89 / 709
せんこうのにおい
せんこうのにおい
しおりを挟む
新しく引っ越してきた部屋はお線香の匂いがする。
目の前がお墓だからだろうと男は思っていた。
だからか家賃がとても安い。
それにしてもこの部屋の家賃は安すぎるので、また別の理由があるのかもしれない。
部屋にはお線香の匂いがする。
窓を閉めていてもお線香の匂いがする。
部屋に匂いが染みついてしまっているのだろう、そう男は思っていた。
ふとした時に香よってくる。
まるでそんな匂いを漂わせている人が歩いているかのように、ちょっとした風に乗って匂いを漂わせてくる。
三か月、男がその部屋に住んでおかしいことに気づく。
どんなに消臭しても、別の匂いを部屋に染み付かせても、お線香の匂いだけは消えることがない。
もう墓場のほうの窓はしばらくまともに開けてもいないのにだ。
男は少し自棄になる。
夏の時期になったし、墓場が近くにあるせいか、自然も多く蚊が多く湧いていた。
だから、男は蚊取り線香を部屋の中で炊いた。
どうせ元から線香の匂いが染みついているのだからと。
蚊取り線香から煙が上がり部屋を少しづつ満たしていく。
そんなに広くない部屋だ。
蚊取り線香が半分くらい燃える頃には部屋は蚊取り線香の煙で満たされていて煙すぎるくらいだ。
男もちょっと馬鹿なことをやり過ぎたか。
そんなことをちょっと思う。
その時、ふと香る。
蚊取り線香ではないお線香の匂いが。
蚊取り線香の煙で満たされているはずなのに、人ひとり分の空間が、蚊取り線香の煙をかき分けるように動き、それは蚊取り線香の前で立ち止まった。
そして、それは恐らくだけど、蚊取り線香の前に座り込んだ。
蚊取り線香の近くなのに、その人ひとり分の空間だけが、澄んだように煙を寄せ付けていない。
男は理解する。
ここには自分よりも先に住んでいた住人がいたのだと。
男はその次の日に、小さな神棚を買ってきて、毎日少しのお酒とご飯を、線香と共に供えるようにした。
それで線香の匂いが消えるわけではないが、なぜか見守られている気がするようになったという話だ。
目の前がお墓だからだろうと男は思っていた。
だからか家賃がとても安い。
それにしてもこの部屋の家賃は安すぎるので、また別の理由があるのかもしれない。
部屋にはお線香の匂いがする。
窓を閉めていてもお線香の匂いがする。
部屋に匂いが染みついてしまっているのだろう、そう男は思っていた。
ふとした時に香よってくる。
まるでそんな匂いを漂わせている人が歩いているかのように、ちょっとした風に乗って匂いを漂わせてくる。
三か月、男がその部屋に住んでおかしいことに気づく。
どんなに消臭しても、別の匂いを部屋に染み付かせても、お線香の匂いだけは消えることがない。
もう墓場のほうの窓はしばらくまともに開けてもいないのにだ。
男は少し自棄になる。
夏の時期になったし、墓場が近くにあるせいか、自然も多く蚊が多く湧いていた。
だから、男は蚊取り線香を部屋の中で炊いた。
どうせ元から線香の匂いが染みついているのだからと。
蚊取り線香から煙が上がり部屋を少しづつ満たしていく。
そんなに広くない部屋だ。
蚊取り線香が半分くらい燃える頃には部屋は蚊取り線香の煙で満たされていて煙すぎるくらいだ。
男もちょっと馬鹿なことをやり過ぎたか。
そんなことをちょっと思う。
その時、ふと香る。
蚊取り線香ではないお線香の匂いが。
蚊取り線香の煙で満たされているはずなのに、人ひとり分の空間が、蚊取り線香の煙をかき分けるように動き、それは蚊取り線香の前で立ち止まった。
そして、それは恐らくだけど、蚊取り線香の前に座り込んだ。
蚊取り線香の近くなのに、その人ひとり分の空間だけが、澄んだように煙を寄せ付けていない。
男は理解する。
ここには自分よりも先に住んでいた住人がいたのだと。
男はその次の日に、小さな神棚を買ってきて、毎日少しのお酒とご飯を、線香と共に供えるようにした。
それで線香の匂いが消えるわけではないが、なぜか見守られている気がするようになったという話だ。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)
本野汐梨 Honno Siori
ホラー
あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。
全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。
短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。
たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。
百の話を語り終えたなら
コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」
これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。
誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。
日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。
そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき——
あなたは、もう後戻りできない。
■1話完結の百物語形式
■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ
■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感
最後の一話を読んだとき、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる