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12《ローガン視点》
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熱のない瞳で、アリサに完全な別れを告げられた。
それまでの「嫌だ」「行かない」と駄々を捏ねていたのが可愛いと思えるくらい、取り付く島のない拒絶。
本格的に不味い。
今、無理やり拐ったとしても、俺は彼女に捨てられる未来しか見えない。
閉じ込めても同じだ。きっと心底嫌われて結果俺は死ぬ。
何がいけなかったんだ?
どうすればいい?
店を追い出され宿に戻ってからも、ずっと考えているがわからない。わからないまま時間だけが過ぎていき、気持ちばかりが焦って何も考えられない。
こうしている今もアリサの気持ちは離れていっているかもしれないのに。
「クソ……ッ」
「あー! ちょっとー! キースが頭抱えてるんだけど! それはそれで予想通りすぎて面白くないんだよなぁ」
……だから、バーン! と大袈裟に部屋の扉の音を立てて突然マリオが現れたとしても、俺は今それどころじゃないんだ。帰れ。
「あっ、無視するの? 無視すると俺、余計しつこくなるの知ってるよね? いいの?」
「……なんでお前がここに居るんだ」
「やっと聞いてくれた! 俺も休暇だよ、休暇! あっ、護衛もちゃんと居るから安心してね。キースの所にいる分には護衛なんていらないから外に置いてきちゃってるだけだから!」
「そんな心配はしていない。むしろ襲撃されろと思っている」
「はい、王族に対して不敬ー! 逮捕ー!」
「頼むから帰ってくれ……」
うんざりだ。
コイツに構う心の余裕がない。
「俺は、キースはフラれると思ってたよ! むしろとっくにフラれてたのによくここまで来たもんだ。君はストーカー界の英雄か」
「……」
「で、どうだったのワカメの彼女は。怒ってた? 泣いてた? 蔑んでた?」
アリサは、怒っていたし、泣いてもいた。
最終的には、ゴミを見る目で蔑まれた。
それを伝えれば、マリオは嬉々として喜んだ。
悪魔か。
「いいねいいねー。あまりにも思った通りで最高だよ! 君は本当に期待を裏切らない馬鹿だねー」
「あ?」
「親父を脅してまで休みを取って、俺が止めるのも聞かないで、ここまで何しに来たの? 観光? もう名物の干物は食べた?」
「アリサを連れ戻しに来たに決まっているだろうが」
「ならどうしてちゃんとそれを伝えないのか、俺には理解できないんだよねー。我が国の英雄はやっぱり脳筋バカなのかな?」
部屋の中央にあるソファに悠々と身を預けていたマリオが、わざとらしくため息を吐いた。
そして徐ろに自身の魔力で指先から小さな炎を出すと、持参してきた干物を室内で軽く炙り始め、香ばしい香りが辺りに漂ってくる。
……出来れば、自分の部屋でやってくれないか。
「……俺は、一緒に王都へ行こうと伝えている」
「だーかーらぁ、そう言うことじゃないんだってば。アッツ‼︎ 火傷した‼︎」
「愛しているとも言った」
「それは別に聞きたくなかった。その無駄に綺麗な顔で俺に言わないで。好きになっちゃったらどうすんのさ」
「じゃあ、何が足りないと言うんだ!」
苛ついて、つい声を荒げれば「ほら、すぐ怒るーやだこの人ー」と、干物をかじりながら神経を逆撫してくる。
これで第一王子であり王太子だなんて、俺の職場はお先真っ暗だ。
「大体2年も放っておいて、今更なんだよねー」
「誰のせいだ、誰の」
「なんでも仕事のせいにすればいいと思ってるのって最低ー」
「ぐぅ……っ!」
「キースはその空白の時間に彼女が何を思っていたのか、ちゃんと知ってるの?」
アリサが、思っていた事……?
