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竜騰がる時、戦いに赴く虎
【Proceedings.59】竜騰がる時、戦いに赴く虎.03
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「いざ、尋常に」
「勝負!」
その掛け声の後、喜寅景清は二本の神刀を持ち、ゆっくりとすり足で間合いを詰める。
天辰葵も最初から月下万象を構え迎え撃とうとする。
喜寅景清が間合いに入ったとき、あいさつ代わりにと天辰葵は神速で踏み込む。
それに合わせる様に、喜寅景清は丑久保修から召喚された神刀、剛健一實を振るう。
大太刀ほどの大きな刀ではあるが、それを喜寅景清は軽々と右手のみで振るう。
剛健一實はどの神刀よりも頑丈で、重く、大きい、またそれ故に威力も大きい。
それだけに扱える人間は少ないのだが、喜寅景清はそれを自由自在に軽々と片手で扱うことができる。
神速し終えた天辰葵に合わせる様に、的確に振り下ろされた刀を、足運びのみで華麗にかわし、天辰葵は流れるように喜寅景清の懐に入り込む。
が、それも読まれていたのか、左手にもった振れば神風を引き起こす馬乱十風を刺し込んでくる。
天辰葵は流石に足運びのみでは馬乱十風での一撃まではかわせずに、それを月下万象で受ける。
馬乱東風自体はどちらかと言えば、小振りな打刀だ。
にもかかわらず、その一撃を受けた天辰葵の腕に凄まじい圧を感じる。
元々の膂力に、天辰葵と喜寅景清の膂力には圧倒的な差がある。
喜寅景清が月下万象で受け止められた馬乱十風を無理やり薙ぎ払う。
そこから神風が起き、天辰葵が飛ばされる。
ただ、飛ばされた天辰葵も何事もなかったかのように優雅に着地して見せる。
「ふむ。それが神速と言う奴か。縮地法…… それに類する運足の類か」
噂の神速を実際に体験した喜寅景清は頷きながら確信する。
天辰葵の神速は神刀由来の力ではないと。
「縮地法ね。私もその言葉を調べたよ。私はあんまり他流派のことは知らないから知らなかったけどね。まあ、近いけど仙術とかではないし、私のはちゃんとした技術だよ。もちろん、神刀の能力でもないよ」
天辰葵はそう答えた。
天辰葵が調べた結果、丑久保修が言ってた縮地とは仙人などが使う仙術と出てきていた。
調べた結果が正しいかどうか、また別の話だが、天辰葵はそれを鼻で笑った。
これは自分が険しい訓練の末に身に着けた特殊な足運びと技術なのだ。
神刀由来の力や仙術と言ったものではない。
とはいえ、天辰葵も人間離れした技術ではあるので、それを強く否定できないのも事実だ。
ある意味魔法じみた技術であり、仙術と言われても納得してしまえるものが天辰葵にもある。
「だろうな。俺が知っている術では五~六メートルが限界だが、また違った技術なのだろうな。素晴らしい……」
喜寅景清は天辰葵を、その凄まじい技術を褒めたたえる。
「滅神流、天駆っていう特殊な技術と運足なんだけどもね。にしても戦いの時は饒舌なんだね」
褒められた天辰葵も悪い気はしない。
悪い気はしないので、最後に少しからかってやる。
「むぅ……」
と、喜寅景清は渋い顔を見せるだけだ。
その会話を聞いて戌亥道明が信じられないと言った表情を見せる。
戌亥道明は天辰葵の神速を完全に神刀由来の力だと思っていたからだ。
戌亥道明も武術をやっているからこそわかる。
天辰葵の神速は完全に人間離れしたものだということが。
だからこそ、戌亥道明も神刀由来の力だと断定していたのだが。
「あの神速が神刀由来のものではない? そんなことがあるのか……」
