竜狩り奇譚

只野誠

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竜狩り奇譚

竜狩り奇譚:【第一話】塔に住み着いた竜とボケた老王と奇妙な同行者

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 ルフェーブル王国にある、その用途もわからない古くからある古塔。
 古の魔術の塔とも、古代の灯台とも言われる謎多き塔。
 そこに竜が住み着いたという知らせが入り、王都を騒がせた。
 それから三日、ときの国王フセフ・ルフェーブルは有志を国中から募り竜の討伐を試みる。
 これはそんな有志、いや、勇士達の竜狩りの奇妙な物語…… 言うならば、これは竜狩り奇譚である。

 国王の長話が続く。
 興が乗ったのか、ボケているのか、それは国王以外誰にも分らないが、竜とは全く関係のない老王の若き日の自慢話が永遠と繰り広げられている。
 それを止めようとした大臣の一人が国王に殴り飛ばされて、それでも老王の長話が続く。
 はじめは聞いていた者達も、今は誰一人として聞いていない。
 今は、いや、本来は、竜狩りに集まった有志達を集め鼓舞するための会で、先に竜を討伐した際の褒賞を王様に願う場だ、そういった場だったはずだ。
 ただ王様は褒賞の願いを聞くようなそぶりを全く見せずに長話に興が乗り延々と話し続けている。
 だからだろうか、集まった者達は各々で話し出す者も出てきている。
「そんな感じで集まったのがここに居る英雄達ってことなのですよね?」
 この国の貴族令嬢であるコラリー・マッソンは一人の全身鎧を身に着けた騎士風の男に語り掛けた。
 全身鎧の男は兜の面を上げて、話しかけてきた女を一瞥する。
 兜から覗くその顔は初老には、まだ満たない年齢ほどの男の顔だった。
「どこぞの貴族の令嬢ですかな、なぜこのような場所に?」
 全身鎧の男は話しかけられた女の格好と立ち振る舞いを見てそう判断した。
 そして、それ相応の態度で接して見せる。
「もちろん竜退治に、です」
 コラリーはさも当然と言うようにそう言った。
 姿勢も容姿も美しいコラリーだが、戦闘訓練を受けているようには見えない。
 ただ、その言葉で全身鎧の男は態度を改めた。
 無論、貴族の令嬢を相手にするのではなく、世間知らずの女を相手するようにだ。
「嬢ちゃんがか?」
 と、全身鎧の男は訝しむ。
「はい」
 と、意志の強い返事を返すコラリーだったが、
「あー、とりあえず他を当たってくれ」
 と、全身鎧の男はめんどくさそうに返事を返す。
「それはなぜ?」
 驚いたようにコラリーは聞き返す。
「面倒事は、まあ、面倒だからだ。だから面倒事なんだ」
「なにか哲学的な言い回しですわね」
 と、コラリーは少し感心したようにうなずくが、全身鎧の男は渋い表情を見せる。
「ただ言葉が浮かばなかっただけじゃよ」
 そう言って、恥ずかしかったのか全身鎧のとこは兜の面を下げた。
「あなた様こそ、その恰好は騎士様ではないのですか?」
 コラリーは確信をもってそう全身鎧の男に話しかける。
 もう兜の面が閉じられたので全身鎧の男の表情をもう窺い知ることはできない。
「ワシは…… ただの騎士崩れ、いや、ただの戦士のようなものさ」
 少しうんざりとしたように全身鎧の男はそう言った。
「私と同行していただければ、当家で召し抱えても良いですよ」
 コラリーは自慢気にそう言った。
「へぇ、どこのお貴族様で?」
 全身鎧の男は若干呆れながらもそう聞き返す。
 騎士になどなるつもりはないが、この世間知らずのお嬢様がどこの貴族なのかは気になるところだ。
「マッソン家です」
「マッソンって言えば…… そこそこのお家柄じゃないですか。そのご令嬢がなぜ竜退治に?」
 コラリーが嘘をついているとは全身鎧の男は思わない。
 立ち振る舞いは貴族のそれだし、貴族の身分を詐称するだけで罪となる。
 ここには周りには本物の騎士や兵士もいる。
 当たり前だ、ここは王城の謁見の間なのだから。
 コラリーの話も騎士や兵士に聞こえているはずだ。なのに何も咎めてこない、ということは、この娘が本物だということを既に知っているからなのだろう。