「君の元へ来なかった理由は? どうしてすれ違ってしまったのかはわかったの? まさかそれで彼女を責めたりしてないよね? 愛してるの押し売りなんてしてないよね?」
「……」
「え、したの? うそっ、まじで? うわぁ、最低ジャーン! そんな男、女子はみんな大嫌いだわー!」
「……こ……」
「こ? なに、言い訳でもある? いいよ、言ってみて!」
「………子供が、居た」
「……ん? ………誰の?」
「俺のだ」
マリオの手から、干物が床に落ちた。
「……………うわ、引いた」
「………」
「よくそれで愛してるなんて言えたな。英雄じゃなかったら死ねばいいのに」
「………」
「じゃあ一応、念のために聞くけど……まさかその子供は黒狼じゃないだろうね?」
「黒狼だ」
「………」
「黒」
「いや聞こえてるし、普通それを先に言わない⁉︎ 黒狼が生まれていただなんて何処からも報告に上がってないんだけど! ………ねぇ。どうなってんの?」
マリオが部屋の何処かに潜んでいるであろう王家の影に凄むと、天井裏の気配が震えた。
「隠してたなら謀反で処刑。知らなかったなら小さな町ひとつ把握できない無能に国民の血税を払う価値なんてないよ。情報班は全員クビだね」
「やめろ」
「キースにも言ってるんだよ。子供が他の国に持って行かれたらどうしてくれんのさ。ウダウダしてないで早くなんとかして来なよ。呑気にフラれてる場合じゃないってわかんないの?……あーダメだ、恋愛方面ポンコツのキースじゃ頼りにならない。これまで顔面に胡座をかいてきた君のツケを俺が払うなんて冗談じゃないからね。これから王に伝達して国家を挙げて子供を回収する」
急に顔つきを支配者のそれに変えて、潜んでいた影にすぐさま指示を出そうとするのを止めた。
「なに? 邪魔するなら拘束するよ」
いつも緩りと柔らかく細められ心が読めない瞳が、今は意思を持って射るように俺を見据えている。
英雄だろうと王家の駒に変わりはない。
逆らうなら排除する。
これがマリオの本性だ。
いつものふざけたお調子者は、非道な本質を隠すためにある。
「やれるもんならやってみろ。まあ、出来ないだろうけどな」
「……王都に戻れば騎士100人がかりでなんとか」
「無理だろ」
「だよねぇ……」
俺への拘束を呆気なく諦めて、ヘラリといつもの笑顔を貼りつけ直すと「じゃあやっぱり自分でなんとかしてきてよ」と、落ちていた干物を怠そうに拾い上げて再び魔力の炎で炙り直し始めた。
切り替えが早くて何よりだ。
しかし、王族が落ちたやつ、食うのか。
「キースは気楽だよね、何かあれば怒られるのは俺なのにさ。英雄はクビに出来ないし、懲罰も物理的に不可能だからってちょっとは自重してくれないと繊細な俺の胃に穴が空いちゃうんだけど。あー久しぶりにイライラする! 腹いせに俺の目についた奴は全員丸刈りにして誠意見せてもらおうかな?」
マリオの呟きに天井裏と外の扉口付近の数体の気配が揺れた。
「だからやめろ。そいつらは悪くない。俺が王都に戻る前に、アリサに関する情報は町を越えて持ち出す事ができないように術を組んでいる」
「……は? やっぱりお前かよ‼︎ みんなパワハラしてごめーん‼︎ 一番近くに犯人いたわ‼︎」
「そうでもしないとお前がアリサを調べるだろうが!」
「別にスリーサイズ聞くわけじゃないんだからいーじゃん! うちの可愛いキースちゃんに変な虫が付いたら困るでしょお⁉︎ 簡単に王家の敷居は跨がせないわよ!」
「だから嫌なんだ!」
俺の知らないところでコイツにアリサを調べられるのは面白くない。
しかし遮断していたのは情報だけで、こっちに来てしまえば直接会う事は可能だ。まさか一国の王太子がわざわざ出向いてくるとは思わなかったが、俺はマリオを甘く見ていた。
……いっそアリサの姿を他人からは見えなくしてしまいたい。
「はぁあ、どおりでワカメちゃんの情報があやふやにしか手に入らないと思ってたんだよねぇ。もうこれは直接拝むしかないと思って、こっちから出向いて正解だったわけだ!」
