それなりに怖い話。

只野誠

文字の大きさ
103 / 709
てさぐり

てさぐり

しおりを挟む
 女は真夜中に目を覚ます。
 尿意を感じて目を覚ます。

 少し悩んだ末に、女は体をベッドから起こして、目を開ける。
 真っ暗だ。

 普段なら多少は明かりがあり見えているはずなのだが、その時は本当に真っ暗だった。
 電化製品の電源のランプ、雨戸などの隙間から入るわずかながらの月明り、それすらないように感じる。

 本当に真っ暗で何も見えない。
 女は壁に手をやり手探りで壁沿いに部屋を歩いていく。

 女の記憶ではこの辺りに電気のスイッチがあるはず、その場所を壁に手を這わせて探す。
 なかなか電気のスイッチを発見できない。

 スイッチを探す範囲を広めようとしたとき、手に何かが触れる。

 それは冷たかった。氷のような冷たさだった。
 それはじめじめと湿っている。
 それは女の指が触れると少しだけ避けるように動いた。

 寝ぼけていた女の頭が一気に覚醒する。

 今手でふれたものはなに? と自問自答するが答えが出ない。

 あのように冷たくじめじめしたような物の感触を女は知らない。
 それがなんであったか、まるで見当がつかない。

 女が固まっていると、不意に顔に息がかかる。
 湿った、冷たい、そして生臭い息だ。

 それは息をひそめるように、緩やかな息遣いで、女をまるで間近で監視するような場所に存在している。
 そうでなければ、こんな緩やかな息がかかるわけがない。
 だが、暗闇のせいか何も見えない。

 女は震えだした。
 逃げ出したかったが足がすくんで動くことができない。
 女は何とか手を動かしスイッチを探るが、それを探り出すことはできない。
 
 その間にも、女の顔には生臭く湿った冷たい息が吐きかけられる。

 なにかがそばにいる。
 自分の顔のすぐ近くにいる。
 それはわかるのだが、本当に真っ暗闇でなにも見えない。
 女は焦りながらも、なんとか手探りでやっと電気のスイッチを見つけることが出来た。
 そして、スイッチを入れる。

 部屋に電気がつく。

 恐る恐る部屋の中を女が見渡すが、部屋の中には女しかいない。
 女は家の電気をなるべくつけながら、トレイへ行く。

 その日は、そのまま電気をつけたまま寝ることにした。



 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)

本野汐梨 Honno Siori
ホラー
 あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。 全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。 短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。 たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。

今日の怖い話

海藤日本
ホラー
出来るだけ毎日怖い話やゾッとする話を投稿します。 一話完結です。暇潰しにどうぞ!

奇談

hyui
ホラー
真相はわからないけれど、よく考えると怖い話…。 そんな話を、体験談も含めて気ままに投稿するホラー短編集。

処理中です...