それなりに怖い話。

只野誠

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なかないふうりん

なかないふうりん

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 夏が終わり取り残された風鈴がある。
 古い家の軒下に取り残されている。
 もう季節は秋だというのに、まだ取り残されている。

 だが、風鈴の美しい音色は聞こえてこない。
 風が吹いているのに、聞こえてこないのだ。

 そんな風鈴が取り残されている隣に女の家はあった。
 隣の家は古い家で、誰が住んでいるのかも、よくわかっていない。
 女が子供の頃は年老いた老婆が住んでいたが、今はよくわからない。
 というのも、女の知る限り不特定多数の人間が隣の家を出入りしているのだ。

 はじめは老婆の親族かと思っていたが、どうもそういうわけでもなさそうだ。
 家の前ですれ違う時、女は会釈するのだが、向こうは無視してくる。
 そのうち女も会釈するのをやめた。

 朝、昼と隣の家は静かで人気がない。
 だが、日が落ちてから深夜になると、仕事から帰ってくるのか、数人の人間が出入りしているのをよく見る。
 ただ、おかしなことに隣の家から明かりが漏れているところを見たことはない。
 隣は古い家なのでどこかしら明かりが漏れてもいいはずなのだが、それも見えない。

 女はどこか不気味な隣の家とあまり接点を持たないようにしていた。

 そして、女は隣の家の軒下に風鈴があることに気が付いたのだ。
 女がまだ子供の頃、老婆がよく飾っていた風鈴を覚えている。
 でも、今はその風鈴はしまわれずに秋も深まってきているというのに軒下に飾られたままだ。

 ただおかしいのは風鈴の音が聞こえてこない。
 風鈴の舌と短冊はちゃんと残っているにもかかわらず、その風鈴は音を出さないのだ。
 風がないわけではない。
 風鈴自体も揺れている。
 だが、音が鳴らない。

 隣の家はどこかおかしい、そう女が思って夕方に風鈴を見ていると、風鈴からではなくどこからともなくチリンチリンと風鈴の音色のような音が聞こえてきた。
 女がその音のほうを見ると、最近見かけなくなっていた老婆が庭の木の間から女を笑顔で見ていた。
 女が軽く会釈すると、老婆も会釈し返してくれる。
 しばらく老婆は女を笑顔で見ていたあと、深々とお辞儀をして、そのまま女の視界からゆっくりと歩いて遠ざかっていった。

 かなり長いこと老婆を見ていなかったので、もしかしたら、とそう女は思っていたが安心した。
 次の日のことだ。
 回覧板が回ってくる。
 内容は老婆のお通夜のお知らせだった。
 昨日は元気そうだったのに、女はそう思ったし、かなり急だなと思いつつも近くの公民館でお通夜をするというので、女も出席した。
 そこで聞いた話では、老婆は病気で長いこと入院していたそうだ。
 亡くなったのも一週間以上前という話だ。

 では、昨日見た老婆は誰だったのだろうか、女にはわからない。
 ついでにその間、隣の家は完全に閉め切り誰も住んでいないし、訪ねてくる人も稀だった、そういう話だった。

 女には信じられない話だったが、お通夜でお焼香を上げたその日から、隣の家に夜に誰かが出入りするようなことはなくなった。
 それだけは事実だ。





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