それなりに怖い話。

只野誠

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ろうば

ろうば

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 男は寝苦しかった。
 たしかに熱帯夜だ。
 でも、エアコンはつけてある。

 ちょうどよい寝心地のはずだ。
 なのに、どうにも寝苦しく、どうにも寝付けない。

 暑いわけでも寒いわけでもない、なのに寝れない。
 何か気になるようなこともなく、ただただ本当に寝苦しいのだ。
 男は、意味もなく唸る。うぅーん、と唸る。
 そして、寝苦しい理由を考える。
 わからない。

 エアコンがついておらず暑苦しいのであれば、それが理由だろうが、ちゃんとエアコンはついていて快適なのだ。
 蚊などがいるわけでもない。

 なのに、寝苦しい。何もないのに、なぜだか寝苦しいのだ。

 ふと、男は臭いが気になった。
 何とも言えない、生臭い臭い。
 この臭いのせいか?
 と、男は考える。
 どうせ寝れないのであれば、起きてその臭いの元をどうにかしよう、そう考えて目を開けた。

 その瞬間、男はゾッとする。

 老婆だ。
 老婆が男を覗き込んでいたのだ。
 男からは目の部分が暗くなり、まるで目の部分に闇でもあるかのような、老婆が動かずに覗き込んでいる。

 男が老婆と目が合う。
 いや、老婆の目は依然として闇であり影であり、それを確認できたわけではない。
 けれども、確かに男は目が合った。

 その瞬間、男の体が震えだす。
 寒いからではない。
 ブルブルと震えだす。
 しいて言えば恐怖からだろうか?

 余りにも震えて体を動かすことができないほどだ。
 これも一種の金縛りなのだろうか。
 とにかく男は体を動かすことができなかった。

 男を覗き込んでいるいる老婆は、口をもごもごと動かしている。
 なにかを咀嚼するように。

 老婆の口から、なにかがポトリと落ちる。
 それが男の顔に落ちる。
 生暖かく生臭い。

 それで男はパニックになり叫ぶ。
 力の限り叫んだ。

 真夜中に男の絶叫が響き渡る。
 そうすると老婆は崩れるように、砂浜につくった砂山が波にさらわれて崩れ去るように、ぐにゃりと姿を崩して消え去っていった。

 そうして、やっと男は体が動くようになる。
 男はすぐに部屋の電気をつける。
 そして、顔に落とされた物を、老婆が咀嚼していた物を拭う。

 それは脚だった。
 なにかの昆虫の脚だ。
 茶色でとげとげした毛があるような、おそらくはコオロギの脚だ。
 それが半ば噛み砕かれているものが、男の頬に落ちてきていたのだ。
 男は再び絶叫した。

 それ以来、男はどんなに暑くても布団を頭からかぶって寝るようになったという。


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