それなりに怖い話。

只野誠

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うま

うま

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 男は朝方、とは言ってもまだ日が登っていないような早朝に、馬のようないななきを聞くことがある。
 勿論男が住んでいる付近に馬などいない。
 けれども、それは男の住んでいる地域では当たり前のこととなっていた。

 昔、男が住んでいるこのあたりは合戦場だった、なんて話はある。
 その合戦で死んだ馬が、いなないているのではないか、そんな噂が立つほどだ。

 地鎮祭。
 建物を建てる前に、土地の神様に建物を建てる許しを得る儀式だ。

 それがちゃんとできていなかったり、そもそも地鎮祭をやってなかったりする土地では、馬のいななきが聞こえてくる、というのがこの地域の噂だ。

 ふと男はどの家が地鎮祭をやっていないのか、気になりだすことがある。
 毎朝ではないが、早朝に馬のいななきで起こされることもしばしばあるのだ。
 それで文句をいうつもりはないが、確かめておきたい、知っておきたい、そんな気持ちはあったのだ。

 ただ、それだけのために朝早起きする気にはなれなかったが。
 もし、なんかしらの機会があったら、確かめてみたいものだとは思っていた。

 とある土曜日の早朝に、その機会はやってくる。
 午前三時半ごろ、男は目を覚ましてしまい、眠れなくなったのだ。

 ベッドで横になっていてもまるで眠れないので、男は散歩にでることにした。
 その頃には四時頃にはなっていたが、まだ辺りは薄暗い。
 だが、もう夜明けが近い、そんな感じがしている。

 しばらく男が早朝の散歩をしていると、どこからともなく馬のいななきが聞こえてくる。
 男は、待ってましたとばかりに、そちらのほうへと足を向ける。
 
 そしてたどり着いたのはとあるマンションだ。
 マンションの敷地内と外部はフェンスで区切られていたが、その敷地内に確かに馬がいたのだ。

 男は本当に馬だ、と、噂は本当だったのだと、フェンス越しに馬を見る。
 黒毛の馬でかなりの大きさだ。
 牧場などで見たことがある馬そのままの大きさだ。
 だが、そこで男も奇妙なことに気づく。

 馬面という言葉は、馬のように顔が長いことからきた言葉だ。
 だが、フェンス越しに見る馬の顔は長くない。
 それどころか、顔には毛も生えていない。
 むき出しの肌であり、青白い色をしている。

 馬が男に気づき男のほうを向く。
 馬の顔があるべき場所にあったのは、人の顔だった。
 ぼさぼさの長い髪、恨みがましそうな表情、顔だけなので確信はないが、落ち武者という言葉がピッタリくるような顔が、長い馬の首の先についているのだ。

 男はそれを見た瞬間震えだし、腰を抜かしてその場に尻もちをつく。
 そんな男をあざ笑うかのように、その人面馬は、いななき声を上げて、その場からかき消えた。

 男が何とか立ち上がろうとするが、あまりにも恐怖で立ち上がれずにいると辺りが急に明るくなり、やがて日が昇り始めた。

 男はそれ以来、そのマンションに近づくこともしなくなったし、馬のいななきを聞くと震えが止まらなくなった。
 あの人面馬は男にそんな恐怖だけを植え付けていった。

 男はしばらくして自分の生まれ育った地から引っ越していった。
 あのいななきが怖くて仕方なかったからだ。




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