「……普通、王太子は部下の冷やかしの為だけに王都を離れないだろう。俺への嫌がらせにそんなに掛けてどうするんだ」
「もう生きがいだよね」
「どうかしてるぞ」
「でも、確かにキースの失恋劇場を観て笑おうと思ってここまで来たけど、黒狼の子供がいるんじゃ話が変わってくるのは本当だからね。全然笑えないよ。どれだけ黒狼が稀少で国にとって有益か、君ならわかるでしょう?」
「こき使われるからな」
「はい、文句言わない。それに見合う対価はちゃんと払ってまーす」
「子供はまだ何の力もない。魔力さえ感じない。仕事は無理だ」
「やだなぁ、さすがに幼児を働かせたりしないってー。どんな鬼畜なのそれー。国としては早めに保護して取り込みたいだけっ! ……だからぁ、本当はもっとゴタゴタしてアワアワする脳筋キースが見たいけど、今回はもう特別にアドバイスしちゃおうかなぁって思ってさぁ」
マリオは干物を歯でちぎりながら、全くやる気を感じさせない口調でそう言った。
俺がフラれるのを楽しみにきたくらいの性格の奴だから乗り気じゃないのはわかるが、もう少し大人としてその態度は何とかならないのかとも思う。
それでもアリサを失いたくない俺は、藁にも縋る思いでマリオの言葉に耳を傾ける事にした。
「どうすればいいかなんて、大体キースが全部悪いんだからさ、言い訳なんてせずに土下座でも何でもして来なよ」
「……」
思った以上に雑なアドバイスが来た。
思わず眉を寄せると、マリオは緩りと目を細めた。
「……簡単な事だと思った? でもこれは、きっと君ができていない事だ。
例え踏まれても蹴られても受け入れて、彼女が今思う事は何なのかを丁寧に問い続けるんだよ。相手が本当に求めているものは何かを知り、その中でまだ君に対して求められるものがあるのなら、それを叶えてあげればいい。
……もし、結果的にキースじゃどうにもならなければ、やっぱり国として動くからよく覚えておいて」
『それが嫌なら頑張ってねぇ』と、サラリとした脅しをいい笑顔で付け加えられた。
……絶対に、コイツをアリサと子供達に近づけさせたくない。
それまでの「嫌だ」「行かない」と駄々を捏ねていたのが可愛いと思えるくらい、取り付く島のない拒絶。
本格的に不味い。
今、無理やり拐ったとしても、俺は彼女に捨てられる未来しか見えない。
閉じ込めても同じだ。きっと心底嫌われて結果俺は死ぬ。
何がいけなかったんだ?
どうすればいい?
店を追い出され宿に戻ってからも、ずっと考えているがわからない。わからないまま時間だけが過ぎていき、気持ちばかりが焦って何も考えられない。
こうしている今もアリサの気持ちは離れていっているかもしれないのに。
「クソ……ッ」
「あー! ちょっとー! キースが頭抱えてるんだけど! それはそれで予想通りすぎて面白くないんだよなぁ」
……だから、バーン! と大袈裟に部屋の扉の音を立てて突然マリオが現れたとしても、俺は今それどころじゃないんだ。帰れ。
「あっ、無視するの? 無視すると俺、余計しつこくなるの知ってるよね? いいの?」
「……なんでお前がここに居るんだ」
「やっと聞いてくれた! 俺も休暇だよ、休暇! あっ、護衛もちゃんと居るから安心してね。キースの所にいる分には護衛なんていらないから外に置いてきちゃってるだけだから!」
「そんな心配はしていない。むしろ襲撃されろと思っている」
「はい、王族に対して不敬ー! 逮捕ー!」
「頼むから帰ってくれ……」
うんざりだ。
コイツに構う心の余裕がない。
「俺は、キースはフラれると思ってたよ! むしろとっくにフラれてたのによくここまで来たもんだ。君はストーカー界の英雄か」
「……」
「で、どうだったのワカメの彼女は。怒ってた? 泣いてた? 蔑んでた?」
アリサは、怒っていたし、泣いてもいた。
最終的には、ゴミを見る目で蔑まれた。