その驚きが尋常じゃないようで、自然とその言葉が戌亥道明の口から零れ落ちる。
「えっ! じゃあ、私にもできるんですか!? あんな素早い動きが出来たら便利ですよ!」
猫屋茜は嬉しそうにそんな感想を言うが、それはまず無理な話だ。
普通の人間があんな速度で移動すれば、体のほうがまず持たない。
幼き頃より、それこそ血反吐を吐くような特殊な訓練を重ねてきたのだろう。
それでも、にわかに信じられない話ではあるが。
「葵君は…… 未だに自身の神刀の力の影響を受けていないとでもいうのか?」
戌亥道明はもう一つのことにも驚く。
あの圧倒的な強さを見せながら、天辰葵は自身に宿る神刀の力に頼っていないという事実にだ。
「そういう事ですよね? 凄いですね、葵さん」
猫屋茜が素直に驚いているが、戌亥道明の驚きはそれどころではない。
自分に天辰葵を倒せるのか、それが難題となって重くのしかかってくるほどだ。
それでも、戌亥道明は勝たなくてはいけない。
もう一敗もすることも彼にはできない。できないのだから。
それは彼の誓いに反することだからだ。
「凄いなんてもんではないが。なら…… どんな神刀が葵君に宿っていると言うんだ」
天道白日。
すべての神刀の祖。その名が戌亥道明の頭の中に浮かぶが、それは、それだけはない。
あれは神の持つ刀だ。
天辰葵も人間離れしてはいるが、神と言うほどではない。
何より戌亥道明には、その神刀を宿す人物に心当たりがある。
「わかるときが楽しみですね!」
猫屋茜の無邪気なその言葉に、戌亥道明も同意せざる得ない。
と共に、その事実に恐怖すら感じている。
一体、これほどの、天辰葵という化け物の中に、どんな神刀が宿っているというのか。
「さて、お喋りは…… ここまでだ」
そう言って、再び喜寅景清は二本の刀を構える。
「いいよ。私も本気で行くから」
天辰葵も喜寅景清に応えるように刀を強く握り刀を構える。
少しのにらみ合いののち、先に動いたのは喜寅景清だ。
「虎襲影殺法」
喜寅景清はそう叫び天辰葵に飛び掛かる。
その姿はまさしく襲いかかる虎そのものだ。
だが、それだけではない。
飛び出した喜寅景清の影に太刀筋が巧妙に隠される。
影に隠され不可視となった刃が天辰葵に迫る。
天辰葵は大太刀の、剛健一實での一撃だけは避けたいと思っている。
月下万象で受けることもできるが、それだけで月下万象を折られかねない膂力を、先ほどの馬乱十風での薙ぎ払いを受けたときに感じているからだ。
理不尽すぎる膂力だ。
自分も大概人間離れしている自覚はあるが、この喜寅景清という男も十分に人間離れしている。
まともに打ち合いなどしていられる膂力ではない。
なので、天辰葵は神速、天駆を使って後方へと跳ぶ。
凄まじい剣圧を伴って大太刀、剛健一實が斬り上げられる。
が、それは既に天辰葵は退避した後だ。
だが、追撃とばかりに馬乱十風を、その場で天辰葵に向け何度か振るう。
馬乱十風は振るえば神風を呼ぶ神刀だ。
神風は真空の斬撃となり、後方に跳んだ天辰葵に襲いかかる。
天辰葵は真空で見えないはずの斬撃をいともたやすく月下万象で打ち払う。
それだけではない。
打ち払った後、即座に反撃に出る。
「滅神流、村雨散華」
その言葉と共に、天辰葵の姿が消える。
神速で行われるほぼ同時に放たれる三連撃。
喉、心臓、丹田を狙った人に向けて放てば、その一撃一撃が致命傷となる刹那の三連撃。
それを喜寅景清は、喉を狙った斬りつけを馬乱十風で防ぎ、心臓を狙った突きを剛健一實で防ぎ留め、丹田を狙った斬り払いを体をずらすことで、全てを防いで見せた。