 ただマッソン家は武勲のみで成り上がった貴族だ。
 その家の者が娘とはいえ、武術を何も学んでないのは少し変だ、と全身鎧の男は思っていた。
「家出をしたので、そのついでに、と」
 コラリーは堂々、まるで自慢するようにそんなことを発言した。
 その言葉に周りの者も多少気にしだすが、コラリーも全身鎧の男も全く気に留めてはいない。
「ああ、わかった。やっぱり他を当たってくれ」
 全身鎧の男は、全力で関わりたくないと願った。
 家出をして、恐らく行く当てもなく王城に逃げ込んで、そのついでに竜退治をすると思いつくような貴族と付き合っても碌なことにならない。
「でもほら、他の方々、ごろつきに見えません? 話しかけるのもはばかられます」
 確かに今この時、謁見の間には竜狩りに来た英雄というよりは、街の鼻つまみ者、ゴロツキ、傭兵崩れ、と言った連中が多く見受けられる。
 本気で竜退治を、というよりはイチかバチか、あわよくば、おこぼれを、そう言った感じの者も多いように思える。
「それで見た目だけでも騎士っぽいワシにか?」
「はい」
 と、コラリーは笑顔で頷く。
「ワシも恰好こそこんなんだが、やつらと変わらん中身だぞ。悪いことは言わん、家に大人しく帰んな」
 そう言って全身鎧の男はめんどくさそうにそう言った。
 ただその言葉を聞いたコラリーはニヤリと笑みをこぼした。
「あなた、やっぱりいい人ですわね、あなたに決めました。お名前は?」
「頼むから話を聞いてくれ」
 と全身鎧の男はため息交じりに愚痴を漏らす。
「お名前は?」
 コラリーは再度強い口調で聞いてくる。
 その口調の強さは拒否権などない、と言っているかのようだ。
「ギョーム・アーメッドだ」
 全身鎧こと、ギョームは観念したかのように、周りに聞こえないように小さな声で名を名乗る。
 あまり名乗って楽しい名でないことはギョーム本人がよくわかっている。
「アーメッド? って、あの? ですか?」
 コラリーは目を真ん丸くして驚きながらその名を大きな声で繰り返す。
 アーメッドの名が謁見の間に響き渡り、その名を聞いた者の注意を惹きつける。
 そのことに閉じられた兜の中でギョームは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「ああ、そうだ。わかったろ、ワシにかまうな、ろくなことにはならんぞ」
 その名を聞けば、この世間知らずのご令嬢も去るだろうとギュームは考えていた。
 それほどまでにアーメッドの名は呪われた名として知られている。
「でも、もう決めました。あなたと共に竜を討ち、その上で我が家で召し抱えます。そうすれば、その汚名も消えると言うものです」
 しかし、コラリーは呪わしアーメッドの名に怯むこともないようだ。
「いや…… 今更、騎士になる気もない、それにワシには…… まあ、なんだ。やることがある」
 そうつぶやくのだが、その言葉はコラリーの耳には入らないようだ。
「アーメッド…… あの、ギョーム・アーメッドとは、あなたのことですかな?」
 普通ならアーメッドの名を知って近づいてくるものなどいない。
 そんな悪評を持つのがアーメッドの名なのだが、目の前の貴族令嬢はその名に怯まない。
 時として似た者同士は引かれ合うものだ。
 アーメッドと聞いて、避けるどころか寄って来る者がまだいるようだ。
「あ? 誰だかわからなんがな。まあ、そうじゃ」
 そう言ってギョームが振り返ると、そこには目の下に酷い隈を持つ痩身の男がいた。
 痩身の男はあまり見ない暗い色の法衣を身にまとっている。
「ならば、拙僧も同行させていただきたいのですが?」
 痩身の男は仰々しくお辞儀をしギョームをじっとその返事を待つように見つめている。
「あなた様は?」
 しかし、先に反応したのはコラリーだった。
 まるで、この男と話すなら、先に私のほうに話を通せと言っているかのようだ。
 ギョームはそんなコラリーを兜の中から白けた目で見ている。
「拙僧はフィラルド教の……」
 と、痩身の男が言ったところで、コラリーが即座に反応する。
「邪教じゃないですか」
 その声に再び、謁見の間にいる者達がギョーム達に視線を送る。
