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【ヤクソ・カクスィ-要するに第二話-】毒電波遮断怪人現る☆彡【ヴィースィ・ヴェーリ・ルク-五色の章-02-】

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 皆の戦いを見ながら私はヴァルコイネン・ケイジュというよくわからない名前のぬいぐるみ、いや、妖精だか精霊だかと会話を続けます。
 ついでに私はヴァルコイネンさんって呼んでます。
 まあ、しゃべって動く人形みたいな認識なんですけどね。
 皆が戦っているのにって? 一般人の私にはやることないですからね、仕方ないですよ。
「そりゃそうですよ。私はあの戦闘員のヴァルヨ? でしたっけ? ってのに、だってかなわないですから」
 アルミホイルを巻いた黒い全身タイツの人。
 それが毒電波遮断戦闘員・ヴァルヨって名前だったと思います。皆からの又聞きなので仕方ないですね。
 あんまり強くないらしく皆の敵ではないです。
 ついでに私が相手したら普通に殺されちゃうと思いますけど。
「君はただの一般人なんだゾ。当たり前だゾ。でも、君に宿った魔法少女の力は本物だゾ」
 そりゃ本物だろうと思いますよ、私も。
 目の前で氷の柱やらピンクのビームが飛び交っているんですから。
 そこに疑う余地はないですよ。
 でもね、私にはなんの力も出なかったんですよ。
 せめて変身能力くらいは欲しかったですよ。
 身バレは怖いですし。
 それに、こんな格好を友人やら、お母さんにでも見られたら、恥ずかしくて生きていけないですよ。
 だって、赤いメイド服風で、テカテカのつやつやで光沢があるような衣装ですよ? 見られたら恥ずかしいじゃないですか!
「私だって疑ってはないですよ。実際に私以外の人は、ああやって魔法の力で戦っているんですから」
 皆の方に視線を向けると、戦闘員をなぎ倒しているケルタイネン・アンバーくんちゃんを見ることができます。
 物凄い怪力で相手をけっちょんけっちょんにしていますね。
 ただ戦い方は、少し、なんていうか雑です。雑というか幼稚です。
 俗にいうところのぐるぐるパンチ? とかで攻撃していますし。
 それでも、それにあたった戦闘員は空高く飛び上がって地上に落ちて倒せているくらいの威力なんですけども。
「まさか魔法適正ゼロの人間がいるとは思わなかったゾ」
 私の胸の中でヴァルコイネンさんが、見上げるように私を見てそう言っています。
 ついでに抱き心地もぬいぐるみそのものですね。なんか抱いていると少し安心はします。
 そんなことはどうでもよくてですね。
 私の魔法適正能力はゼロだったんですよ。何もなしですよ。
 魔法少女はこの数値が大事で、ヴァルコイネンさんから貰った魔法力に、この数値を掛けたものが魔法能力の強さになるらしいですね。
 まあ、ゼロになに掛けてもゼロはゼロなんですよ。
 だから、何もなしってわけなんですけど。
 そんなわけで変身もできずに毎回ちょっと怪しげなコスプレ衣装を持ち歩き、その都度着替えている私という存在が出来上がったわけですよ。
「なんで私なんか選んだんですか」
 抱え込んでいるヴァルコイネンさんに聞くと、
「まずは魔法界のことはあんまり話しちゃいけないんだゾ。だから、この仕事を断らない人で、さらに信用のおける人間が第一の選考基準にしたんだゾ」
 という答えが返って来た。
 まあ、お決まりですよね。そう言うのも。
 ヴァルコイネンさんも正義のために来ているわけじゃなくて、敵になったか捕まったかわからないですけど、お仲間だか、弟だかを、秘密裏に回収したくて人間界に来ているだけらしいですし。
 それを手伝う報酬も普通に、円です、日本円です、お金ですし。
 なので私はバイトなんですよ。
「まあ、それはそうですよね。皆も断らなかったですしね。信頼のおける…… っていうのはわからないですけども」