村雨散華を放った後、天辰葵はそのまま喜寅景清と交差するように駆け抜け、そのまま距離を取る。
その時の天辰葵の表情は驚きを隠せていない。
「その技はもう見ている。俺には通じぬぞ」
「嘘でしょう。こんなふうに防がれたのは流石に驚きだね」
技自体を避けられる、と言うのは天辰葵も体験したことはある。
また酉水ひらりのように技自体を耐えられるという経験は、実は天辰葵にはある。
が、神速によりほぼ同時に放たれる三連撃をすべて防がれたのは初めてのことだ。
だが、驚いているだけではない、天辰葵はすでに次の技を仕掛けようとしている。
「無駄だぞ。その技も俺は既に見ている」
だが、それを喜寅景清に見抜かれる。
「凄いね、構えだけでわかっちゃうんだ。もしかして、未来とか見えてないよね?」
たしかに次に出す技、曙光残月は少し特殊な構えだ。
居合ではないのだが、居合のような構えになりがちだ。
喜寅景清が見抜けるのも分かる話だ。
だが、この技は来るとわかっていても、それこそ未来が見えない限り対処できるものでもない。
「未来どころか、俺の目には何も見えぬ。見えるものは虚ろばかり……」
そう言って、喜寅景清も備えるような構えをする。
その構えからかわすわけではなさそうだと、天辰葵にもわかる。
「盲目ってわけじゃないんだよね?」
技を見ていて、かわすのではなく受けれる気でいる喜寅景清に天辰葵は楽しくなる。
村雨散華ですら、全て防ぎ切ったのだ。
そのまま、簡単にやられるはずはないと。
「見えるが見えぬ」
天辰葵の煽り言葉に喜寅景清は真面目に答える。
自分の目はよく見える目ではあるが、節穴であると。
「ふーん、まあ、いいや。実際に未来も見えずに曙光残月がどう防がれるのか…… 私も見て見たいよ」
「愚かな。忠告はしたぞ」
と、喜寅景清は防げる気でいる。
天辰葵も自分の最速の剣に絶対の自信を持っている。
そもそも、人間が反応できる速さではないのだ。防げるわけがないと。
「滅神流、神域、曙光残月」
なぜ朝日に照れされた月が、滅神流最速の技にその名がつけられたのか。
天辰葵も知りはしない。
ただ事実として、曙光残月は最速の、速さのみを追い求めた、それこそ神の域に達する程の早さを得た斬り払いの一撃だ。
人間が、相手が人ならば、それこそ未来がわかっていなければ防ぎ様のない一撃のはずだ。
それを喜寅景清は剛健一實で受けきった。
月下万象と剛健一實が打ち合った瞬間、凄まじい衝撃波が天辰葵と喜寅景清を襲う。
喜寅景清はその場で耐えきり、天辰葵は衝撃波に乗るようにその場から離脱し、そのまま円形闘技場の床に片膝を着く。
喜寅景清は、剛健一實ではなく、馬乱十風を血でも振り払うように振り払う。
「痛てて、よくあの瞬間に斬り付けまで、できるもんだね」
まさか曙光残月を普通に受けられた上に、反撃も貰うとは思ってもみなかった。
天辰葵の顔に驚きの顔を隠せないでいる。
いつもの笑みが、余裕が、天辰葵の顔から消えている。
「流石に浅いか。実際に体験してみても、なお速い。恐ろしい技だ」
喜寅景清も右手が少し痺れているのを感じる。
早いだけでなく十分に重い一撃だ。
超神速で打ち出されるのだから当たり前といえば当たり前だが。
「それをいとも簡単に防がれたんですけどね」
精神的な負荷は天辰葵の方が大きいようだ。
最速の一撃を、二試合連続で防がれたのだから。
しかも、今度は未来を知るという能力でなく実際に刀で受けきられているのだ。
そのショックは大きい。
「葵様!」
斬られた天辰葵を心配して見守っていた申渡月子がその名を呼ぶ。
「大丈夫だよ、月子。掠っただけだし、私は勝つから……」
天辰葵はその声に応える様に立ち上がる。
