それなりに怖い話。

只野誠

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ぺんきぬり

ぺんきぬり

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 物置の屋根のペンキが剥げて来たので、男は物置の屋根に乗りペンキを塗る。
 錆びているところはあるので、その部分は金ブラシで錆びを剥ぎ取り、ペンキを塗る。
 中々と手間暇かかる作業だ。
 男は年齢もあってずっと中腰での作業は腰にも来る。

 足腰が痛くなり男がふと一息ついた時だ。

 男が物置の屋根に上るために置いて置いた梯子の方から、なにやら音がする。
 誰か様子を見にでも来たのか、息子だったら作業を変わってもらおう、男がそう考えていた時だ。

 物置の屋根の上に顔を出したのは異形だった。
 はじめそれを焼けて膨らんだお餅、それがそのまま大きくなったものに見えた。
 白い風船。
 そうにも見える。
 それに墨で書いた様な顔が書かれている。

 それが覗いて来たのだ。
 
 男は驚きはしたものの、誰かの悪戯だろう、そう思った。
 まったく、と思っていると、そのお餅のような顔が話しかけて来る。
 男か女か、と言われたら野太いので男の声だろうか。
 ただ、少し間の抜けたような声で、聴いてくるのだ。

 おい、こんなところで何をしている? と。

 男はその声に驚きながら、屋根のペンキが剥げたから塗り直している。ほって置いたら錆で屋根に穴が開いてしまう、と素直に答えた。
 相手が人間でないのかもしれない。
 それに気づきながらも、相手が少し間の抜けている感じがしたので、男は素直に答えたのだ。
 そうすると、お餅のような顔は、そうか、それはすまない、続けてくれ、そう言って梯子を下りていった。
 男がすぐに梯子のところまで行くともう誰もいない。
 その代わり物置の戸の開閉音だけがした。

 ただし、物置は鍵がかかっていて開かないはずだし、鍵は家の中にあるはずだ。
 少なくとも今は開くはずがない。
 男は梯子を降り、それを確かめる。
 物置の戸は確かに閉まっている。

 男は少し考えた後、物置に変なものが住み着いていると気づく。
 だが、悪いものには思えなかったので、男はペンキ塗りを再開させた。

 一通りペンキを塗り終えた後であれは何だったのかと考える。
 が、男にはわからない。
 男はその足で神棚を買ってきて、物置に置き、毎日酒と少量の白飯を供えるようにした。
 それからその話は男の息子にも受け継がれ、男の息子も毎日酒と白米を供えている。

 その物置は、かなり古くはなったが何事もなく今も健在だ。





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