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りょかん
りょかん
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若い夫婦が夜遅くに、旅館に飛び込みでやって来た。
部屋は空いているが夕食の時間どころか大浴場も、もう終わっている時刻だ。
ロビーの受付にいた番頭はその事を夫婦に伝える。
若い夫婦はそれでもいいので、止まる場所を探している、と、そう訴えた。
まあ、それならと番頭も承知する。
そして、部屋へと案内する。
部屋についている風呂なら自由に使ってくれて良い、朝食は大広間まで来てください、と伝え、番頭は部屋を後にする。
若い夫婦は疲れた顔でニッコリと笑って頷いた。
番頭は少し不審な物を感じつつもロビーへと戻る。
何が不振だったかって?
若い夫婦は両名とも手に持つ一つ持っていなかったのだ。
前もって企画していた旅行ではないのかもしれないし、だからこそ、こんな夜中に飛び込みで来たのかもしれない。
番頭はそう思うことにした。
しばらくすると、ロビーの電話が鳴る。
先ほどの若い夫婦の部屋、ではなく、その隣からだ。
激しく言い争う声が一時間くらい聞こえるので、どうにかして欲しいということだ。
番頭が急いで該当の部屋へ向かう。
若い夫婦の部屋だ。
その部屋に近づくとたしかに、争うような声が聞こえて来る。
ただ少しおかしい。
夫婦で言い争っているわけではないようだ。
別の何かに向かい罵詈雑言を言い続けているように番頭には思えた。
それに二人の声ではなく、もっと多い人数に思える。
物取りの類か? と、番頭は焦ったが、電話では一時間も前から聞こえて来るという話だ。
そんなこともないのだろう。
どちらにしろ、かなりの大声で大人数だ。
周りの客にも迷惑だ。
やめてもらわないと旅館としても困る。
番頭は部屋の戸をノックする。
そうすると、罵詈雑言がぴたりと止まる。
しばらくして、若い夫婦の妻の方が出て来る。
番頭はクレームが入ったことを伝えると、妻は少し困った顔をする。
そうすると、奥から夫が妻を呼ぶ声がする。
いかなくては、と妻は戸を開けたまま部屋へ戻っていく。
途端に何かを罵倒する声が再び聞こえて来る。
番頭は困った顔をして、部屋の中に入っていく。
まったくもう真夜中というのに何をしているんだ、そう思いながら。
だが、部屋の中を見た番頭は目を点にする。
そこには番頭を除いて四人の人間がいた。
若い夫婦。
夫が二人、妻が二人。
同じ顔の人間が、互いに言い争っているのだ。
番頭は固まる。
似ているとかそういうレベルではない。
本当に瓜二つなのだ。
とりあえず番頭は夫婦と夫婦の間に入り、これはどういうことですか? お二人様のはずですよね? と声をかける。
そうすると、あっちが偽物だ、こっちが偽物だ、と再び言い争いが始まる。
番頭は真夜中で他のお客様にも迷惑だから、と四人を従業人室に連れて行く。
そして、他の従業員と共に話を聞く。
同姓同名の二組の夫婦だ。
出身地どころか住所も一緒だ。
だが、番頭が案内したのは一組だけだ。
それしかわからない。
従業員の誰かがドッペルゲンガーみたいだな、そう言った。
違う従業員がスマホに電話してみたら? と提案する。
結果、同時に夫のスマホが鳴り二人が同時に出た。
従業員がかけた電話からは二重に声が聞こえて来るだけだった。
そうこうしていると、この旅館の女将さんが起きて来る。
真夜中に何を騒いでるのかと。
そして、現場を見てすぐに煙草に火をつけて、片方の夫婦に向かい煙を吹き替える。
煙を吹きかけられた夫婦は、文字通り煙のように消えていった。
番頭が何が起きたのかと、そう聞くと、女将さんは狸の仕業だね、と笑っていった。
そして、もう一方の夫婦にも、煙草の煙を吹きかける。
そうすると、そちらの夫婦も煙のように消えていった。
番頭は呆気に取られた顔をする。
そして、女将さんは番頭にまだまだ修行が足らないね、と声をかけた。
部屋は空いているが夕食の時間どころか大浴場も、もう終わっている時刻だ。
ロビーの受付にいた番頭はその事を夫婦に伝える。
若い夫婦はそれでもいいので、止まる場所を探している、と、そう訴えた。
まあ、それならと番頭も承知する。
そして、部屋へと案内する。
部屋についている風呂なら自由に使ってくれて良い、朝食は大広間まで来てください、と伝え、番頭は部屋を後にする。
若い夫婦は疲れた顔でニッコリと笑って頷いた。
番頭は少し不審な物を感じつつもロビーへと戻る。
何が不振だったかって?
若い夫婦は両名とも手に持つ一つ持っていなかったのだ。
前もって企画していた旅行ではないのかもしれないし、だからこそ、こんな夜中に飛び込みで来たのかもしれない。
番頭はそう思うことにした。
しばらくすると、ロビーの電話が鳴る。
先ほどの若い夫婦の部屋、ではなく、その隣からだ。
激しく言い争う声が一時間くらい聞こえるので、どうにかして欲しいということだ。
番頭が急いで該当の部屋へ向かう。
若い夫婦の部屋だ。
その部屋に近づくとたしかに、争うような声が聞こえて来る。
ただ少しおかしい。
夫婦で言い争っているわけではないようだ。
別の何かに向かい罵詈雑言を言い続けているように番頭には思えた。
それに二人の声ではなく、もっと多い人数に思える。
物取りの類か? と、番頭は焦ったが、電話では一時間も前から聞こえて来るという話だ。
そんなこともないのだろう。
どちらにしろ、かなりの大声で大人数だ。
周りの客にも迷惑だ。
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番頭は部屋の戸をノックする。
そうすると、罵詈雑言がぴたりと止まる。
しばらくして、若い夫婦の妻の方が出て来る。
番頭はクレームが入ったことを伝えると、妻は少し困った顔をする。
そうすると、奥から夫が妻を呼ぶ声がする。
いかなくては、と妻は戸を開けたまま部屋へ戻っていく。
途端に何かを罵倒する声が再び聞こえて来る。
番頭は困った顔をして、部屋の中に入っていく。
まったくもう真夜中というのに何をしているんだ、そう思いながら。
だが、部屋の中を見た番頭は目を点にする。
そこには番頭を除いて四人の人間がいた。
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同じ顔の人間が、互いに言い争っているのだ。
番頭は固まる。
似ているとかそういうレベルではない。
本当に瓜二つなのだ。
とりあえず番頭は夫婦と夫婦の間に入り、これはどういうことですか? お二人様のはずですよね? と声をかける。
そうすると、あっちが偽物だ、こっちが偽物だ、と再び言い争いが始まる。
番頭は真夜中で他のお客様にも迷惑だから、と四人を従業人室に連れて行く。
そして、他の従業員と共に話を聞く。
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出身地どころか住所も一緒だ。
だが、番頭が案内したのは一組だけだ。
それしかわからない。
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違う従業員がスマホに電話してみたら? と提案する。
結果、同時に夫のスマホが鳴り二人が同時に出た。
従業員がかけた電話からは二重に声が聞こえて来るだけだった。
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番頭が何が起きたのかと、そう聞くと、女将さんは狸の仕業だね、と笑っていった。
そして、もう一方の夫婦にも、煙草の煙を吹きかける。
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