━【次回議事録予告-Proceedings.60-】━━━━━━━
遊びの時間が終わる。
運命が激しく蠢動し、猛者たちの戦いが続く。
━次回、竜騰がる時、戦いに赴く虎.04━━━━━━━
「勝負!」
その掛け声の後、喜寅景清は二本の神刀を持ち、ゆっくりとすり足で間合いを詰める。
天辰葵も最初から月下万象を構え迎え撃とうとする。
喜寅景清が間合いに入ったとき、あいさつ代わりにと天辰葵は神速で踏み込む。
それに合わせる様に、喜寅景清は丑久保修から召喚された神刀、剛健一實を振るう。
大太刀ほどの大きな刀ではあるが、それを喜寅景清は軽々と右手のみで振るう。
剛健一實はどの神刀よりも頑丈で、重く、大きい、またそれ故に威力も大きい。
それだけに扱える人間は少ないのだが、喜寅景清はそれを自由自在に軽々と片手で扱うことができる。
神速し終えた天辰葵に合わせる様に、的確に振り下ろされた刀を、足運びのみで華麗にかわし、天辰葵は流れるように喜寅景清の懐に入り込む。
が、それも読まれていたのか、左手にもった振れば神風を引き起こす馬乱十風を刺し込んでくる。
天辰葵は流石に足運びのみでは馬乱十風での一撃まではかわせずに、それを月下万象で受ける。
馬乱東風自体はどちらかと言えば、小振りな打刀だ。
にもかかわらず、その一撃を受けた天辰葵の腕に凄まじい圧を感じる。
元々の膂力に、天辰葵と喜寅景清の膂力には圧倒的な差がある。
喜寅景清が月下万象で受け止められた馬乱十風を無理やり薙ぎ払う。
そこから神風が起き、天辰葵が飛ばされる。
ただ、飛ばされた天辰葵も何事もなかったかのように優雅に着地して見せる。
「ふむ。それが神速と言う奴か。縮地法…… それに類する運足の類か」
噂の神速を実際に体験した喜寅景清は頷きながら確信する。
天辰葵の神速は神刀由来の力ではないと。
「縮地法ね。私もその言葉を調べたよ。私はあんまり他流派のことは知らないから知らなかったけどね。まあ、近いけど仙術とかではないし、私のはちゃんとした技術だよ。もちろん、神刀の能力でもないよ」
天辰葵はそう答えた。
天辰葵が調べた結果、丑久保修が言ってた縮地とは仙人などが使う仙術と出てきていた。
調べた結果が正しいかどうか、また別の話だが、天辰葵はそれを鼻で笑った。
これは自分が険しい訓練の末に身に着けた特殊な足運びと技術なのだ。
神刀由来の力や仙術と言ったものではない。
とはいえ、天辰葵も人間離れした技術ではあるので、それを強く否定できないのも事実だ。
ある意味魔法じみた技術であり、仙術と言われても納得してしまえるものが天辰葵にもある。
「だろうな。俺が知っている術では五~六メートルが限界だが、また違った技術なのだろうな。素晴らしい……」
喜寅景清は天辰葵を、その凄まじい技術を褒めたたえる。
「滅神流、天駆っていう特殊な技術と運足なんだけどもね。にしても戦いの時は饒舌なんだね」
褒められた天辰葵も悪い気はしない。
悪い気はしないので、最後に少しからかってやる。
「むぅ……」
と、喜寅景清は渋い顔を見せるだけだ。
その会話を聞いて戌亥道明が信じられないと言った表情を見せる。
戌亥道明は天辰葵の神速を完全に神刀由来の力だと思っていたからだ。
戌亥道明も武術をやっているからこそわかる。
天辰葵の神速は完全に人間離れしたものだということが。
だからこそ、戌亥道明も神刀由来の力だと断定していたのだが。
「あの神速が神刀由来のものではない? そんなことがあるのか……」
その驚きが尋常じゃないようで、自然とその言葉が戌亥道明の口から零れ落ちる。