それを伝えれば、マリオは嬉々として喜んだ。
悪魔か。
「いいねいいねー。あまりにも思った通りで最高だよ! 君は本当に期待を裏切らない馬鹿だねー」
「あ?」
「親父を脅してまで休みを取って、俺が止めるのも聞かないで、ここまで何しに来たの? 観光? もう名物の干物は食べた?」
「アリサを連れ戻しに来たに決まっているだろうが」
「ならどうしてちゃんとそれを伝えないのか、俺には理解できないんだよねー。我が国の英雄はやっぱり脳筋バカなのかな?」
部屋の中央にあるソファに悠々と身を預けていたマリオが、わざとらしくため息を吐いた。
そして徐ろに自身の魔力で指先から小さな炎を出すと、持参してきた干物を室内で軽く炙り始め、香ばしい香りが辺りに漂ってくる。
……出来れば、自分の部屋でやってくれないか。
「……俺は、一緒に王都へ行こうと伝えている」
「だーかーらぁ、そう言うことじゃないんだってば。アッツ‼︎ 火傷した‼︎」
「愛しているとも言った」
「それは別に聞きたくなかった。その無駄に綺麗な顔で俺に言わないで。好きになっちゃったらどうすんのさ」
「じゃあ、何が足りないと言うんだ!」
苛ついて、つい声を荒げれば「ほら、すぐ怒るーやだこの人ー」と、干物をかじりながら神経を逆撫してくる。
これで第一王子であり王太子だなんて、俺の職場はお先真っ暗だ。
「大体2年も放っておいて、今更なんだよねー」
「誰のせいだ、誰の」
「なんでも仕事のせいにすればいいと思ってるのって最低ー」
「ぐぅ……っ!」
「キースはその空白の時間に彼女が何を思っていたのか、ちゃんと知ってるの?」
アリサが、思っていた事……?
「君の元へ来なかった理由は? どうしてすれ違ってしまったのかはわかったの? まさかそれで彼女を責めたりしてないよね? 愛してるの押し売りなんてしてないよね?」
「……」
「え、したの? うそっ、まじで? うわぁ、最低ジャーン! そんな男、女子はみんな大嫌いだわー!」
「……こ……」
「こ? なに、言い訳でもある? いいよ、言ってみて!」
「………子供が、居た」
「……ん? ………誰の?」
「俺のだ」
マリオの手から、干物が床に落ちた。
「……………うわ、引いた」
「………」
「よくそれで愛してるなんて言えたな。英雄じゃなかったら死ねばいいのに」
「………」
「じゃあ一応、念のために聞くけど……まさかその子供は黒狼じゃないだろうね?」
「黒狼だ」
「………」
「黒」
「いや聞こえてるし、普通それを先に言わない⁉︎ 黒狼が生まれていただなんて何処からも報告に上がってないんだけど! ………ねぇ。どうなってんの?」
マリオが部屋の何処かに潜んでいるであろう王家の影に凄むと、天井裏の気配が震えた。
「隠してたなら謀反で処刑。知らなかったなら小さな町ひとつ把握できない無能に国民の血税を払う価値なんてないよ。情報班は全員クビだね」
「やめろ」
「キースにも言ってるんだよ。子供が他の国に持って行かれたらどうしてくれんのさ。ウダウダしてないで早くなんとかして来なよ。呑気にフラれてる場合じゃないってわかんないの?……あーダメだ、恋愛方面ポンコツのキースじゃ頼りにならない。これまで顔面に胡座をかいてきた君のツケを俺が払うなんて冗談じゃないからね。これから王に伝達して国家を挙げて子供を回収する」
急に顔つきを支配者のそれに変えて、潜んでいた影にすぐさま指示を出そうとするのを止めた。
「なに? 邪魔するなら拘束するよ」
いつも緩りと柔らかく細められ心が読めない瞳が、今は意思を持って射るように俺を見据えている。
英雄だろうと王家の駒に変わりはない。
逆らうなら排除する。
これがマリオの本性だ。
いつものふざけたお調子者は、非道な本質を隠すためにある。
「やれるもんならやってみろ。まあ、出来ないだろうけどな」
「……王都に戻れば騎士100人がかりでなんとか」
「無理だろ」
「だよねぇ……」
