それなりに怖い話。

只野誠

文字の大きさ
118 / 709
ひるさがり

ひるさがり

しおりを挟む
 その日の空は、雨が降る訳ではないがどんよりとした分厚い雲に覆われていた。
 昼下がりでも家が薄暗い、窓が開いているのに薄暗く、家なのになぜか不気味と、少女は考えていた。

 築何年かもわからない古い家。
 誰もいない薄暗い家はどこか不気味に少女には思えた。

 電気をつければそうでもないのだが、昼間なので電気をつけるのはおかしい気が少女にはしていた。
 外が晴れていれば、少なくとも今は十分に明るい部屋なのだから。

 けど、今日は暗い、薄暗い。
 窓からも光は入ってこない、ただ薄暗い庭が見えるだけだ。

 不気味とはいえ自分の家だ。
 少女は迷った挙句電気をつけようとする。

 電気のスイッチに手を伸ばそうとしたところで、少女の視界がさらに暗くなる。
 ただでさえ暗いのに、さらに暗くなる。

 なにかの影が少女のいる場所にかかっている。
 少女はそれが気になって振り返る。

 それは窓から覗き込んでいた。
 大きな女だった。
 大きな出窓を上から覗き込むような、そんなふうに大きな、とても大きな女が窓を覗き込んでいた。
 その女が覗き込んでいたから、部屋が影になり更に暗くなっていた。

 その女は綺麗な金の刺繍の入った黒と赤の着物を着ていた。
 その顔はどこか牛を思わせるような、そんな顔をしていた。

 大きな左右の目が別々にぐるりぐるりと動き回り、部屋の中を探っている。
 
 少女は声も出せずにその場に固まり何もできないでいた。
 ただただ息を殺して、その大きな女を見て居た。

 大きな女は少女と目が合うと、ニィ、と気味の悪い笑みを浮かべる。
 そして、窓をコンコンと叩き、アケテアケテ、と抑揚のない声で少女に伝えてきた。

 それでも少女の思考は完全に停止してしまっていたため、驚きもなにもしない。
 ただその光景を呆然と眺めていた。

 少女がまるで反応しないので、その大きな女は窓を覗き込むのをやめて、のしりのしりとゆっくり庭を、薄暗い日の当たらない庭を歩いて行った。

 しばらくして、辺りが明るくなる。
 分厚い雲が去り、日の光が照らし始める。
 少女がいる居間にも光が入る。

 そこでやっと少女は我に返る。
 呼吸を忘れていたかのように、過呼吸などどに呼吸を繰り返す。
 そして、わんわんと泣き始めた。

 少女の親が家に帰ってくるまで少女は泣き続けたという。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

神送りの夜

千石杏香
ホラー
由緒正しい神社のある港町。そこでは、海から来た神が祀られていた。神は、春分の夜に呼び寄せられ、冬至の夜に送り返された。しかしこの二つの夜、町民は決して外へ出なかった。もし外へ出たら、祟りがあるからだ。 父が亡くなったため、彼女はその町へ帰ってきた。幼い頃に、三年間だけ住んでいた町だった。記憶の中では、町には古くて大きな神社があった。しかし誰に訊いても、そんな神社などないという。 町で暮らしてゆくうち、彼女は不可解な事件に巻き込まれてゆく。

短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)

本野汐梨 Honno Siori
ホラー
 あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。 全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。 短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。 たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。

視える私と視えない君と

赤羽こうじ
ホラー
前作の海の家の事件から数週間後、叶は自室で引越しの準備を進めていた。 「そろそろ連絡ぐらいしないとな」 そう思い、仕事の依頼を受けていた陸奥方志保に連絡を入れる。 「少しは落ち着いたんで」 そう言って叶は斗弥陀《とみだ》グループが買ったいわく付きの廃病院の調査を引き受ける事となった。 しかし「俺達も同行させてもらうから」そう言って叶の調査に斗弥陀の御曹司達も加わり、廃病院の調査は肝試しのような様相を呈してくる。 廃病院の怪異を軽く考える御曹司達に頭を抱える叶だったが、廃病院の怪異は容赦なくその牙を剥く。 一方、恋人である叶から連絡が途絶えた幸太はいても立ってもいられなくなり廃病院のある京都へと向かった。 そこで幸太は陸奥方志穂と出会い、共に叶の捜索に向かう事となる。 やがて叶や幸太達は斗弥陀家で渦巻く不可解な事件へと巻き込まれていく。 前作、『夏の日の出会いと別れ』より今回は美しき霊能者、鬼龍叶を主人公に迎えた作品です。 もちろん前作未読でもお楽しみ頂けます。 ※この作品は他にエブリスタ、小説家になろう、でも公開しています。

処理中です...