「えっ! じゃあ、私にもできるんですか!? あんな素早い動きが出来たら便利ですよ!」
猫屋茜は嬉しそうにそんな感想を言うが、それはまず無理な話だ。
普通の人間があんな速度で移動すれば、体のほうがまず持たない。
幼き頃より、それこそ血反吐を吐くような特殊な訓練を重ねてきたのだろう。
それでも、にわかに信じられない話ではあるが。
「葵君は…… 未だに自身の神刀の力の影響を受けていないとでもいうのか?」
戌亥道明はもう一つのことにも驚く。
あの圧倒的な強さを見せながら、天辰葵は自身に宿る神刀の力に頼っていないという事実にだ。
「そういう事ですよね? 凄いですね、葵さん」
猫屋茜が素直に驚いているが、戌亥道明の驚きはそれどころではない。
自分に天辰葵を倒せるのか、それが難題となって重くのしかかってくるほどだ。
それでも、戌亥道明は勝たなくてはいけない。
もう一敗もすることも彼にはできない。できないのだから。
それは彼の誓いに反することだからだ。
「凄いなんてもんではないが。なら…… どんな神刀が葵君に宿っていると言うんだ」
天道白日。
すべての神刀の祖。その名が戌亥道明の頭の中に浮かぶが、それは、それだけはない。
あれは神の持つ刀だ。
天辰葵も人間離れしてはいるが、神と言うほどではない。
何より戌亥道明には、その神刀を宿す人物に心当たりがある。
「わかるときが楽しみですね!」
猫屋茜の無邪気なその言葉に、戌亥道明も同意せざる得ない。
と共に、その事実に恐怖すら感じている。
一体、これほどの、天辰葵という化け物の中に、どんな神刀が宿っているというのか。
「さて、お喋りは…… ここまでだ」
そう言って、再び喜寅景清は二本の刀を構える。
「いいよ。私も本気で行くから」
天辰葵も喜寅景清に応えるように刀を強く握り刀を構える。
少しのにらみ合いののち、先に動いたのは喜寅景清だ。
「虎襲影殺法」
喜寅景清はそう叫び天辰葵に飛び掛かる。
その姿はまさしく襲いかかる虎そのものだ。
だが、それだけではない。
飛び出した喜寅景清の影に太刀筋が巧妙に隠される。
影に隠され不可視となった刃が天辰葵に迫る。
天辰葵は大太刀の、剛健一實での一撃だけは避けたいと思っている。
月下万象で受けることもできるが、それだけで月下万象を折られかねない膂力を、先ほどの馬乱十風での薙ぎ払いを受けたときに感じているからだ。
理不尽すぎる膂力だ。
自分も大概人間離れしている自覚はあるが、この喜寅景清という男も十分に人間離れしている。
まともに打ち合いなどしていられる膂力ではない。
なので、天辰葵は神速、天駆を使って後方へと跳ぶ。
凄まじい剣圧を伴って大太刀、剛健一實が斬り上げられる。
が、それは既に天辰葵は退避した後だ。
だが、追撃とばかりに馬乱十風を、その場で天辰葵に向け何度か振るう。
馬乱十風は振るえば神風を呼ぶ神刀だ。
神風は真空の斬撃となり、後方に跳んだ天辰葵に襲いかかる。
天辰葵は真空で見えないはずの斬撃をいともたやすく月下万象で打ち払う。
それだけではない。
打ち払った後、即座に反撃に出る。
「滅神流、村雨散華」
その言葉と共に、天辰葵の姿が消える。
神速で行われるほぼ同時に放たれる三連撃。
喉、心臓、丹田を狙った人に向けて放てば、その一撃一撃が致命傷となる刹那の三連撃。
それを喜寅景清は、喉を狙った斬りつけを馬乱十風で防ぎ、心臓を狙った突きを剛健一實で防ぎ留め、丹田を狙った斬り払いを体をずらすことで、全てを防いで見せた。
村雨散華を放った後、天辰葵はそのまま喜寅景清と交差するように駆け抜け、そのまま距離を取る。
その時の天辰葵の表情は驚きを隠せていない。