俺への拘束を呆気なく諦めて、ヘラリといつもの笑顔を貼りつけ直すと「じゃあやっぱり自分でなんとかしてきてよ」と、落ちていた干物を怠そうに拾い上げて再び魔力の炎で炙り直し始めた。
切り替えが早くて何よりだ。
しかし、王族が落ちたやつ、食うのか。
「キースは気楽だよね、何かあれば怒られるのは俺なのにさ。英雄はクビに出来ないし、懲罰も物理的に不可能だからってちょっとは自重してくれないと繊細な俺の胃に穴が空いちゃうんだけど。あー久しぶりにイライラする! 腹いせに俺の目についた奴は全員丸刈りにして誠意見せてもらおうかな?」
マリオの呟きに天井裏と外の扉口付近の数体の気配が揺れた。
「だからやめろ。そいつらは悪くない。俺が王都に戻る前に、アリサに関する情報は町を越えて持ち出す事ができないように術を組んでいる」
「……は? やっぱりお前かよ‼︎ みんなパワハラしてごめーん‼︎ 一番近くに犯人いたわ‼︎」
「そうでもしないとお前がアリサを調べるだろうが!」
「別にスリーサイズ聞くわけじゃないんだからいーじゃん! うちの可愛いキースちゃんに変な虫が付いたら困るでしょお⁉︎ 簡単に王家の敷居は跨がせないわよ!」
「だから嫌なんだ!」
俺の知らないところでコイツにアリサを調べられるのは面白くない。
しかし遮断していたのは情報だけで、こっちに来てしまえば直接会う事は可能だ。まさか一国の王太子がわざわざ出向いてくるとは思わなかったが、俺はマリオを甘く見ていた。
……いっそアリサの姿を他人からは見えなくしてしまいたい。
「はぁあ、どおりでワカメちゃんの情報があやふやにしか手に入らないと思ってたんだよねぇ。もうこれは直接拝むしかないと思って、こっちから出向いて正解だったわけだ!」
「……普通、王太子は部下の冷やかしの為だけに王都を離れないだろう。俺への嫌がらせにそんなに掛けてどうするんだ」
「もう生きがいだよね」
「どうかしてるぞ」
「でも、確かにキースの失恋劇場を観て笑おうと思ってここまで来たけど、黒狼の子供がいるんじゃ話が変わってくるのは本当だからね。全然笑えないよ。どれだけ黒狼が稀少で国にとって有益か、君ならわかるでしょう?」
「こき使われるからな」
「はい、文句言わない。それに見合う対価はちゃんと払ってまーす」
「子供はまだ何の力もない。魔力さえ感じない。仕事は無理だ」
「やだなぁ、さすがに幼児を働かせたりしないってー。どんな鬼畜なのそれー。国としては早めに保護して取り込みたいだけっ! ……だからぁ、本当はもっとゴタゴタしてアワアワする脳筋キースが見たいけど、今回はもう特別にアドバイスしちゃおうかなぁって思ってさぁ」
マリオは干物を歯でちぎりながら、全くやる気を感じさせない口調でそう言った。
俺がフラれるのを楽しみにきたくらいの性格の奴だから乗り気じゃないのはわかるが、もう少し大人としてその態度は何とかならないのかとも思う。
それでもアリサを失いたくない俺は、藁にも縋る思いでマリオの言葉に耳を傾ける事にした。
「どうすればいいかなんて、大体キースが全部悪いんだからさ、言い訳なんてせずに土下座でも何でもして来なよ」
「……」
思った以上に雑なアドバイスが来た。
思わず眉を寄せると、マリオは緩りと目を細めた。
「……簡単な事だと思った? でもこれは、きっと君ができていない事だ。
例え踏まれても蹴られても受け入れて、彼女が今思う事は何なのかを丁寧に問い続けるんだよ。相手が本当に求めているものは何かを知り、その中でまだ君に対して求められるものがあるのなら、それを叶えてあげればいい。
……もし、結果的にキースじゃどうにもならなければ、やっぱり国として動くからよく覚えておいて」
『それが嫌なら頑張ってねぇ』と、サラリとした脅しをいい笑顔で付け加えられた。
……絶対に、コイツをアリサと子供達に近づけさせたくない。
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