それなりに怖い話。

とおりあめ

とおりあめ

　通り雨が降る。
　激しい雨だ。
　それに合わせて、雨の中を降られながら、背の高い大きな女が外を歩いている。

　それを見た少女はすぐに家の中に逃げ込んだ。
　背の高い女を見た少女はそれがとても良くないものを見たと、そう思えてしまったからだ。
　家の中に逃げ込んだ少女は、窓からその背の高い女をこっそりと観察する。

　とても人間とは思えないほど背の高い女で、赤い傘をさしている。
　ゆっくりとした足取りではあるが、その一歩は大きく、動く速度は速そうに思える。
　そんな存在が土砂降りのような雨の中を、今でこそゲリラ豪雨と名付けられるような雨の中を歩いているのだ。

　少女はその背の高い女が自分の家の前を通り過ぎていくのを見て、ホッと安堵する。
　子供ながらに少女は、あれは本当によくない存在だと直感でそう理解していた。

　だが、それも去っていった。あれほど激しかった雨も小降りになってきた、と、少女が安心していたときだ。
　まさに刺すような視線を少女は感じる。
　慌てて少女は視線の元である窓を見ると、窓枠いっぱいに顔が覗き込んでいた。

　全体的に見れば、それは大人の女性の顔だった。
　けど、少女はそれを一つの顔だと判断できなかった。
　窓から覗き込んでいた顔は人の顔で構成されている、それらを組み合わせて作られているような、そんな顔だった。
　顔の皮膚の下に無数に人が閉じ込められ、それが透けているかのような、そんな顔なのだ。

　それらの顔一つ一つは苦悶の表情に満ちている。
　だが、全体を通して見れば、大きな顔は笑っているように見えるのだ。

　少女はそれを理解してしまった瞬間、大きな悲鳴を上げた。
　自分もアレに捕まれば取り込まれて、アレを構成する一つになるのだと、そう理解してしまったからだ。

　窓を覗き込んできた大きな女性は大きな手で窓を外そうとガタガタと揺らしながら、アケテ、アケテ、と確かに女性の声で少女に語りかけてきていた。
　少女は少しでも窓から離れようと、家の奥へと逃げていく。
　その間も窓を外そうと、ガタガタガタと大きな音を立てて大きな女は窓を揺らす。

　あまりにも大きな音に少女はもう一度窓の方を見てしまう。
　窓を抱えるように持っている手や指も、顔と同じで、薄い皮の下に幾人もの人間が詰められて、無理やりその形にしたようになっている。

　少女はあれは自分のような子供を見つけては喰らい、取り込んでいく化物だと、自分もアレの一部になるんだと、そう思い泣き叫ぶ。
　ワンワンと大声で泣く少女の泣き声に呼応するように、化物が発するアケテ、アケテ、アケテ、という声も次第に大きくヒステリックになっていく。

　少女ももう気が狂ってしまうんではないか、そう思った時だ。
　窓から大きな女が離れていく。
　口惜しそうに少女を見ながら徐々に離れていく。
　しまいには見えなくなる。

　気がつくと雨が上がっていた。
　もし、あの化物が窓を開けようとせずに、窓ガラスを割っていたと思うと少女は怖くて仕方がなかった。

　それ以来少女は雨の日は家に閉じこもるようになった。
　あの化物に見つからないように。