「その技はもう見ている。俺には通じぬぞ」
「嘘でしょう。こんなふうに防がれたのは流石に驚きだね」
技自体を避けられる、と言うのは天辰葵も体験したことはある。
また酉水ひらりのように技自体を耐えられるという経験は、実は天辰葵にはある。
が、神速によりほぼ同時に放たれる三連撃をすべて防がれたのは初めてのことだ。
だが、驚いているだけではない、天辰葵はすでに次の技を仕掛けようとしている。
「無駄だぞ。その技も俺は既に見ている」
だが、それを喜寅景清に見抜かれる。
「凄いね、構えだけでわかっちゃうんだ。もしかして、未来とか見えてないよね?」
たしかに次に出す技、曙光残月は少し特殊な構えだ。
居合ではないのだが、居合のような構えになりがちだ。
喜寅景清が見抜けるのも分かる話だ。
だが、この技は来るとわかっていても、それこそ未来が見えない限り対処できるものでもない。
「未来どころか、俺の目には何も見えぬ。見えるものは虚ろばかり……」
そう言って、喜寅景清も備えるような構えをする。
その構えからかわすわけではなさそうだと、天辰葵にもわかる。
「盲目ってわけじゃないんだよね?」
技を見ていて、かわすのではなく受けれる気でいる喜寅景清に天辰葵は楽しくなる。
村雨散華ですら、全て防ぎ切ったのだ。
そのまま、簡単にやられるはずはないと。
「見えるが見えぬ」
天辰葵の煽り言葉に喜寅景清は真面目に答える。
自分の目はよく見える目ではあるが、節穴であると。
「ふーん、まあ、いいや。実際に未来も見えずに曙光残月がどう防がれるのか…… 私も見て見たいよ」
「愚かな。忠告はしたぞ」
と、喜寅景清は防げる気でいる。
天辰葵も自分の最速の剣に絶対の自信を持っている。
そもそも、人間が反応できる速さではないのだ。防げるわけがないと。
「滅神流、神域、曙光残月」
なぜ朝日に照れされた月が、滅神流最速の技にその名がつけられたのか。
天辰葵も知りはしない。
ただ事実として、曙光残月は最速の、速さのみを追い求めた、それこそ神の域に達する程の早さを得た斬り払いの一撃だ。
人間が、相手が人ならば、それこそ未来がわかっていなければ防ぎ様のない一撃のはずだ。
それを喜寅景清は剛健一實で受けきった。
月下万象と剛健一實が打ち合った瞬間、凄まじい衝撃波が天辰葵と喜寅景清を襲う。
喜寅景清はその場で耐えきり、天辰葵は衝撃波に乗るようにその場から離脱し、そのまま円形闘技場の床に片膝を着く。
喜寅景清は、剛健一實ではなく、馬乱十風を血でも振り払うように振り払う。
「痛てて、よくあの瞬間に斬り付けまで、できるもんだね」
まさか曙光残月を普通に受けられた上に、反撃も貰うとは思ってもみなかった。
天辰葵の顔に驚きの顔を隠せないでいる。
いつもの笑みが、余裕が、天辰葵の顔から消えている。
「流石に浅いか。実際に体験してみても、なお速い。恐ろしい技だ」
喜寅景清も右手が少し痺れているのを感じる。
早いだけでなく十分に重い一撃だ。
超神速で打ち出されるのだから当たり前といえば当たり前だが。
「それをいとも簡単に防がれたんですけどね」
精神的な負荷は天辰葵の方が大きいようだ。
最速の一撃を、二試合連続で防がれたのだから。
しかも、今度は未来を知るという能力でなく実際に刀で受けきられているのだ。
そのショックは大きい。
「葵様!」
斬られた天辰葵を心配して見守っていた申渡月子がその名を呼ぶ。
「大丈夫だよ、月子。掠っただけだし、私は勝つから……」
天辰葵はその声に応える様に立ち上がる。
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