それなりに怖い話。

只野誠

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かいすいよく

かいすいよく

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 少女は両親と共に海へと、海水浴場へと来ていた。
 少女からすると初めての海だ。

 海の匂いに驚き、波に驚き、砂浜の熱さにも驚いた。

 わざわざ母親の実家の田舎まで来ているので人は少ない。
 海の家などの気の利いた施設もない。
 ただ、母親の実家が徒歩圏内にはある。
 海で遊んだ後は、そのまま歩いて帰ればいいだけだ。

 少女が連れてこられた場所は入江のような砂浜だ。
 波はあるが静かで海水も透き通っている。

 公衆的な海水浴場ではない。稀に魚が泳いでいるのも確認できる。
 少女は水中ゴーグルをつけて、魚を見て喜んでいる。
 こんな間近で魚を見ることなど、ましてや自分が同じ水中に居ることなど体験したことがなかったからだ。

 初めての海ということもあり、父親が少女の傍で少女を見守っている。
 母親は砂浜にビニールシートを引き、日焼け止めを塗っている。
 他には少し離れた場所に地元の子供たちが疎らにいるだけだ。
 静かで良い場所だ。

 少女は水中ゴーグルで海の中を見る。
 魚だけでなく海の底の砂も綺麗だ。
 海水の温度も冷たすぎはしない。
 なによりプールと違い、波があるので浮いているだけでも楽しい。
 少女は海に浮きながら、海の中を見ていた。
 呼吸が出来なくなったら、顔を上げ息をする。
 そして、海の中を観察する。
 そのことに夢中になっていた。

 だが、少女は海の中で目が合う。
 海の中、というのは少し違う。
 海の底、海底の砂の中。
 そこから覗き見るように、顔が、それも人間の顔だけが、砂の合間から少女を見ていたのだ。

 はじめ少女は誰かが、砂の中に隠れているのではないか、そう思っていた。

 だが、その顔は呼吸をしていない。
 ただただ、じっと砂の中から少女を見ている。

 少女は既に数回、息継ぎをしているのだが、海底の顔は未だに息継ぎをしていない。
 流石におかしい。
 少女も少しずつ怖くなる。

 少女がその顔を見るのをやめて、離れようとしたときだ。
 海底の顔の付近から手が伸びる。
 人間の手、とは少し言いづらい。

 形的には人間の手なのだが、関節がなくただまっすぐに、まるでおもちゃのマジックハンドのように、その手は少女に伸びて来たのだ。
 少女はその手に捕まれる。
 慌てて暴れるが、少女は海の中に引っ張られる。

 少女の様子がおかしい事に父親が気づき、少女を抱え上げて、海の上へと持ち上げる。
 そのまま、浜まで少女を連れて行く。

 少女を見て母親は悲鳴を上げる。
 その足にはしっかりと、手で握ったような青痣が残っていたのだ。
 少女は海の中で見たものを両親に話して泣き始める。

 両親と少女は、そのまま母親の実家に帰って行った。
 その際、母親は周囲にいた子供達にも、〇〇が出た。あんたたちも帰りなさい、と注意を促した。
 ここいらでは有名なものだったのか、それを聞いた子供達も一斉に帰り支度を始めていた。

 それから、色々とあったが、少女が母親の実家に訪れることも、その海に行くことも生涯なかった。
 いや、少女はそれ以前に、海に近づくことすらなかった。

 少女は海の者に気に入られてしまったからだ。



 
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