それなりに怖い話。

只野誠

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ごうう

ごうう

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 激しい雨が降る。
 少女が家に着いたときには全身びしょ濡れだった。
 シャワーを浴び、部屋着へと着替えた少女はリビングのソファーに座り、窓の外を見る。

 本当に凄い雨だ。
 まさに土砂降りだ。
 ベランダにも雨が撃ち込み、滅多につくことのないリビングの窓ガラスに雨粒がいくつも付いている。

 少女のいる場所はマンションの三階だ。
 窓の外に見えるのは、あまり変わり映えしない景色と空くらいの物のはずだ

 その窓の外の景色が、いや、景色は変わらない。
 そこに写り込んでいるものが変わったのだ。

 壺だ。

 一抱えもある大きな壺がベランダの策を超えて、少女の住む家のベランダに入り込んできたのだ。
 少女は何も理解できずに固まる。
 理解できないことに脳が追い付かなかったのだ。
 それも当たり前だ。
 壺が三階のベランダの手すりを残りこえて入って来たのだから。
 人が理解できる範疇にはない。

 そして、壺の中から白い手が出て来て、壺の周りに着いた雨水を拭いそれを壺の中へと投げ込むように手を振るっている。

 少女は危ないかもしれない、と思いながらも、ベランダの窓へと近づく。
 あの壺はなんなのだろう、と言う好奇心を少女は抑えられなかったのだ。
 さらに壺の中身を覗き込もうとする。
 少女が、近づくと壺がビクッとしたように振るえて、手を壺の中へと急いで引っ込めた。

 少女は窓に近寄り窓越しに壺の中を覗き込む。
 そして、壺の中身を見てしまった少女は後悔する。
 
 壺の中には男がいた。
 壺の中には水が溜まっており、その中に膝を抱えた男が、壺に溜まった水の中から少女を無表情に見ていたのだ。

 少女は震えだす。
 そして、何で覗き込んでしまったのかと、後悔しだす。

 壺の中の男は壺から右手だけを、妙に長い右手だけを出して、ベランダの手すりを掴み、そして壺の中の水をこぼさないように、まるで壺も壺の中の水も、その中にいる男の重さすらないように軽々と壺を持ち上げ、ベランダの手すりを超えて少女の視界から消えていった。

 少女は恐怖よりも先に体が動く。
 やはり好奇心が勝ってしまったのだ。
 ベランダに通じる窓を開け、壺がどうなったかをベランダから乗り出して確認したのだ。

 壺は居た。
 まだベランダの手すりからぶら下がっていたのだ。
 やはり重さなどないように壺は動き、少女の眼前まで並々と水の入った壺の口を持ってくる。
 固まっている少女をよそに、壺の中の男の顔が水の中から出て来る。

 壺の中の男の顔が水の中から出た瞬間、周囲に物凄い生臭い臭いが立ち込める。
 そして、ゴボゴボと水を吐き出しながら、男は言うのだ。

 ダレニモイウナヨ。

 と。
 少女は泣きながらうなずく。
 それを見た男の顔は壺の中に戻り、今度はベランダの手すりから手を放し、地上へと落ちていった。
 その後、壺もその中の男も、地面に吸い込まれるように消えていった。

 雨はまだ激しく降り続いている。





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