ホーク・フリート

海飛

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第一章 開戦編

#10 帝国日本海軍壊滅! 訪れる静寂

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敵艦隊の結界を破壊したはぎかぜ及びかざぐもは見張りを厳としながら、日本への帰投するひようとあかつきの元へ急いだ。そこで、ある事が判明する。

━はぎかぜ艦内━

  「一体どういうことですか。なぜ、ひようとあかつきは日本への帰投進路を走らず全く逆の進路を走っているのですか?」
  「分からん。松浦さんの考えることだ。何か目的があるのだろう」

なんと、ひようとあかつきは日本への帰投進路ではない逆の進路を走っていたのだ。はぎかぜ及びかざぐもの両艦長は困惑していた。報告された進路と違うことに。松浦が考えている目的に。

  「艦長。レーダーにもう1つの艦隊を捕捉。数は3隻。おそらく、援軍ではないかと」
  「あぁ。その通りだ。彼らは横須賀所属の潜水艦隊 第25潜水艦隊のきりゆき、うみゆき、しきなみだ」

松浦は密かに横須賀の作戦本部に連絡し、潜水艦3隻を出すように命じていたのだ。

 「もしあの結界が海上だけならと思って呼んだのだ。もし、海中にまで広がっていなければ、海中を主たる任務海域である潜水艦ならばと思ってな」
  「なるほど。いくら奴らが優れた艦隊であっても、潜水艦には対抗出来ない。見つけることすら出来んというわけか。さすがだな」

松浦は結界が海中にまで達していないという推測を立てそこに潜水艦を進出させ、魚雷攻撃を行うように命じた。その推測は見事に的中した。松浦達の知らない所で潜水艦 きりゆき率いる第25潜水艦隊は敵艦隊の真下に到達し、魚雷攻撃を実施。さがみ以外の艦艇を沈めていたのだった。

 「艦長…我が艦隊、本艦のみとなりました…」
  「どういう事だ!!なぜだ!!我々の作戦に狂いはないはず!」
  「艦長!レーダーに潜水艦3隻を捕捉!海上自衛隊所属です」
  「奴らめ…この結界の裏をかいたか…さすがは松浦。我が同期。魚雷はまだ残っているか?」
  「はい!まだ1発も撃っていませんので」
  「了解。潜水艦共を海の藻屑にしてやれ。さがみ1隻でも戦えるということを証明してやる。そして、醜く住みにくい日本を変える」
  「了解!直ちに魚雷攻撃を開始します」

谷口はきりゆき、うみゆき、しきなみを沈めるよう魚雷攻撃を命じた。そして、すぐにさがみの魚雷員は魚雷攻撃の準備を始めた。しかし、谷口は潜水艦を沈めることしか考えていなかったため、もう1つの脅威が迫っていることに気が付かなかった。

  「松浦。この後はどうする」
  「まぁ、見ていれば分かる。本艦から何機の戦闘機が発艦した?」
  「10機です」
  「なるほど。これを待っていたのだな」

副長の永富はすぐに松浦の言っていたことが分かった。ひようから発艦した10機の戦闘機は結界によって姿を消した敵艦隊を見失ったあと、松浦に連絡をし松浦から待機命令が出されていた。潜水艦が敵艦隊のほとんどを沈め、はぎかぜ及びかざぐもが結界を破るまではと。そして、松浦や永富、その他の乗員が外に目をやると第25潜水艦隊の後方から10機の戦闘機が飛んできた。ひようから発艦した戦闘機だ。そして、10機は一斉に攻撃態勢に入り、さがみに向かっていく。

  「こちら、2番機。敵艦を視認」
  「こちら、3番機。視認」
  「こちら、4番機も敵艦を視認」

続いて5番機以降も続けて報告した。そして、編隊の指揮機である1番機が一斉に攻撃の指示を出した。

  「こちら、1番機。全機に告ぐ。全機、攻撃始め」
  「2番機、了解」

3番機も了解とだけ報告し、全機が一斉にミサイルを発射。発射されたミサイルはさがみへ一直線に向かった。

  「艦長!敵航空機よりミサイル!その数10!!」
  「チッ!松浦のやつ…これが目的だったのか…ミサイルを全て撃ち落として、全機撃墜!1発も当てさせるな!」

  『谷口。お前の悪い所はひとつの事柄に集中しすぎる事だ』

谷口の号令でさがみはCIWSや対空ミサイルを発射。そして、さがみがひようから発艦した戦闘機と飛んでくるミサイルを迎撃している時、谷口の脳裏に永富の言葉が過ぎった。この時、谷口は戦闘機から発射されたミサイルを迎撃し、戦闘機を堕とすことしか考えていなかった。そのため、もう1つの方向から飛んでくるミサイルに気づくことは無かった。また、その他のさがみの乗員も戦闘機からのミサイル迎撃にばかり集中し、うらかぜ乗員の救助にあたっていた護衛艦 まやからのミサイルに気づかずにいた。

  「うらかぜ乗員の救助にあたっていたまやよりミサイル発射。さがみへ向かっていきます」
  「谷口。お前の悪い所はひとつの事柄に集中しすぎる事だ。そして、もう1つ。日本を変えるという大きな目標をお前一人で成し遂げようとした事だ。一人で国ひとつを変えることなど出来ん。私だってそうだ。私だって、日本を変えたいさ。そのためには、私について来てくれる部下が必要だ。私を導いてくれる上官が必要だ。そして、国を導く政治家が必要だ。谷口。お前は1人にこだわりすぎた。それがお前の敗因だ」
  「谷口。お前は確かに、学生時代は優秀な人間だった。学問でも常に1位だった。父親の偽装など必要ないくらいに。だが、お前はコネに頼ってしまった。お前には人の心は学生の時から既になかった。お前がもう少し人の心を持っていれば、お前の住む世界はもう少しマシな世界だったと思う」

松浦と永富は谷口にそう語り掛けた。聞こえるはずのない語りかけはまやから発射されたミサイルがさがみに被弾した時の爆発音でかき消された。さがみは黒煙を空高く上げ、赤い火柱を上げながら右に傾き、沈み始めた。さがみ付近の海面にはさがみの乗員がいくつか見えた。しかし、さがみが沈む際の水流によって共に海の底へ沈んで行った。

  「終わったのだな」
  「あぁ。我々が出した損害は大きいぞ」
  「分かっている。我々は人を殺したのだ。敵であれど、何百人という人間を殺した。そして、奴らはそれ以上の人間を殺した。我々に奴らを責めていい理由はどこにもない」
  「これで良かったんだな。松浦」
  「あぁ。とにかく、横須賀へ戻ろう。乗員も慣れないことばかりで疲れたであろう」
  「そうだな。この海域に展開する全艦に伝えろ。これより、横須賀へ帰投すると」
  「了解

永富の指示で1人の通信員が第25潜水艦隊、はぎかぜ、かざぐも、まや、あかつきに帰投命令を出した。それと同時に10機の戦闘機が10番機から順にひようへ着艦した。10機全てが無傷での着艦であったのは不幸中の幸いであった。こうして、ひよう以下7隻は4隻の護衛艦を喪失し、その乗員合わせて857名が戦死し、海上自衛隊創設以来初の沈没、戦死者を出してしまった。そして、谷口率いる帝国日本海軍の艦隊は6隻全てが沈没。戦死者、負傷者は不明であった。松浦は、赤く燃える海を見つめながら固く拳を握りしめていた。海はやがて、静かになり、夜空に輝く星と航行する7隻の波の音だけが聞こえていた。しかし、全ての乗員が悲しみとどこにもぶつけることの出来ない怒りで艦内は静まり返っていた。
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