 なにせ私も他の人達の素顔も名前も知らないですし。
 素顔は私だけバレちゃってるけど、私の本名は一応は名乗っていません。
 そんな関係、まさに仕事上だけの、バイト的な感じです。
「そうだゾ、魔法適正ゼロの君ですら断らなかったんだゾ」
「それは、まあ、お金を詰まれれば断りませんよ」
 とはいえ、ヴァルコイネンさんも私が魔法適応能力ゼロって、分かった時はすごい顔してましたけども。ぬいぐるみなのに。
 その上でもう魔法界の話をしちゃっていたから、とりあえずいるだけでいいし、さらにお金を積まれてこの仕事? バイト? を引き受けたんですよね。
 後悔はしてないけど、ちょっと身バレだけは怖いですよね。多分、命にかかわってきますし。
 でも、短時間でこれほど稼げるバイトなんて他にないですよ。
 それに皆が強すぎて、こちらの一方的な戦闘にしかなってないから、まあ、平気かな? とは思っています。
「この世界の人間は物欲が高くて助かっているんだゾ」
「ねえ、私がいなくても皆平気じゃないですか?」
「それは違うゾ、言ったはずだゾ? 君の中の力は本物なんだゾ。君が魔法を使えない分、その分の魔法力が皆にいきわたるんだゾ。つまり君がそばにいるだけで他の人はパワーアップしているってことなんだゾ」
 と、いうことらしいです。
 これが私がコスプレまでして、この場にいる理由ですね。
 まあ、そのおかげかどうかは私にはわからないけど、戦闘は確かに一方的なんですよね。
「その話はもう聞いていますよ。それを抜きにしても、私いらないんじゃないって話ですよ。身バレでもしたら命狙われるんでしょう? さすがに怖いのですが」
 それだけが怖いですね。
 せめて変身能力だけでもあれば良かったのですが。
「そのためのコスプレなんだゾ。夜なべして作ったんだゾ」
 自分が来ている衣装を見ます。
 メイド服風でちょっと恥ずかしいです。
 なんかてかてかと艶のある素材で作られていますし。ちょっといかがわしい感じがするんですよね。
「なんかこの服、恥ずかしいですし」
 私がそう言うとヴァルコイネンさんはその言葉を無視しました。
「それに戦闘員相手なら平気だろうけど、怪人が出てきたらそうも言ってられないんだゾ」
「今日はでるんですか?」
 何度か怪人と呼ばれる存在が出てきたけど、やっぱり皆がボコボコにして、それで終わりでした。
 ピンチのピの字もないです。苦戦したところなんて見たことがないですね。
「今日は戦闘員が多いし恐らく出るゾ」
「そか、今日はヒーローショーが見れるんですね」
 私はそんなことを言って今日はどんな怪人が出るのか気になります。
 なにせ、ほとんどの怪人は虫が素体、というか、そのまま虫が人間大まで巨大化しているだけで、とても気持ち悪いんですよ。
 遠目で見ている分にはまだいいんだけど、近くで見たら吐くかと思ったくらい気持ち悪いです。
 特にお腹の部分とか私はダメです。気分が悪くなります。
 考えてもみてくださいよ、人間大の虫ってだけで気持ち悪いのに、それが流暢にしゃべったりするんですよ?
 もうね、何とも言えない感覚に襲われますよ。
「ショーじゃないゾ……」
 と、少し哀愁を漂わせる声色でヴァルコイネンさんが言ってきます。
「そうは言ってもねぇ、私にはやることないんですよ」
 一般人の私が向こうに行っても邪魔になるだけなんですよね。
「そうれはそうだゾ。もし君に死なれたら始末書どころじゃないんだゾ。戦闘に参加するのは絶対ダメなんだゾ」
「私も参加する気はないですよ。離れた位置で応援してるのだって怖いんですから。それにこれ以上近づいても邪魔なだけですし」
「それは、そうなんだゾ」
 ヴァルコイネンさんも同意したところで、ビルの合間を縫って怪しい人影が飛来するのが見えます。
 ヴァルコイネンさんの言っていた通りとうとう怪人のお出ましのようですね。



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