22 / 61
第5話 黒川さんの逆鱗(★5)
彼らは何故覆面を被るのか
しおりを挟む
「鱗?」
僕が思わず聞き返すその顔は関さんにとっては見慣れたものらしく、面白くなさそうに小さくため息をついた。
「そう、鱗。具体的には、魚のね」
「魚の鱗をどうして人間の女性が何枚も持ってるんです」
「そもそも」
関さんは僕の問には答えず、まずは黙って聞けとばかりに語気を強める。
「Abo、Man with a coM-Mission、Bluuuue、コルシカ。最近だとRock姉。彼らに共通するのは何かしら」
「音楽性が評価されてるアーティストで、若い層にエモいって言われてる、とかですか?」
「加えて」と水樹は割り込んだ。
僕に悪いと思いながらも、確信がある声色だった。
「全員顔を出していない、ですよね関さん」
「問題は、何故顔を隠すのか。それは、彼らには共通して鱗が生えているからなの、彼らは皆、セイレーンの末裔なのよ」
うん?なんだって?
随分と話が飛んだ気がするぞ?
「その魅力的な声で舟人を惑わせていた、ギリシャ神話に出てくる人魚みたいな怪物だな」
水樹はなんで造詣が深いの?
「しかも全員、ライブなどのステージにこの形の鱗が落ちているのよ、顔を明かしてしまえばファンに付きまとわれる。今までこっそりと処理していた生え変わった鱗も見られるかもしれない。だから、顔を隠しているの」
「要は彼女も覆面アーティストの一人だ、と」
関さんは頷いた。
その目は至って真面目だ。
そういう界隈の人なのだから当たり前なのだろうが、それでも真に迫るものがあった。
「鼻唄が綺麗で鱗を落としている、状況証拠が揃いすぎているの」
「確かに。彼女の半身が魚だと考えれば、水を浴びてテンション上がるのも理解できるし、何より腕に鱗が生えてるなら頑なに隠すのも無理はない」
水樹は手で口許を覆って、ううむと唸る。
僕だけが着いていけずポカぁ~ンとした顔で眺めていると、関さんはキッと睨んできた。
「危機感ないのね、貴方。海上保安庁の特殊工作員が常に陸に上がったセイレーネスを狙ってる。貴方たちに危害が及ぶのも時間のうちよ」
その後関さんとイルミナティカードでひとしきり遊んだ僕らは、会社への帰路に就いた。
道中、ワイヤレスイヤホンをつけて何かを聞いていた水樹だったが、片方を外して僕に差し出す。
「これ、お前の聞いた黒川さんの声と比べてどうだ?」
言われるがままにイヤホンを着けると、共感性の高い歌詞がスッと耳元に入ってきた。
ーーちがう、ちがうの
ーースープじゃないし、海老もいらないの
ーーだって私がほしいのは
ーートムヤムクンじゃなくて
ーーナシゴレンだから woo...
激しいエレキギター一本のサウンドと、透き通るような声。
歌詞や歌声こそ昨今のエモーショナルロックの潮流を汲みながらも、サウンドはアップテンポなパンクロック調。
「これ誰の曲?」
「Rock姉だよ。今TikTokでバズってるシンガーソングライター」
関さんも言っていた、顔を隠して活動しているアーティストの一人だ。
初めて聞いたが歌詞とサウンドのチグハグさが癖になりそう。
「で、声は似てたか?」
「うーん、似てないと思うけど」
これは本当だ。
僕にはどうも黒川さんの声には聞こえなかった。
Rock姉と比べると、黒川さんの声はもう少しハスキーだった気がする。
「なるほどな、わかった」
水樹はそう言って懐にイヤホンをしまい、再びいつものように砕けた口調に戻った。
「イルミナティカードによれば今年の大統領選は共和党が勝つって話、マジだと思う?」
僕が思わず聞き返すその顔は関さんにとっては見慣れたものらしく、面白くなさそうに小さくため息をついた。
「そう、鱗。具体的には、魚のね」
「魚の鱗をどうして人間の女性が何枚も持ってるんです」
「そもそも」
関さんは僕の問には答えず、まずは黙って聞けとばかりに語気を強める。
「Abo、Man with a coM-Mission、Bluuuue、コルシカ。最近だとRock姉。彼らに共通するのは何かしら」
「音楽性が評価されてるアーティストで、若い層にエモいって言われてる、とかですか?」
「加えて」と水樹は割り込んだ。
僕に悪いと思いながらも、確信がある声色だった。
「全員顔を出していない、ですよね関さん」
「問題は、何故顔を隠すのか。それは、彼らには共通して鱗が生えているからなの、彼らは皆、セイレーンの末裔なのよ」
うん?なんだって?
随分と話が飛んだ気がするぞ?
「その魅力的な声で舟人を惑わせていた、ギリシャ神話に出てくる人魚みたいな怪物だな」
水樹はなんで造詣が深いの?
「しかも全員、ライブなどのステージにこの形の鱗が落ちているのよ、顔を明かしてしまえばファンに付きまとわれる。今までこっそりと処理していた生え変わった鱗も見られるかもしれない。だから、顔を隠しているの」
「要は彼女も覆面アーティストの一人だ、と」
関さんは頷いた。
その目は至って真面目だ。
そういう界隈の人なのだから当たり前なのだろうが、それでも真に迫るものがあった。
「鼻唄が綺麗で鱗を落としている、状況証拠が揃いすぎているの」
「確かに。彼女の半身が魚だと考えれば、水を浴びてテンション上がるのも理解できるし、何より腕に鱗が生えてるなら頑なに隠すのも無理はない」
水樹は手で口許を覆って、ううむと唸る。
僕だけが着いていけずポカぁ~ンとした顔で眺めていると、関さんはキッと睨んできた。
「危機感ないのね、貴方。海上保安庁の特殊工作員が常に陸に上がったセイレーネスを狙ってる。貴方たちに危害が及ぶのも時間のうちよ」
その後関さんとイルミナティカードでひとしきり遊んだ僕らは、会社への帰路に就いた。
道中、ワイヤレスイヤホンをつけて何かを聞いていた水樹だったが、片方を外して僕に差し出す。
「これ、お前の聞いた黒川さんの声と比べてどうだ?」
言われるがままにイヤホンを着けると、共感性の高い歌詞がスッと耳元に入ってきた。
ーーちがう、ちがうの
ーースープじゃないし、海老もいらないの
ーーだって私がほしいのは
ーートムヤムクンじゃなくて
ーーナシゴレンだから woo...
激しいエレキギター一本のサウンドと、透き通るような声。
歌詞や歌声こそ昨今のエモーショナルロックの潮流を汲みながらも、サウンドはアップテンポなパンクロック調。
「これ誰の曲?」
「Rock姉だよ。今TikTokでバズってるシンガーソングライター」
関さんも言っていた、顔を隠して活動しているアーティストの一人だ。
初めて聞いたが歌詞とサウンドのチグハグさが癖になりそう。
「で、声は似てたか?」
「うーん、似てないと思うけど」
これは本当だ。
僕にはどうも黒川さんの声には聞こえなかった。
Rock姉と比べると、黒川さんの声はもう少しハスキーだった気がする。
「なるほどな、わかった」
水樹はそう言って懐にイヤホンをしまい、再びいつものように砕けた口調に戻った。
「イルミナティカードによれば今年の大統領選は共和党が勝つって話、マジだと思う?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる