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瀬戸際の泥棒と窓際の彼女
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「もしかして、俺があの時クローゼットの中にいるお前に気づいてないと思ってたのか?」
一瞬、佐田の言っている意味が甲田にはわからなかった。
「意味がわからないって顔してるな」と佐田はニヤついた顔で言う。
「想像力を働かせろよ。お前だって少しは腕の立つ泥棒なんだろう? だったら考えてみろよ」いいか? と佐田は教えを諭す教師のように話し始める。甲田は黙って聞くしかなかった。
「例えば、お前はある家に忍び込んだ。ルールは家の住人に見つかった時点でその住人は全員殺さなきゃならない。だがお前には家族構成が知らされてないとする。お前が寝室に入ると二人の若い夫婦が寝てるんだ。その時だな、お前は誤って音を立てちまう」
どこかで似たような話を聞いたな、と頭の中を探りすぐに思い出した。神田美咲の両親が殺された時の話と似ている。寝室で音を立ててしまった泥棒が逃げ、隠れていた神田美咲を両親が泥棒に攫われたと誤解し追いかけてしまった。
「そこで夫婦は起きるんだ。目の前には泥棒。お前は見つかった。仕方なくお前はその二人を殺す。それで終わり、だと、思うか?」佐田の濁った目が甲田を見据える。見えていないはずの神田美咲でさえ、その目に気圧されていた。
「そんなわけないよな? 老夫婦でもなければ中年の夫婦でもないんだ。若い夫婦が寝てれば、ちょっとでも経験を積んだ泥棒ならすぐに懸念するだろ? ガキの有無を」
神田美咲のあの悲劇を聞いた時のことを思い出す。甲田はあの時、その泥棒は二流でなんの計画性も泥棒としての経験もない初心者だったのだろう、と思った。
泥棒に大切なのは想像と思考、だ。
忍び込む前に念入りにどのような事が起こり得るかを想像し対応策を思考する。そうすれば自ずと音の鳴るリュックで盗みに入ることなどはしないはずだ。そして、泥棒が神田美咲に気づかなかったのも、想像せず思考もしなかった結果だ。夫婦が寝室で寝てれば、佐田の言う通り子供の有無を懸念する。だが、泥棒初心者はそこまでの想像も思考もできなかった。
伝説の泥棒、とまで言われた佐田が、あの時あの状況で子供の存在を考えないはずがなかった。
「俺はな、すぐに気づいたよ。クローゼットの中のお前を。いつもならガキから痛め付けるんだが、その時は趣向を凝らして親を痛めつけてるところをガキに見せてやろうと思ったんだよ」佐田の顔が残忍なものに変わった。
「あれは、なかなか良かった」
甲田は自分が立っている床がまるで水風船のように不安定になった感覚に襲われた。片方の足に体重を掛けると床が沈みもう片方の足からブクン、と床が盛り上がる。必死に態勢を立て直そうとするが周りには掴むものがない。神田美咲の手を借りたくても、触る事ができない。もがいた末に掴んでいたものは胸にしまっていた拳銃だった。
「じゃあ、なんで俺を殺さなかった」
無意識のうちに拳銃を構え佐田に向ける。
「いろいろあったんだよ」と佐田は勿体つけるような言い方をする。その顔は拳銃を向けられていることなど微塵も感じさせないほどの余裕があった。
「言え!」甲田が引き金に力を入れようとした時だった。
「甲田さん! 後ろ!」と神田美咲の悲鳴に近い声が聞こえるのと同時に強い衝撃を頭部に感じる。
気がつくと甲田は倉庫の床に倒れていた。鈍い痛みが頭にある。先ほどまで水風船のように柔らかく歪んでいた床は元の硬さに戻っていた。ひんやりとした床の感覚が徐々に手の先から薄れていく。神田美咲が何度も名前を呼んでいるが反応する事ができない。いつの間にかすぐ前に立っている佐田の手には拳銃があった。それが甲田の拳銃なのか、もともとの佐田のものなのかももう甲田は分からない。
薄れゆく意識の中、神田美咲とクロの顔が頭に浮かんでいた。
一瞬、佐田の言っている意味が甲田にはわからなかった。
「意味がわからないって顔してるな」と佐田はニヤついた顔で言う。
「想像力を働かせろよ。お前だって少しは腕の立つ泥棒なんだろう? だったら考えてみろよ」いいか? と佐田は教えを諭す教師のように話し始める。甲田は黙って聞くしかなかった。
「例えば、お前はある家に忍び込んだ。ルールは家の住人に見つかった時点でその住人は全員殺さなきゃならない。だがお前には家族構成が知らされてないとする。お前が寝室に入ると二人の若い夫婦が寝てるんだ。その時だな、お前は誤って音を立てちまう」
どこかで似たような話を聞いたな、と頭の中を探りすぐに思い出した。神田美咲の両親が殺された時の話と似ている。寝室で音を立ててしまった泥棒が逃げ、隠れていた神田美咲を両親が泥棒に攫われたと誤解し追いかけてしまった。
「そこで夫婦は起きるんだ。目の前には泥棒。お前は見つかった。仕方なくお前はその二人を殺す。それで終わり、だと、思うか?」佐田の濁った目が甲田を見据える。見えていないはずの神田美咲でさえ、その目に気圧されていた。
「そんなわけないよな? 老夫婦でもなければ中年の夫婦でもないんだ。若い夫婦が寝てれば、ちょっとでも経験を積んだ泥棒ならすぐに懸念するだろ? ガキの有無を」
神田美咲のあの悲劇を聞いた時のことを思い出す。甲田はあの時、その泥棒は二流でなんの計画性も泥棒としての経験もない初心者だったのだろう、と思った。
泥棒に大切なのは想像と思考、だ。
忍び込む前に念入りにどのような事が起こり得るかを想像し対応策を思考する。そうすれば自ずと音の鳴るリュックで盗みに入ることなどはしないはずだ。そして、泥棒が神田美咲に気づかなかったのも、想像せず思考もしなかった結果だ。夫婦が寝室で寝てれば、佐田の言う通り子供の有無を懸念する。だが、泥棒初心者はそこまでの想像も思考もできなかった。
伝説の泥棒、とまで言われた佐田が、あの時あの状況で子供の存在を考えないはずがなかった。
「俺はな、すぐに気づいたよ。クローゼットの中のお前を。いつもならガキから痛め付けるんだが、その時は趣向を凝らして親を痛めつけてるところをガキに見せてやろうと思ったんだよ」佐田の顔が残忍なものに変わった。
「あれは、なかなか良かった」
甲田は自分が立っている床がまるで水風船のように不安定になった感覚に襲われた。片方の足に体重を掛けると床が沈みもう片方の足からブクン、と床が盛り上がる。必死に態勢を立て直そうとするが周りには掴むものがない。神田美咲の手を借りたくても、触る事ができない。もがいた末に掴んでいたものは胸にしまっていた拳銃だった。
「じゃあ、なんで俺を殺さなかった」
無意識のうちに拳銃を構え佐田に向ける。
「いろいろあったんだよ」と佐田は勿体つけるような言い方をする。その顔は拳銃を向けられていることなど微塵も感じさせないほどの余裕があった。
「言え!」甲田が引き金に力を入れようとした時だった。
「甲田さん! 後ろ!」と神田美咲の悲鳴に近い声が聞こえるのと同時に強い衝撃を頭部に感じる。
気がつくと甲田は倉庫の床に倒れていた。鈍い痛みが頭にある。先ほどまで水風船のように柔らかく歪んでいた床は元の硬さに戻っていた。ひんやりとした床の感覚が徐々に手の先から薄れていく。神田美咲が何度も名前を呼んでいるが反応する事ができない。いつの間にかすぐ前に立っている佐田の手には拳銃があった。それが甲田の拳銃なのか、もともとの佐田のものなのかももう甲田は分からない。
薄れゆく意識の中、神田美咲とクロの顔が頭に浮かんでいた。
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