「まとめてどっか行ってくれないか?」
 兜で見えないが、心底うんざりとした表情でギョームはそう言ったが、目の前の二人にはその声はまるで届いていないかのようだ。
「フィラルド教は邪教ではありませんぞ。ただちょっとこの国では布教が認められてないだけですぞ。なので竜狩りをし、その功績でこの国にもフィラルド教の教えを広めることを許していただくためにですね……」
 痩身の男はそう力説してくるが、ギョームもそろそろ堪忍袋がはち切れそうになっている。
「やかましいわ! なんで訳の分からん連中が集まってくるんだ」
 怒気を放ちギョームは叫ぶが、痩身の男はきょとんとした、わけもわからない、と言った表情を見せるだけだった。
 ついでにコラリーはギョームの後ろに立ち、すべてわかっている、とばかりに頷いているだけだ。
 自分も怒鳴られた対象だとはこれっぽっちも思ってないようだ。
「だって、あのアーメッドなのですよね?」
 と、痩身の男は聞き返してくる。
 その言葉にギョームのほうが心折れる。
「ただ単に名だけが独り歩きしただけじゃ」
 ため息交じりにそう声を出す。それと同時に怒気も抜け落ちていく。
「拙僧はその他の褒賞は辞退させていただきます故、どうにか! アーメッド殿!!」
 痩身の男がこれまた大きな声でそうギョームに向かって懇願する。
 ついでに王様に願える褒賞は一人一つだけなのでそれ以外もクソもない。
「ええい、その名で呼ぶな!」
「アーメッド? あの? ですか?」
 再びアーメッドの名を聞いて声をかけてくる物好きな者がいる。
「またか、って、何じゃおぬし……」
 そう言って、その声の方をギョームが視線を送り、その思考を停止させる。
 浅黒く日焼けした筋肉質の大男がいた。
 ギョームが今日ここで声を掛けられ中で一番あやしい格好をしている。
 上半身は裸だ。
 下半身は黒いビキニパンツ一丁なのだが、一応腰ミノは付けている。ただし黒い鳥の羽で作られていて前だけは開いているので黒いビキニパンツは丸見えとなっている。
 更に女性物と思われるヒールが高い靴をなぜか履いている。
 その上、髭面でなぜか紅い口紅だけはしっかりと塗られているのも不気味だ。
 あと腰ミノと同じ素材の羽を額に一枚つけている。まるでチャームポイントと言っているかのような飾りだが異様さに拍車をかけているだけだ。
 その姿にギョームの思考を停止させるほどには異様だ。
「サイモン・ガレドという呪術師です」
 そう言ってサイモンは丁寧にお辞儀をした。
 それを聞いた者全員が、その図体で呪術師なのか、と心の中で思ったことだけは間違いがない。
「拙僧は、サービ・ジュジュですぞ、以後お見知りおきを」
 慌てて痩身の男、サービが名乗りを上げる。
 ギョーム、サイモン、サービを見回し、コラリーは大きく頷いた。
 そして口を開き、
「後は斥候役が欲しいですわね、できれば女性がいいですね。さすがに男だけですと、むさ苦しいですし、なにかと不安ですので」
 と、遠慮などなしにそう言い切った。
 その言葉にギョーム以外、サイモンとサービは深く頷き同意した。
「なに勝手に決めておる」
 半ばもう無駄だと思いつつもギョームはそう抗議の声を上げるが、それに反応するものはいない。
 その代わり、新たに声をかけてくる者がまた一人現れる。
「斥候役を探してるんですか?」
「あなたは?」
 と、都合のいい耳を持つコラリーが返事をする。
「ボクはカディジャ・オセアンです。狩人兼密偵兼、美少女です」
 と、自己紹介をする。
 自分で言っている通り、たしかに目鼻立ちの整った美しい娘である。
「密偵?」
 と、コラリーが聞き返すと、カディジャはあからさまに慌て始める。
「あっ、言っちゃいけないんだった。忘れてください、もしくは死んでください!」
 そんな物騒なことを言ってくるが、コラリーはそれも聞いていない。
「揃いましたね」
 そして、ギョーム、サイモン、サービ、そして、新たに加わったカディジャの顔を見てまわりそう言った。
「頼むから、帰ってくれ」
 ギョームの消え入りそうな声は誰にも届かない。
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