それなりに怖い話。

只野誠

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まぐかっぷ

まぐかっぷ

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 大きなマグカップを女は使っている。
 お茶やコーヒーを淹れてもすべて飲み切る前に冷えてしまうほど大きなマグカップをだ。
 流石に職場では使っていないが。
 なぜそんなものを? と友人に聞かれるが、女はお土産でもらったから、と答える。

 特に理由はない。
 だが、女はそのマグカップを愛用していた。
 長年愛用していたマグカップだ。ついにその取っ手部分が取れてしまう。
 もとよりかなり大きいマグカップだ。
 取っ手部分は元から使っておらず、両手で抱きかかえるようにして飲んでいたのだが、それは良いきかっかけになった。

 そろそろ別の、普通の大きさのマグカップにしてもいいだろう。
 冷めにくくなるマグカップも今は売っている。
 それにしようと、女は少しもったいない、と思いつつもその大きなマグカップをゴミ箱の傍に置いておく。

 その夜、女は夢を見る。
 何もない部屋の真ん中にマグカップが置かれていて、それを女がただ見つめるだけの夢だ。

 女はすぐにこれが夢だとわかる。
 でも、夢の中で女はマグカップから視線を外すことができない。
 まるでマグカップが捨てないで、そう言ってるかのように思えて来た。

 真夜中に女は目を覚ます。
 そして、ゴミ箱の横に置いたマグカップを机の上に移動させて置いて再び眠りにつく。
 翌日は休みだったので、瞬間接着剤を使い取っ手をつける。
 とはいえ取っ手を持てば、その大きさからなる自重から取っ手は取れてしまう。
 飾りのような物だ。

 そして、女はマグカップに語り掛ける。
 もうコップとしては使ってあげられないけど、代わりに植木鉢で勘弁してね、と。
 女は、接着剤のついでに買ってきた観葉植物をそのマグカップに埋めた。

 その夜、女はまたもや夢を見る。
 同じよう何もない部屋に、大きなマグカップと植えられた観葉植物があるだけだ。

 女はマグカップが植木鉢にされたことを怒っているのか、そう思った。
 だが、大きなマグカップからは何も伝わってこない。
 なので、女はこれで良かったと、そう思うことにした。

 その後、マグカップに植えられた観葉植物はすくすくと育っていった。
 大きなマグカップは今も女の部屋の机の上に置かれている。

 大きくて少し邪魔だが、女はその観葉植物とマグカップを見ていると、なぜだか癒されるのだ。

 ただ、それだけの話だ。





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