が自分のものじゃないとわかったストーカーがどんな行動にでるか、予測が付かない」
足の指先から冷たくなっていくような、言い知れぬ不安を感じた。
「それじゃあ、飯塚さんは」
「あぁ、恋人が一緒とは言え、かなり危険かもしれない」
ソファに座っていた名古屋さんが勢いよく立ち上がりお店の入り口にかけて行く。あまりの早さに私は呆気に取られていたが秋山さんはそれに反応し立ち上がっていた。「待て、名古屋」と珍しく秋山さんが大きな声で言った。名古屋さんは聞こえていただろうがその声に振り返ることはなく走ってお店を出て行った。
小さな舌打ちを秋山さんがして、「追うぞ」と言い、その言葉にようやく私は立ち上がり秋山さんと一緒に名古屋さんを追いかけた。暗い夜道を全力に近い力でかけて行く名古屋さんは私たちが駐車場を出た時にはすでにかなり遠くにいた。
「きっと、コンビニに向かってるはずです! 飯塚さんの自宅は知らないはずですから」
「あぁ」
嫌な予感が、ガスが部屋全体を満たすように体に染み込んでくる。ストーカーは名古屋さんかもしれない、という嫌な予感は外れたのだ。だからこの嫌な予感も当たるはずがない、と私は思いながら走った。
暗い夜道には、私と秋山さんの息がきれる音が響いていた。
「それはヒドイな」と秋山さんが言ったが、内心、秋山さんだってちょっとは思っていたんじゃないのかと毒づいた。
名古屋さんはストーカーではなかった。純粋に、飯塚香の迷子になった飼い犬を三日間、寝る間も惜しんで捜していただけだったらしい。その熱意はストーカーに匹敵するような気もしたが、実際に後をつけたという事実はないのだという。
「でも、飯塚さんは犬の犬種も言ってなかったのにどうやってその迷子犬を見つけるつもりだったんですか?」
「それは彼女の鞄にストラップが付いてたんですよ。コーギーの。その横にネームプレートみたいなのにコーちゃんって書いてあったから飼い犬はコーギーなのかって。気づかなかったんすか?」
「そんなところまで見てなかったですよ」と私は半ば呆れ気味で言ったがそれが分かったのか名古屋さんは鋭い視線を私に向ける。
「見つかったのか? コーギー」
「いや、まだ見つかってないんす」
「そうか」
「そもそも、名古屋さんはなんであのコンビニにいたんですか?」あんな紛らわしいところに、という言葉は飲みこんだ。
「コーちゃんを捜してたら、飯塚さんがあのコンビニに入っていくのを見かけて。飯塚さんに聞けば目撃情報とか教えてもらえるかなって思って出てくるのを待ってたんすよ。それに、俺がコーちゃんを捜してるってアピールにもなるじゃないっすか。一石二鳥じゃないっすか」
そうゆうことなのか、と私は少し落胆したが、名古屋さんがストーカーではなかったという安堵の方が大きかった。
「でも、それじゃあストーカーは別にいるってことになりますね」
「飯塚さんを好きになる気持ちは痛いほど分かりますけど、ストーカーは許せないっすね」と名古屋さんは語気強く言った。
「飯塚香は恋人と一緒に帰って行った、と言ってたな」
「そうですよ。だから一応安心ですね」
「秋山さん、恋人じゃなくて弟かお兄さんっすよ」
「いや、安心はできない」と秋山さんは静かに言った。
「なんでですか?」
「ストーカーが逆上する可能性がある。自分が作り上げた妄想の中の飯塚香には恋人はいないし自分のことを必要だと思っている。それなのに飯塚香は恋人がいた。ストーカーはそれを酷い裏切り行為だと判断し兼ねない」
「裏切り行為…」
「そうだ。人間は、自分のものが自分の手から離れると酷い嫌悪を感じる生き物だ。切り落とされた爪や髪の毛は、単体で見せられれば気味が悪いだろう? 自分のものだと思っていた飯塚香が自分のものじゃないとわかったストーカーがどんな行動にでるか、予測が付かない」
足の指先から冷たくなっていくような、言い知れぬ不安を感じた。
「それじゃあ、飯塚さんは」
「あぁ、恋人が一緒とは言え、かなり危険かもしれない」
ソファに座っていた名古屋さんが勢いよく立ち上がりお店の入り口にかけて行く。あまりの早さに私は呆気に取られていたが秋山さんはそれに反応し立ち上がっていた。「待て、名古屋」と珍しく秋山さんが大きな声で言った。名古屋さんは聞こえていただろうがその声に振り返ることはなく走ってお店を出て行った。
小さな舌打ちを秋山さんがして、「追うぞ」と言い、その言葉にようやく私は立ち上がり秋山さんと一緒に名古屋さんを追いかけた。暗い夜道を全力に近い力でかけて行く名古屋さんは私たちが駐車場を出た時にはすでにかなり遠くにいた。
「きっと、コンビニに向かってるはずです! 飯塚さんの自宅は知らないはずですから」
「あぁ」
嫌な予感が、ガスが部屋全体を満たすように体に染み込んでくる。ストーカーは名古屋さんかもしれない、という嫌な予感は外れたのだ。だからこの嫌な予感も当たるはずがない、と私は思いながら走った。
暗い夜道には、私と秋山さんの息がきれる音が響いていた。
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