それなりに怖い話。

只野誠

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おちゃ

おちゃ

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 男は在宅勤務だ。
 家で仕事をしている。
 男はお茶をよく飲む。緑茶だ。

 仕事机の横にサイドテーブルを置いて、そこに瞬間湯沸かし器と急須、湯飲みが置かれている。
 好きな時にお茶が飲めるようにだ。

 男はティーバッグも便利で悪くないと思いつつも、やはり急須で茶葉から入れたお茶が好きだった。

 その日も、お茶を淹れる。
 濃いお茶だ。
 急須で淹れるなら濃さを調節できるのも良い。
 お茶を、緑茶を飲むと心が落ち着き仕事がはかどる。

 男にとってはそれが習慣の一つであり、ルーティンという奴だった。

 お茶を淹れたばかりの湯飲みを男がとる。
 だが、湯飲みが妙に軽い。
 男が湯飲みの中を見ると、半分くらいしかお茶が入っていない。

 あれ、さっき淹れたばかりだと、と、男は不思議に思う。
 だが、実際にお茶は湯飲みの半分ほどしか入っていない。

 無意識のうちにもうこんなに飲んでしまったのか、と、男は残りを飲み干し、新しく急須からお茶を淹れる。
 湯のみになみなみと注がれたお茶を見て、男は満足して、仕事に取り掛かる。

 そして、お茶を飲もうとした時だ。
 やはり湯飲みが軽い。

 男が湯飲みを見ると、なみなみと注いだはずのお茶が半分くらいしか入っていない。

 男配分の作業部屋を見回す。
 仕事の邪魔にならないように余計なものを置いていない質素な部屋だ。

 パソコンとベッド、それくらいしかない。
 趣味の物を逆に別の部屋へと移動させたからだ。

 その部屋にいるのは男だけだ。
 他に誰もいない。

 男は少し不気味な物を感じる。
 そして、今度は湯飲みにつぎ足す様にお茶を淹れて、サイドテーブルに置く。
 そのまま、しばらく湯飲みを見る。

 そうすると、湯飲みに入れられているお茶の水面が波立ちだす。
 誰かが、目に見えない透明な誰かが、湯飲みからズズズッとお茶を吸うように、お茶が吸い上げられて消えていく。
 実際に、お茶を吸い上げる音が聞こえたわけではないのだが、男にはそのお茶を吸い上げる音が聞こえてきたような錯覚に陥る。

 その光景を見た男は、なんだこれ、と、ポツリと言葉を漏らす。

 そうすると、お茶が吸い上げられるのが終わる。
 そして、ペタペタペタと何者かが、もちろん実際に見えているわけではないのだが、床を裸足で歩いていくような音がする。
 そののち、部屋のドアが勝手に開いて閉じた。

 男はその様子を呆然と見ているしかなかった。

 それ以来、男は仕事中にお茶を飲むのをやめた。
 仕事の効率は落ちた。

 ただそれだけの話だ。




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